第58話 命の熱
新しい感覚が芽生えていた。
人の生命力が、熱として感じられる。
健司の熱は深く穏やかで、海のような広がりを持っている。医師としての慈愛と、男性としての強さが混じり合った熱。
ルカの熱は若々しく輝いていて、太陽のような明るさがある。希望と勇気に満ちた、美しい熱。
二人の熱に包まれて、恐怖が少しずつ薄れていく。
見えなくても、一人じゃない。
■新しい「見る」方法
手探りで——いや、感覚はないが——魂写機を構える。
シャッターを切る。
すると、不思議なことが起きた。
写真を撮った瞬間、その場の生命の熱が、一瞬だけ「見えた」ような気がした。
もちろん、視覚的に見えたわけではない。でも、熱の配置、強さ、質感が、立体的に把握できた。
これが、新しい「見る」方法。
心で見る、魂で見る。
■帰路での発見
山を下りる時、チヨは健司とルカに導かれて歩いた。
見えない世界は恐ろしいが、二人の存在が支えてくれる。
途中、様々な生命の熱を感じた。
木々の静かな熱。
鳥たちの小さく激しい熱。
そして、村に近づくにつれて、人々の生活の熱。
すべての生命が、熱として存在を主張している。
見えなくても、世界は生きている。
■写し世の光
不思議な体験をした。
完全な暗闇の中で、時折、かすかな光を感じる瞬間がある。
それは普通の光ではない。もっと別の次元の光。
写し世の光。
現世では失った視覚も、写し世でなら通用するのかもしれない。
その光の中に、うっすらと人影が見える。
白装束の女性たち。歴代の巫女たちだろうか。
皆、優しく微笑んでいるような気がする。
「もうすぐよ」
「あと少し」
「頑張って」
声は聞こえない。でも、そんな応援が伝わってくる。
■健司の決意
家に戻ってから、健司が何か伝えようとしている。
地面に文字を書いているが、もう見えない。
でも、彼の熱が激しく燃えている。決意と愛情の熱。
きっと、また何か約束をしようとしているのだろう。
「必ず助ける」とか「方法を見つける」とか。
この人の優しさと一途さが、愛おしくてたまらない。
でも、もう伝える術がない。
ただ、頷くことしかできない。




