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洗礼の模擬戦

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マルコの見事な連携によって、ゼイドとエリアーナの奇策――水球を利用した雷撃による旗竿への直接攻撃――は、間一髪のところで防がれた。訓練場に立ち込めていた濃霧も、エリアーナの魔力消耗と共に徐々に薄れ始め、戦場の全体像が再び明らかになろうとしている。


「……くそっ! あと一歩だったのに……!」

ゼイドが、悔しげに歯噛みする。彼の渾身の一撃は、確かにハルたちの意表を突いたはずだったが、マルコの的確な判断と帰還によって阻まれてしまったのだ。彼の身体からは、まだ雷の魔力の残滓がバチバチと音を立てているが、その表情には疲労の色が濃い。


エリアーナもまた、肩で大きく息をしながら、杖を握りしめていた。広範囲の濃霧魔法と、複数の魔力擬態、そして水球の精密な操作。それらを同時に行った彼女の魔力消耗は、見た目以上に激しいはずだ。その顔には疲労の色が濃いが、その瞳の奥の闘志は、まだ消えてはいなかったが、マルコが旗の前に立ちはだかり、ハル、リーザ、サイラスも体勢を立て直しつつあるのを見て、これ以上の戦闘継続は困難だと悟ったのだろう。


彼女は、悔しそうに小さく息を吐くと、杖をゆっくりと下ろした。

「……参りました。私たちの、負けです」

その声は、か細かったが、はっきりとした降参の意思表示だった。


ゼイドも、エリアーナの言葉を聞くと、一瞬、何か言い返そうとしたが、すぐに自分の消耗具合と、圧倒的な状況不利を理解したのだろう。彼は、無言で訓練用の長剣を地面に突き立て、肩を落とした。


「――そこまで! 勝者、防御側!」

俺は、監視台の上から、模擬戦の終了を告げた。香は、まだ半分ほど残っていたが、これ以上続けても結果は見えている。


ハルたち防御側の四人が、俺たちの方へ歩み寄ってくる。その顔には、勝利の安堵と、そして新人二人の健闘を称えるような、穏やかな笑みが浮かんでいた。


「いやいや、大したもんだったぜ、お二人さん! 特にあの霧と、最後の雷撃は肝が冷えたわ!」

ハルが、豪快に笑いながら、エリアーナとゼイドの肩を叩く。


「お前たちのあの奇策、発想は悪くねえ。やり方次第じゃ、実戦でも通用する可能性は高いだろうな。だがな」ハルはそこで一度言葉を切り、真剣な目で二人を見据えた。

「あの戦略だと、たとえ目的(旗の破壊)が達成できたとしても、お前ら二人は確実に死んでる。あるいは、捕虜だな。 マルコを釣り出すのに成功しても、その後の連携が薄すぎた。それに、エリアーナ嬢、あんたは魔力を使いすぎだ。数の多い相手には撤退の余力は必ず残しておかなければならない。」


彼は、先輩兵士として、彼らの作戦の評価できる点と、そして実戦における致命的な欠陥を、具体的に指摘した。


「……リオン隊長の率いる俺たち特務遊撃部隊の戦い方は、ただ任務を達成するだけじゃねえ。目的の達成は絶対だが、同時に、仲間を誰一人として死なせない。それが隊長の信念であり、俺たちの誇りだ。お前らには、まずそれを叩き込んでもらう必要がある」

ハルの言葉には、俺への信頼と、この部隊のあり方に対する強い自負が込められていた。


「……はい。肝に銘じます」エリアーナは、ハルの言葉を真摯に受け止め、素直に頭を下げる。ゼイドも、悔しさは滲ませながらも、反論はしなかった。


俺は、監視台から静かに降りてくると、彼らの前に立った。

「ハルの言う通りだ。お前たちの作戦の発想自体は悪くない。学院レベルでは、間違いなく通用しただろう。だがな……」

俺は、そこで一度言葉を切り、二人を厳しい目で見据えた。

「個々の技量、特に、対人戦闘における経験とスキル、そして何よりも、生き残るための判断力が、決定的に不足している。戦場では、教科書通りの戦い方なんてものは通用しない。相手は生きているんだ。常に状況は変化し、予測不能な事態が起こる」


俺の言葉に、エリアーナは俯き、ゼイドは悔しそうに唇を噛み締めた。


「……まあ、今日のところはここまでだ。二人とも、よくやった。まずは汗を流し、しっかり朝食をとれ。話の続きは、その後だ」

俺は、そう言って、彼らの緊張を解くように、わずかに口元を緩めた。


「え……?」

エリアーナとゼイドが、意外そうな顔で俺を見る。もっと厳しい叱責が飛んでくるとでも思っていたのだろう。


「腹が減っていては、頭も身体も働かんからな。……ハル、リーザたちにも伝えておけ。今日は全員で朝食だ」

「はっ! 了解しました、隊長! 新人ども、隊長の奢りかもしれねえぞー!」

ハルが、ニヤリと笑って囃し立てる。

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