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第96話 学校での一日

学校への道すがら、ルカは無意識に写真を撮り続けた。村の風景、朝霧、通学路。なぜか「記録しなければ」という使命感に駆られて。


シャッターを切るたび、不思議な感覚がある。まるで、誰かと一緒に撮っているような。ファインダーを覗く時、隣に誰かがいて、一緒に構図を決めているような――


「おはよう、ルカ」


親友の美咲が声をかけてきた。活発な少女は、今朝も元気いっぱいだ。


「最近、ぼーっとしてること多いよ?大丈夫?」


「うん...なんか、忘れ物してる気がして」


「忘れ物?」


「うまく言えないけど...大切な何かを忘れてる気がするの」


美咲は心配そうに覗き込んだ。親友の顔を見ていると、少し安心する。でも、同時に物足りなさも感じる。まるで、もう一人親友がいたような――


「確かに最近のルカ、ちょっと変。いつも誰かを探してるみたい」


「探してる...」


その言葉がしっくりきた。そう、自分は誰かを探している。でも、誰を?


教室に入ると、いつもの席に座る。でも、なぜか隣の席が気になる。誰も座っていない、ただの空席。なのに、そこに誰かがいるべきような気がして。


「ねえ、前にこの席、誰か座ってた?」


美咲に聞いてみるが、首を振られる。


「ずっと空席だよ。クラスの人数、ちょうどだし」


そう言われれば、そうかもしれない。でも、違和感は消えない。


■美術の授業


美術の授業で、ルカは無意識のうちに絵を描いていた。今日のテーマは「大切な人」。でも、何を描けばいいのか分からなくて、手を動かすままに任せていた。


気がつくと、紙の上に人物が描かれていた。


白い着物の女性の後ろ姿。長い黒髪が、風に揺れている。優しい雰囲気が、線の一つ一つから伝わってくる。


「あれ...私、これ描いたの?」


自分でも驚いた。こんなに繊細な絵を描けたことがない。まるで、誰かが手を導いてくれたような――


でも、顔は描けない。描こうとすると、手が止まってしまう。何度も試みるが、顔の部分だけは空白のまま。


「素敵な絵ね」


田村先生が覗き込んだ。美術教師の目にも、この絵は特別に見えたらしい。


「でも、なんだか寂しそう。会いたい人?」


「...分かりません。でも、とても大切な人だった気がします」


「だった?」


過去形で言ってしまったことに、自分でも驚く。


「いえ...今も大切なはずなのに、誰だか思い出せなくて」


涙がこぼれそうになった。名前も顔も分からないのに、なぜこんなに胸が痛むのだろう。


「無理に思い出さなくてもいいのよ」


田村先生が優しく言った。


「でも、その人への想いは、この絵にちゃんと表れてる。それで十分じゃない?」


先生の言葉に、少し救われた気がした。


でも、やっぱり思い出したい。この人が誰なのか、なぜこんなに大切なのか。


■健司との出会い


放課後、校門で健司が待っていた。この一ヶ月、時々こうして会いに来てくれる。理由は聞いたことがないが、なぜか断れない。いや、断りたくない。


「ルカちゃん、今日はどうだった?」


「普通です。でも...」


「でも?」


「また、あの人の絵を描いてしまって」


ルカはスケッチブックを見せた。美術の授業で描いた、白い着物の女性の絵。


健司の表情が変わった。驚きと、そして深い悲しみが混じったような顔。まるで、その絵の人物を知っているかのような――


「健司さん?」


「...不思議だな。俺も最近、似たような夢を見るんだ」


「夢?」


健司は遠い目をして語り始めた。


「白い着物の女性が出てくる夢。顔は見えないんだけど、すごく優しい感じがして」


「それ、どんな夢?」


「いつも同じ。その人が遠くへ行こうとして、俺が必死に引き止めようとする。でも、声が届かない。手も届かない」


健司の声が震えている。


「そして、最後にその人が振り返って、何か言うんだ。でも、声は聞こえない。ただ、口の形が『愛してる』って」


二人は顔を見合わせた。同じような体験をしている。これは偶然ではない。


「私たち、同じ人の夢を見てるのかな」


「多分...いや、きっとそうだ」

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