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学外実習、迷霧の森へ

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揺れる蔓の上、背後からは凶暴な小型魔物ナイトモンキーの群れが迫り、眼下には底知れぬ霧の深淵が広がっている。対岸からは、エリアーナたちの心配そうな声が聞こえるが、この濃霧の中では有効な援護は期待できない。まさに絶体絶命の状況。


だが、俺の心は、意外なほど冷静だった。


(……この霧、使えるな。対岸からは、俺の動きはほとんど見えないはずだ。ならば……見られずに、やるしかない)


俺は、迫りくるナイトモンキーの群れを冷静に見据え、体勢を低くした。革手袋の中で、俺の魔力が静かに、しかし確実に練り上げられていく。派手な炎や爆裂は使えない。だが、この状況を切り抜ける手段は、他にもある。


「キィィィッ!」


先頭の一匹が、鋭い爪を振りかざし、俺の顔面に飛びかかってきた。俺は、その動きを最小限の体捌きで回避すると同時に、蔓を掴んでいた左手を一瞬だけ離し、ナイトモンキーの脇腹に的確な掌底を叩き込んだ。衝撃で内臓を揺さぶられたのか、魔物は短い悲鳴を上げてバランスを崩し、霧の谷底へと落ちていった。音は、ほとんどしなかった。


すぐさま、左右から別の二匹が襲いかかってくる。俺は、蔓を大きく揺らし、奴らの体勢を崩させる。そして、交差する瞬間に、互いの頭部を強引に掴んで激突させた。鈍い音と共に、二匹は目を回し、そのまま力なく落下していく。


対岸からは、時折聞こえる魔物の断末魔のような甲高い鳴き声と、霧の中で揺れ動く俺の影しか見えていないだろう。エリアーナたちの「リオン君、大丈夫!?」という叫び声が、霧を通してくぐもって聞こえてくるが、俺はそれに答える余裕はない。


次々と襲いかかってくるナイトモンキーを、冷静に、そして効率的に処理していく。時には、蔓の上を滑るように移動して攻撃を回避し、時には、蔓自体を利用して敵の足を掬い、時には、ごく小規模な魔力の衝撃波で目くらましをして、同士討ちを誘う。体術と微細な魔力操作、そして環境利用。それらを組み合わせ、音もなく、ただ淡々と、迫りくる脅威を排除していく。


数分後。あれほどいたナイトモンキーの群れは、一匹残らず、霧の谷底へと消えていた。蔓の上には、俺一人だけが残されている。俺は、軽く息を整え、何事もなかったかのように残りの蔓を渡りきり、対岸へと降り立った。


「リオン君! 無事だったのね! よかった……!」


エリアーナが、安堵の表情で駆け寄ってくる。その目には、涙が浮かんでいた。フィンも、「リオン先輩! ご無事で……!」と息を切らせている。彼らは、霧の向こうで繰り広げられたであろう死闘を想像し、俺の生還を心から喜んでくれているようだ。


だが、他のメンバー――特にミリアとロイ、そしてセレスティア先輩は、俺の姿を見て言葉を失っていた。彼らの視線は、俺の無傷な身体と、そして俺がさりげなく服の裾で拭った、拳の返り血に注がれている。霧の中で一体何があったのか? あの数の魔物を相手に、なぜ無傷でいられるのか? そして、あの返り血は……? 彼らの表情には、安堵よりも、困惑の色が濃く浮かんでいた。


「……大したことはない。霧のおかげで、奴らもよく見えていなかったようだ。運が良かった」


俺は、努めて平静に、いつものようにとぼけてみせた。だが、その言葉を鵜呑みにする者は、もはやこの中にはいないだろう。特にミリアは、探るような鋭い視線を俺に向けたまま、口元に意味深な笑みを浮かべていた。ロイとセレスティア先輩も、無言ではあったが、その視線は明らかに俺の尋常ならざる様子に注がれていた。


「全員、無事だな」


アストリッド教官が、ゆっくりと近づいてきた。彼女もまた、俺の無傷な姿と、周囲の状況から、何があったのかを正確に推測しているはずだ。だが、彼女は何も言及せず、ただ「負傷者がいないなら、先を急ぐぞ。この谷は長居する場所ではない」とだけ告げた。その声は、いつも通り冷徹だったが、俺を見る目には、確信と、そして何か別の複雑な感情が混じっているように見えた。


俺たちは、再び隊列を組み、アストリッド教官の指示に従って、さらに森の奥へと足を進め始めた。先ほどまでの達成感は薄れ、代わりに、重苦しい沈黙と緊張感が、班全体を包んでいた。

結構面白く書けてる気がしてます。。。

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