47.カマキリ
俺達が爽快感を満喫していると、周囲の虫達が突然動きを止める。一斉に特定の方向に顔を向け、そこを見ながら道を開けるかのようにして後方に下がり始める。変化に気付いた右側で戦闘を行うモモが、それを中断して俺の下に駆け寄る。
「どうしたんだろ?」
「わからない。何か来るのかもな?」
2人で警戒を強めていると、虫達の視線の先から一際大きな虫がゆっくり行進して来る。
「おっきいね~!」
「カマキリか!」
昆虫類最強と謡われるカマキリを目にしたモモと俺は、興奮しながら歓喜の声を上げた。カマキリは俺達から少し離れた位置で立ち止まる。体を起こしながら鎌を折り畳み、威嚇のポーズを取る。
「カッコいいな!」
「うん! カッコいい!」
俺とモモは絶賛した。カマキリは俺の事かと言わんばかりに顎を上げてこちらを見下ろす。
「愛嬌があるな!」
「顎のラインが、素敵だよね!」
俺とモモは、一歩前に踏み出して再び絶賛した。カマキリは羽と鎌を大きく広げて更に威嚇を強める。そのあと鎌を胸の前に戻すが次の瞬間、二本のそれを俺目掛けて伸ばす。
「届くのか!? しかも速い! だが!」
予想以上の速度と射程に驚いた俺だが、上方から刈り取るように迫り来る二本の鎌の左側を盾で弾き、右側は半身の姿勢を取り回避する。続けて射程から逃れるために後方に数歩下がり、武器を構える。
「大丈夫!?」
「ああ。問題ない」
共に後方に下がったモモが声を上げたが、俺の戻した返事には余裕がある。何故なら、カマキリは幼少期に好きな虫で、頻繁に観察していて獲物の取り方を熟知しているためだ。
カマキリは、鎌で相手を切断するイメージがあるが実際はそうではない。鎌はギザギザな部分を活かして相手を捕らえ、瞬時に引き寄せるための言わば道具だ。そのあとで食すため、捕まらなければどうという事はない。しかし、
(あの鎌を捌き続けるのは、無理だな。それに…)
鎌を連続して繰り出された場合、剣と盾で凌ぐことは至難の業だと俺は判断した。鎌の迫り来る速度は、俺の剣速よりも明らかに速い。俺は再び鎌を見つめる。
鎌は、俺が知る大きさとは異なり非常に大きい。カマキリの背丈は3メートルほど。鎌の刃の部分は、それから目測すると1メートルほどに見える。その部分にある鋭く緑色に光るギザギザな部分は、最早、巨大な刃物と呼んでも過言ではない。
(あれだと、捕まったら本当に漫画みたいに切断されそうだな。一撃で、なんとかしたいが…。カウンターを狙ってみるか…)
「モモ」
「うん」
思考した俺は、モモを一瞥しながら声を掛けた。頷きつつ返事を戻したモモは、カマキリの出方を窺いながら俺の背後にゆっくり移動し始める。そして、俺、モモ、カマキリが直線状に並んだその時、全てが動き始める。
カマキリは、その場から一歩前に飛び跳ねる。起こしている体を前に倒し、タイミングを計るかのように体を揺らしながらこちらを鋭く睨む。
(やはり、このタイミングか!)
当然の如く、俺はこのタイミングを狙われると予想していた。俺の背後に回ったモモが、カマキリに攻撃不可能なためだ。俺は、右足を少し前にずらしてそこに重心を移動させる。モモは、カマキリを中心に円を描くように左に駆け出す。
カマキリは、片方の目の中の赤い瞳でモモを追う。しかし、モモは後回しにすると判断したのであろう。そちらから瞳を外して両の瞳の照準を俺に定めた瞬間、構えていた二本の鎌を同時にこちらに伸ばす。俺はすかさず右足で力強く地面を蹴り、凄まじい速度で迫り来る振り上げられる直前の左の鎌目掛けて盾と共に体ごとぶつかる。
『ドゴーン!』
鎌と俺は、巨大な物体同士がかち合ったかのような轟音を上げて拮抗する。同時に、右の鎌が振り上げられながら俺の隣を通り過ぎる。
「次は後ろ!」
左の鎌を封じた俺は、盾を前に残しながら声を上げつつ直ちに横向きに背後に振り向く。上空に伸ばされた右の鎌が、くの字に折り曲げられながら凄まじい速度で迫り来る。俺は力強く握りしめた剣を鎌に対してクロスに合わせる。ギザギザが鎧に食い込む直前、
『ズパン!』
カウンターで出した剣を横薙ぎに振り抜いた。鎌は見事な断面を残して切断される。切断された部分は剣を薙ぎ払う方向に高速回転しながら吹き飛び、地面に突き刺さる。これに驚いためか、カマキリは慌てて両の鎌を体に引き寄せて防御体勢をとる。
「終りだ」
俺は呟いた。同時に、カマキリの左の死角から突進するモモが胴体を飛び越えるようにジャンプする。
「貰ったー!」
『ズッ、パーン!』
空中で叫んだモモは、カマキリの背面を通り過ぎつつ右手のダガーで首を切断した。切り離された頭部が高速回転しながら空中高く舞い上がり、地面に落下する。
モモの一連の動きは、まるでカマキリが最初からそこに頭部を運ぶと分かっていたかのような絶妙なものだった。そして、頭部を失ったカマキリは起こしていた体を力なく横に倒し、そのままの霧となり消滅する。
「「イエーイ!」」
当初の作戦通りに戦闘を行った俺とモモは虫達に見せつけるかのように互いに悠々と歩み寄り、そのまま高らかに声を上げながらハイタッチを決めた。
「やったね! お兄ちゃん!」
「ああ! このまま行くか?」
「うん!」
モモは声を上げ、俺が尋ねると楽し気に返事を戻した。
このあと、再び勢い付いた俺達は怯み始めた虫達を互いにハイペースで倒し続け、再び爽快感を満喫するのみになる。
「もう居ないな!」
「うん! ぜ~んぶ、倒しちゃったね!」
しばし、その間を継続した俺とモモは、合流して感無量とハイテンションに声を上げた。そして、成果を確認するために、互いに辿った道のりの方へ振り向く。
「こ、これって!?」
「ああ…。回収が、面倒臭いな…」
気付いたモモが身を乗り出して驚愕した声を上げ、俺は弱々しく返事を戻した。そこには虫達は一匹たりとも存在せず、只々煌めくドロップ品が地面に転がる。俺とモモは、途方に暮れるのみとなった。
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