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スキルマスター  作者: とわ
第一章 ムーン・ブル編

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45.作戦


「どこがいいかな~?」


 狩り場を定めるために額に手を添えて周囲を見渡しているモモが、尋ねるように話した。


「おっ。あれにしないか?」


「どれどれ~?」


 同様な目的で右側を見渡した俺が腕を伸ばして提案し、モモはその先を探りながら尋ねた。そこには、草原の中に幾つかの白い塊が存在している。一見、白い塊の姿は一角ウサギに思えるが、動きはもぞもぞと鈍足だ。おあつらえ向きに、他の冒険者達の姿は見えない。


「何あれ!? おもしろ~い!」


「行ってみるか?」


「うん!」


 モモが興味深気に声を上げた。俺が尋ねると、モモは笑顔で元気良く返事を戻した。俺達はそこに向けて移動し始める。





「えっ?」


「やっぱり! こいつらの最弱クラスと言えば、芋虫だろう!」


 俺は楽し気に隣を歩くモモが声を上げたように思えたが、気にせずに前方の少し離れた位置の奴を見ながら意気揚々と声を上げた。


 芋虫は、体が白っぽく仄かにベージュ色で、節ごとの側面に赤く丸い点の模様がある。体型はカブトムシの幼虫をパンパンに膨らませ、もっと丸っこくした感じだ。体の頂点の位置は、俺の胸元ほどある。カブトムシ系の幼虫好きな人物には、たまらなく可愛く見えるだろう。


「あれから始めるか!?」


「あっ。う、うん…。でも…、パンパンだよ?」


「そりゃあ、芋虫だからな!」


 剣を抜いた俺は、剣先で背を見せながら葉っぱをモシャモシャと食べ続けている手前の一匹で居る奴を示して得意気に尋ねた。返事を戻したモモは上々な気分から徐々にテンションを下げつつ尋ね、俺は疑問に思いながらも上々に声を上げた。


「なんだ、怖いのか?」


「そうじゃあ、ないけど…」


「大丈夫さ。パンパンに膨らんでるけど、あれは殆ど筋肉じゃないし。皮膚も軟らかいと思うから、作戦通りにやれば問題ないさ」


「う、うん…」


 俺はモモに視線を移して尋ねた。モモは何故か言葉を詰まらせている。俺が安心させるために説明すると、弱々しく返事を戻したモモは俯き加減になる。ちなみに作戦は、俺が奴らを集めて注意を引き付けながら壁役になり、ノーマークのモモが死角から倒していくというものだ。


「いざという時は昨日みたいに、俺が守ってやるからさ!」


「う~ん…。わかった! お兄ちゃんを、信じるよ!」


「よし!」


 俺がモモを励ますために自分の胸を叩きながら話すと、悩んだモモは無垢な瞳でこちらを見つつ強く返事を戻した。俺はモモの肩の上に片手を置き、期待に応えようと笑顔でそう伝えた。


(ここはブシュっと切り裂いて、モモにカッコいいところを見せるかな!)


「いくぞ!」


「うん!」


 奴に視線を移して思考した俺は、気合を乗せた合図の声を送った。返事を戻したモモは、腰の二本のダガーを抜いて身構える。俺達は慎重に奴に近付いて行く。そのまま2人で側面に回り込み、互いに一度顔を見合わせて小さく頷き合う。俺は剣を大きく振りかぶる。それを、奴の頂点目掛けて鋭く振り下ろす。


『ブシューーー』


「うわっ!?」


「きゃっ!?」


 目論見通りな音と共に、俺達の目の前で目論見とは異なる事態が発生した。突如、奴の切り口から大量に白い体液が噴き出し、全身にそれを浴びた俺とモモは悲鳴を上げた。それでも構わずにモモが追撃を試みる。


「「あっ…」」


 声を漏らした俺達の目の前で、再び予期せぬ事態が発生した。奴は、少し甘くてとろみのある体液を俺達の体に残したまま霧となり消滅していく。


「ん~。これじゃあ、作戦が成り立たないな。芋虫は、最弱で手頃だと思ったのに…」


「う~ん! あれは最弱じゃなくて、最強だよ!」


 ベタベタでベタな状態の俺がそれを気にしながら呟くと、同様なモモは激しく首を横に振りつつ体液を飛ばして奴の危険性を訴えた。


「もう、ベタベタだよ~」


「そうか~。だが、いい教訓になったな。この世界の芋虫は、最弱だが最強だ。やっぱり、思ってた 事と実際にやってみ事では結果が大きく変わるもんだな」


 体液を気にするモモが呟く中で俺が話を奇麗に纏めると、モモは呆れたような表情を見せた。このあと、ウォーターボールで互いの体を奇麗に洗い流し、標的を変えることにした。





 本格的な死闘を開始するために、俺達は付近に虫と冒険者が居ない広くて戦闘の行い易い場所に移動した。


「行って来る!」


「うん! 気を付けてね!」


 俺は余裕を見せながらそう伝え、モモは笑顔で腕を大きく振りつつ声援を戻した。武器を手にした俺は、虫達が群がる草原の中に駆け出す。


「あれは、カナブンの群れか?」


 風を切りながら進む俺は、五匹の胸元ほどある岩山の様な奴らを見つけて呟いた。


「まずは、お前からだ!」


『カン』


 俺は注意を引くために声を上げ、一匹を横薙ぎで軽く攻撃しつつその場を駆け抜ける。二匹目も同様にすると、群れ全体がこちらを認識し始める。


「まだ少ないな。次だ」


 もぞもぞと動き始めた奴らを駆けながら横目にする俺は、冷静に状況を判断しつつ呟いたあと他の群れを目指す。


「あれは、コオロギ? いや、スズムシか?」


 風を切りながら進む俺は再び五匹の岩山の様な群れを見つけるが、その大きさなために判断に迷い思わず首を傾げて呟いていた。


「どっちだ!?」


『カン』


 俺は尋ねるように声を上げ、とりあえずで先程と同様にした。群れの注意を引き付けた俺は、再び他の群れを目指す。


「あれは、セミの群れか? …止めておこう」


 呟いた俺は、悪寒が走ったため別の群れを目指す。


「足が遅い奴が、居た方がいいか」


 速度を落とした俺は選り好みしながら呟き、五匹のナメクジに狙いを定めて先程までと同様にする。


「15匹ぐらいだな。まあ、初めはこんなもんだろう」


 満足しながら呟いた俺は、方向転換してモモの元に戻ることにした。





「ふう~。待たせたな」


「ううん。全然、早かったよ!」


 戻った俺が息を整えながら声を掛けると、モモはこちらに駆け寄り笑顔で話した。


「でも、モンスターって簡単に集めることができるんだね~」


「昔、モンスター釣りをゲームでやってたからな! あの頃は…、色々あったな~」


(そう言えば、ゲームだと経験値が入る範囲があって、釣りをしてる最中にモンスターを倒されると経験値が入らなくてボランティアみたいなってたんだよな…。だが、この世界ではどうなんだろう? 同じような気がするが…。今度、マリーに聞いておこう。それにしても、最近のオンラインゲームは随分窮屈になったよな。昔はみんな手探りだったから自由に遊んでて、他人にああしろこうしろとか言う奴らはあんまり居なかったんだけどな。どこかの誰かがこれが日本人の民度とか言ってたが、そういうことなんだろうな…)


 モモは、俺の背後を眺めながら感心したように話した。俺は昔取った杵柄だと得意気に話したが、様々なことを思い出して複雑な感情になる。


「それにしても、いっぱい連れてきたね~」


「そうか? 十五匹だから七匹づつ。一匹は早い者勝ちって感じにしたぞ?」


「えっ? ん~…」


 モモがそう話したため、俺は想定を説明した。戸惑うような声を上げたモモは、そのあと顎に人差し指を当てながら首を傾げる。


「どうしたんだ?」


 疑問を覚えた俺は、尋ねながら背後に顔を向ける。


「げっ!!!」


 溢れんばかりの虫達の群れを目にした俺は、思わず声を上げていた。


「どうしたの、お兄ちゃん?」


「あっ。い、いや、なんでもない…。実家に忘れ物をしたことを、思い出しただけだ…」


「実家…?」


(やばい! リンクしやがった! だが、どうして!? この俺様が、そんな初歩的なミスを犯すなんて絶対にないなずだ!)


『リーンリーンリーン』


(あっ、あいつか~!!!)


 モモがこちらを見ながら尋ね、俺は向き直りながら直ちに平静を装い自分でも理解不能な返事を戻した。モモが不思議そうに呟き、俺は一瞬現実逃避したがその時、風流な鈴の音のような音が微かに届いた。背後に振り向いた俺は虫達の群れの中で仲間を呼び寄せるかのように威風堂堂と羽を鳴らす奴を発見し、計算を狂わされたと全身に怒りが込み上げる。


(スズムシにそんな習性があるなって、気付ける訳がないだろ! 理不尽過ぎる!)


 俺は動揺しながらも、先程コオロギかで判断に迷った奴の正体に気付いて苛立ち打ち震える。スズムシは秋の風物詩。その音色は、聞く者の感情を落ち着かせる。しかし、ここの奴にはそんな俺の常識は通用しない。


「大丈夫? お兄ちゃん?」


(モ、モモは、落ち着いてるな…。あれぐらいは、なんとかなるのか?)


「だ、大丈夫だ。きっと、上手くいく。だが、万が一の時は、逃げような」


「もう~。大丈夫だよ、あれくらい。だから、お兄ちゃんは自分を信じて戦って!」


 一波二波と押し寄せる津波の様な光景を前に、モモは落ち着いた様子で首を傾げて尋ねた。俺はその態度と先程の戦闘から奴らの強さを分析したが、弱腰に返事を戻した。呆れた様子で話し始めたモモは、そのまま発破を掛けながらこちらの腕を軽く二度叩く。


(これは、逃げられなくなったな。仕方ない…。本気で行くか!)


「よし! わかった! やるぞ!」


「私も、頑張るね!」


「ああ、頼む!」


「任せて!」


 好きな人に、そのような言葉を掛けられてはあとに引けない。そのような感情に入った俺は、本気を出してみることにして力強く声を上げた。モモがこちらを応援するように話し、頼もしさを覚えた俺はそう伝えた。楽しげに声を上げたモモは、そのあと優しい微笑みを見せる。


(自分の本気って、どの程度なんだろうな…)


 未だ戦闘に自信が持てない俺は、不甲斐ない思考をしながら武器を構える。そして、俺はこの場に留まり、モモは虫達の死角に向かって駆け出した。





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