14 とある大学の野球伝 4点ビハインド、2アウト満塁、代打・時田
あの『声』から、3週間――。
外に出るのも恐くなって、必要最低限の外出に控える生活が続いた。
最低限――。主に食品の買い物とアルバイト、部活には長期休暇前と同じように出掛けていた。
(今日は練習試合の日だ。珍しく、監督が使ってくれる)
あと1カ月程で大学二年目となる部活だが、遂に試合に使ってもらえるようになっていた。姉妹校の身内贔屓の監督も、何故か(多分気まぐれ)本校に居る時田を使ってくれる。
(この練習試合をモノにして、レギュラーを勝ち取る……!!)
部活の時間は思考盗聴器も、例の『声』の事も忘れられた。このスポーツが無ければ時田はたぶんではあるが、廃人になっていただろう。
(野球をこの世に生んでくれた誰かへ、感謝)
試合が始まった。ベンチスタートだったが、代打で出番があると言われていた。
「相手、140キロ投げて、ノンプロ(社会人野球)の内定貰ってるって! お前ら、うらやましいなぁ! 今日はそんな奴と対戦できるかもしれんぞ!」
コーチの言葉を聴き、胸が弾んだ。
140キロを……打つ!!
時田は、常に緊張感のある状態で練習をしてきた。常に試合を想定し、練習してきた。
素振り一つ、9つのコースを考えて、振る。球種をイメージして、振る。重りを二つバットに付け、2キログラムに迫るバットを振っていた。
2部のリーグ内で、巧さでは劣るが、スイングスピードは誰よりも速かった。そこまで成長した!
(その成果を……ここで……!!)
試合は予想通りの一方的な展開で、終盤4点差に――。未来のノンプロが居るチームに、素人監督率いるへぼチームが何かできるでもなく、9回を迎えた。
(140キロ投げるヤツ。今日は寒いし、怪我考慮して出さないか……!)
その時、相手監督が動く――
「ピッチャー交代」
9回、ランナーが出たところで、1点もやらないつもりだろう。例の投手がマウンドに上がった。
「ビュンッ……パァン!!」
時田はその投球練習を眺める。
(140キロ……大したこたぁねーな。寒いから、125キロくらいしか出てねーや。……出番まだ?)
ここで試合展開は、思わぬ方向へなだれ込む。
「ボー! フォア!!」
「まただ……」
「おいおい」
連続フォアボールで、2アウトながら、満塁となってしまったのだ。ここで、こっちの監督も、動く――
「行くぞおい……しんぱーん。代打、時田」
「!」
時田の出場がコールされたのだった。
(はっはっはっは!! 満塁ホームランで、同点!! 連続ホームランで、サヨナラ!!)
大学野球をしている時の時田は、やけにポジティヴだった――
「お願いします」
打席では丁寧なあいさつ。
(初球、お手並み拝見)
打者時田は、マウンドに不敵な面構えを見せつけた。
「……」
ノンプロ投手から、白の閃光が伸びる!
「!!」
打席で見た威力――その球は唸りを上げて、時田に襲い掛かった。
「パァン!」
「ストラーイク!!」
キャッチャーのミットが、やけに大きな音を出したように感じた。
(はっや! 速い! シュートした!! くっそー……)
『無理じゃろうな』
『打てんか……』
ワンプレーのインターバル――、
我に返った頭には、音声送信が響くくらいに冷静だった。
時田は打席の立ち位置を変えた。キャッチャー側に下がったのだ。
手も足も出ない。
球場の誰もがそう感じていた。
しかし、時田だけは違った。
立ち位置を変えた時田は、ホームベース寄りに、軸足を近づけていたのだった。
――
「!!!」
「カッ!!」
ノーボール、1ストライク、2球目――
一振りでとらえられたその打球は、
ピッチャーのグローブを掠め、
ノーバウンドで内野陣の守備を超えていった。




