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最凶の人生~思考盗聴器と共に生き、本当に一度死んだ男~  作者: 時田総司(いぶさん)
7章 天国から地獄へと墜落した大学編

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1 人は名前と住所を幾度も刻み続けることで大人になっていく

 新幹線、鈍行列車、バスと乗り換えて、時田とシゲミはとある大学の寮に辿り着いた。入寮審査に通ったため、寮での生活が始まるのだった。



時田は、不安だった。



 思考盗聴器による監視はもちろん、音声送信により、勉強に支障が出ないか、身元などの個人情報が洩れて、思考盗聴器を作った、反社会組織に命を狙われないか、等、様々な不安を持ったままの入寮だった。


 しかし希望もあった。それはごく僅かなモノだった。


 地方では思考盗聴器を使われたが、首都圏ではそんなモノに興味を示す者はいないのではないか、という希望だ。奇妙で、興味をそそる思考盗聴器かも知れない。しかし、高校の時の様に、実在する人間と、それが確認でき無ければ、ただの意味のない文字列のようなものだろう。一部の人間しか、それを所持できないはずだ。


 もしかしたら――、前のような生活を――。


 それは本当にごく僅かな希望だった。息を吹きかければ、消えてしまいそうな――。


「ふーん、あれが時田君か」



「!! !! !!」



 寮の玄関でのコトだった。見知らぬ女が、時田を見て言った。


 やっぱり――。


 時田の生活は元通りにならない事が決定した。

 シゲミはその声に気付いていない様だったが、時田の顔色の悪さには気が付いていた。


「本当に大丈夫なんな?」

「うん……」


 シゲミは実家に帰ろうと、振り向き、歩き出す。


(あっ……待って……)


 その思いは声にならなかった。そして時田の大学生活が始まる。



 ――、


 シゲミは寮から去って行った。


『何しょうるん?』

『うわー狭い部屋』


 しかし相変わらず、音声送信は鳴り止まない。


「……」


 さて、どうしたものか……。時田は備え付けのベッドに座り、黙り込んだ。


 ひとまず、寮の食事を取るため、食券を買いに、時田はロビーへ移動した。

 一ヶ月分の朝昼晩の食事で、三万円か。仕送りの殆どが無くなるな。後は、食券を無くさない様にしないと……。


 部屋に戻る途中、見知らぬ誰かに声を掛けられた。



「時田君! ……って言うんだっけ?」



「?」


「時田、梅って言うんだ。同じ○○高校の出身なんだ」


「! あ……梅君、時田って言います。宜しく」


 梅君と顔見知りになった。案外、自分から動かなくとも人間関係は作られていきそうだ。成り行きで部屋に案内された。時田の部屋とは打って変わって、温かみのある部屋だった。


(写真立てに……絨毯? もある)


「いい部屋だね」

「でしょ?」


 時田は少しだけほっこりとした時間を味わった。

 その夜、大浴場にて――


「シャ――」


 時田はシャワーを浴びる。浴室には、湯が張ってなかった。三月というのに、寒い。


(首元を温めないと……)


 時田はシャワーのお湯を、時間の許す限り首元に当てた。



 ――、


 脱衣所にて――、


(やっぱり、寒い)


 時田はその寒さに、その年の関東の不気味さを覚えた。まるで時田がこの土地に来るのを拒むかの様な、そんな寒さだった。


 寮に入ってからおよそ5日が経っただろうか。学校のオリエンテーションの日が来た。相変わらず音声送信がうるさい。


『総司君!』


(るせっ! 今聞き逃しただろうが!! 講義始まってからもそんなんだったら許さんからな?)


 オリエンテーションは音声送信により、少々問題があったが、表面上の支障はなく、無事(?)終わった。


 寮に帰ると、大量の書類を記入する作業が待っていた。


(何たってこんなに住所や名前を書かなければならんのだ……)


 心の中で文句を言いながら、自室で書類の記入をするのだった。その時の時田は、大学での本当の苦労はこんなものじゃあないと、知るよしも無かった。

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