朝食の談笑
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俺たち特務遊撃部隊の兵舎に併設された食堂は、普段は殺風景なものだが、今日は新人を迎えたこともあり、いつもより少しだけ賑やかな雰囲気に包まれていていた。ハルやマルコ、リーザ、サイラスたちが、エリアーナとゼイドを囲み、先ほどの模擬戦の感想や、これまでの戦場での経験談などを語り合っている。
俺は、少し離れた席で、黙々と朝食のパンを齧っていた。だが、耳は彼らの会話に集中している。
「いやー、それにしても、エリアーナ嬢のあの霧魔法は厄災だったぜ。マジで何も見えねえし、魔力感知も狂っちまうしな!」ハルが豪快に笑う。
「ありがとうございます。でも、魔力消費が激しくて……もっと効率よく使えないと、実戦では……」エリアーナが、反省しきりといった様子で答える。
「ゼイドの最後の雷撃も、マルコがいなけりゃヤバかったよな。ありゃあ、完全に不意を突かれたぜ」
サイラスが、腕を組みながら感心したように言う。
「ふん、当然だ。だが、それでも仕留めきれんとは、俺もまだまだ未熟ということだ」ゼイドは、悔しさを滲ませながらも、どこかスッキリとした表情をしていた。
そんな中、これまで黙って食事をしていた、俺の部隊の古参兵の一人で、医療魔法と補助魔法を得意とする、少し妖艶な雰囲気を纏った女性のリズベットが、エリアーナの隣にそっと腰を下ろした。
「エリアーナちゃん、だったかしら? あなた、リオン隊長とは学院の同級生だったんですってね?」
彼女の柔らかな声には、親しみと、そしてわずかな好奇の色が滲んでいる。
「は、はい! リズベットさん、でしたよね? 一緒に戦わせていただくことになりました、エリアーナ・クレスウェルです!」
エリアーナは、少し緊張しながらも、ハキハキと答えた。
「ふふっ、よろしくね。それにしても、羨ましいわ。あなたたちは、あのリオン隊長の『昔』を知っているんでしょう?」リズベットは、意味ありげに俺の方に視線を向け、悪戯っぽく微笑んだ。
「私たちが見ている隊長は、いつも冷静沈着で、どんな困難な状況でも顔色一つ変えずに、まるで全てを見通しているかのように的確な指示を出す、まさに『双炎の厄災』そのものだもの。やっぱり、昔からあんな感じで、何でもできて、絶対に大丈夫って思わせてくれるような、包容力のある人だったのかしら?」
リズベットの言葉に、エリアーナは少し困ったように首を傾げた。
「えっと……学院の頃のリオン君は……その、今とは少し、いえ、かなり違っていたような……。どちらかというと、いつも無気力で、目立たないようにしていて……。でも、いざという時には、信じられないような力を発揮して、私たちを助けてくれたんです。だから……その、包容力、とは少し違うかもしれませんが、昔から、どこか頼りになる人ではありました」
エリアーナは、言葉を選びながら、しかしその瞳には、俺への変わらぬ信頼と好意を浮かべて答えた。
「へえー、無気力で目立たない、ねぇ……。今の隊長からは想像もつかないわね」リズベットは、クスクスと笑いながら、再び俺を見た。「でも、いざという時には助けてくれる、か。そこは今も変わらないかもしれないわね」
リズベットのその言葉に、隣で聞いていたハルが、待ってましたとばかりに大きな声で割って入った。
「そうなんですよ、リズベットの姉御! まさにその通りで! 例えば、ついこの間の北部戦線でのことですぜ! 俺たちが敵の罠にはまって、完全に包囲されて、もうダメかと思った瞬間があったんです。敵の数はこっちの三倍以上、しかも相手は精鋭の魔法騎士部隊! 俺もリーザもマルコも、もう覚悟を決めてたんですがね……」
ハルは、そこで一度言葉を切り、芝居がかったように俺の方を見た。
「そん時ですよ! 隊長がたった一人で敵陣に突っ込んで行って、あっという間に敵の指揮官の首を取り、大混乱に陥った敵を一気に殲滅しちまったんです! まるで赤い旋風みたいでしたぜ! あの時は、本当に神様に見えましたね!」
「おい、ハル。話を盛るなと言っているだろうが。あれは、たまたま敵の布陣に穴があっただけだ。それに、お前たちの援護があったからだ」
俺は、眉をひそめてハルの大袈裟な話を窘めた。確かにそういう戦闘はあったが、彼の言うように一方的なものではなかったはずだ。
「またまたご謙遜を! 隊長がいなけりゃ、俺たちは今頃、カラスの餌ですよ!」ハルは、全く悪びれる様子もなく笑い飛ばす。
「え……? リオン隊長が、たった一人で……?」
エリアーナが、信じられないといった表情でハルと俺を見比べる。ゼイドも、興味深そうに聞き耳を立てている。
「そうなんだよ、エリアーナ嬢!」ハルは、さらに得意げに続ける。「俺たちリオン隊はな、どんな絶体絶命のピンチに陥っても、最後は必ず隊長が、まるで神業みてえな方法でなんとかしちまうんだ! 想定外の魔獣が出ようが、敵の大軍に囲まれようが、なぜか隊長がいると、絶対に死なねえって確信があるんだよな!」
「……お前たち、少し話を盛りすぎだ。俺は、ただ、結果的に運が良かっただけだ」
俺は、頭を抱えたくなった。こいつらは、俺をなんだと思っているんだ。それは俺が常にギリギリのところで、隠している力を小出しにしているからに過ぎない。そして、その度に、俺の心の平穏は少しずつ削られていくのだ。
「でも、本当のことですわよね? リオン隊長。あなたがいれば、どんな困難も乗り越えられる。私たちも、そう信じて、この部隊に配属されたのですから」
ミリアが、いつの間にか俺の隣の席に移動しており、挑戦的な、しかしどこか期待に満ちた瞳で俺の顔を覗き込んできた。その言葉には、明らかに俺を試すような響きがあった。
俺は、ミリアの視線を冷ややかに受け流し、ため息をついた。どうやら、俺の「英雄譚」は、俺の知らないところで、尾ひれどころか翼まで生えて広まっていく運命らしい。
エリアーナとゼイドは、そんな俺たちのやり取りを、興味深そうに、そして少しだけ羨ましそうに見つめていた。
学生時代の旧友から少しずつ仲間になっていく。そんな実感を感じていた。
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