36.クエストスタート
アナコンダが消滅した場所には、魔石と水晶と肉の塊が落ちていた。これが今回のドロップ品のようだ。
「この水晶、奇麗だね」
隣に居たモモが水晶を拾い上げる。
「今までの物よりも透明だな」
水晶は透明な物ほど純度が高いそうで、何かしらかの効果が付与されていると言われている。なので、俺はこの水晶を調べてみることにした。
【鑑定】
ーーーーーーー
シャープ水晶+3:攻撃力+3
ーーーーーーー
モモが鑑定画面を覗き込んだ。
「良いものなの?」
「たぶんな。俺達には丁度良さそうだ」
今一つ、この世界でのアイテムの価値がまだ分からないのだが、この水晶の効果はレベルが1つ上がった時と同じぐらいの攻撃力が上がるようだ。
「良かったね!」
「ああ。これでアイラも報われるだろう」
「ちょっと、人が死んだみたいに言わないよ!」
どうやらアイラにも聞こえていたようだ。服を溶かされてしまった部分を手で押さえながら、こちらへゆっくりと歩いて来る。
なんていやらしい姿なのだ!
と、普通はこう思うであろう…。
だが、今は違った!
アイラが一歩動く度に、生臭い臭いが漂ってくる。そしてその臭いのせいで、モモの顔がゆっくりと変な顔へと変わっていく。
「ふにゃ!」
俺は臭いを我慢しながら話を続けた。
「肉はどうする? 売ればそれなりの金になりそうだが」
ダンジョンのモンスターは稀に食材をドロップすることがあるのだが、その食材は一律にしてなかなかの美味で、それなりの金額で売れると言われていた。
「ダメよ! これは私が食べてやる!」
怒気を含めた声を上げ、アイラはアナコンダの肉を両手で鷲掴みにする。そしてそのままそれを空に掲げ、どう料理してやろうかと考えているのか、じっくりと調べ始めた。
アイラの両手が押さえていた部分から離れたために、再び、見えてはならないものが色々と見え隠れし始める。
(臭いが無ければ、最高なんだが…)
俺とモモはそっとアイラから距離を取ることにした。
「こっちに来い」
俺はアイラを呼んだ。
アイラの服はドロドロだった。そして体は粘液まみれで生臭く、着替えるにしてもそのまま服を着るというわけにはいかないので、まずは体を洗うことにした。
「モモ、リリー、見張りを頼むな」
「「はーい」」
俺はストレージから天幕を取り出し、簡単なシャワースペースを作る。アイラはその中へ入り念入り体をに洗い始めた。
「最悪よ! 生臭いわ!」
天幕の中から苛立ちの声が聞こえる。臭いを落とすのが大変そうだ。
「挑発のスキルでも100%相手の注意を引くことはできないから、次からは気を付けてくれよな」
「わかったわよ! 今度は一発で仕留めてやるわ!」
(また挑戦するのか?)
アイラの意気込みに、俺は感服した。
この後、アイラの防具が無くなってしまったので、俺達は今回のダンジョン探索はこれで終わりにして、帰還のスクロールで街に帰ることにした。
ヘビの毒袋も錬金術のレベル上げに必要な量は確保できたので、しばらくは素材集めを行わなくてもよくなった。
ちなみに、夜にアナコンダの肉を食べたのだが、鶏肉のような感じだった。弾力のある噛み応えで油もさらりとしており、日本で言うところのブランドの鶏肉と比較しても、それ以上に美味しい肉だった。これは思っていた以上に高級食材だったのかもしれない。
この鳥肉のような味のする肉が肉の塊としてあるので、何か不思議な感じがする。せっかくなので、余った部分はスライスにして冷凍バッグに保存しておくことにした。
◇
翌日。
アイラ達は装備を買い直した後は街を回ってみると言ったので、俺は一人でギルドへ向かうことにした。
レベルが14に上がり、剣術スキル:LV20、盾スキル:LV16、空間魔法:LV20、水魔法:LV20、と、スキルのレベルも上がっていたので、何か新しいスキルを覚えられないか調べるためだ。
ギルドに訪れるとカウンターの奥にある本棚へと向かう。ムーン・ブルのギルドよりも、こちらの方が本は多く揃えてあった。街としても大きいので様々な種類の本が置いてあるようだ。
俺は剣術スキルの本を数冊手に取り、近くの開いている席に座ってスキルを調べることにした。
昼食をギルドの中で済ませた後、午後からはスキルの練習を行うために街の外へと向う。人があまり近寄らない場所で、俺はスキルの練習を始めた。
(まずはこれから試してみるか)
俺は剣を片手に握りしめ、スキルをイメージする。そして、大きく剣を振り下ろした。
【グランドスマッシュ】
『ドン!』
地響きと共に、目の前の草が薙ぎ倒されていく。
このスキルは前方へ扇状に衝撃波を放つスキルで、範囲攻撃となる技だった。威力はあまり強くないようだが使い勝手の良さそうなスキルだ。
(本には、力を溜めて攻撃が扇状に広がるようにイメージして剣を振る、という感じに書いてあったが、これは何も知らないとさっぱり分からなかっだろうな)
今ならスキルを使う感覚が分かるので、力を溜めて、などと書かれていることも理解できるが、この世界に訪れたばかりの頃であれば、恐らくこれは理解不能であったであろう。
(自力でこういったスキルを閃くというのも、なかなか厳しいな。本に全てが載っているわけじゃないが、もっとスキルの知識を身に付けておいた方が良いか。一般的なものならあらかた載っているようだったし…)
この後、いくつかスキルを確認してから街に戻った。
(あとは錬金術か。材料は十分にあるし、今のうちにレベル上げをやっておこう)
俺は宿に戻りポイズンポーションを作って錬金術のレベル上げを行った。そして、モモ達が部屋に戻ってきたので、この日はこれで休むことにした。
◇◇
次の朝、俺達はギルドへと向う。
今日は前回先送りにしたクエストを受けることにした。クエストを受けてギルドのランクを上げておいた方が、この先何かと都合が良さそうだからだ。
皆で依頼が貼られてあるクエストボードを眺めていると、鉱石採集というクエストが目に映る。クエストランクはEで、銅鉱石を採集するもののようだ。
(鉱石の採集は初めてだな。こういうのは好きだが、皆はどうだ?)
クエストは勿論俺一人では決められないので、皆に相談をする。
「なあ。このクエストを受けてみたいが、どうだ?」
皆が俺に注目をしたので、俺は顎でクエストを示した。
「鉱石採集? 銅鉱石を集めるの?」
モモがよく分からないと言った顔をする。鉱石採集などやったことがないからであろう。
「そうみたいだな」
「どうって言われても、やったことがないからわからないわよ?」
「銅だけにか?」
アイラの話に付け加えたのは大失敗だった。辺り一面、そして人までもが凍り付く。
「よ、よくわからないよ~。私も鉱石の採集は初めてだから」
リリーが体の氷を解かすかのようにして、アワアワとし始めた。
(その「よくわからない」は、どの言葉に対して言ったのだろう…)
「とりあえず、受付で聞いてみましょ」
モモが話の流れを断ち切った。
「そうだな」
俺達は依頼の紙をクエストボードから剥がしてカウンターへ向かった。
「これを受けてみたいんだが」
「こちらですね。鉱石採集は初めてですか?」
「初めてだ」
俺の言葉に、受付の女性は少し悩んだ。
「恐らく初心者の方でも大丈夫だとは思いますが、依頼主にその旨はお伝えください」
「わかった。それで、この後はどうすれば良いんだ?」
「ここに書いてあるアクセサリー商店へ向かってください。そこで詳しく説明が受けられると思います」
「わかった。ありがとう」
俺達は受付でクエストの手続きを済ませ、依頼主であるアクセサリー商店へと向うことにした。
「ここか」
アクセサリー商店は先日マジックバッグを購入した店だった。俺達は早速中へと入る。
「おはようございまーす」
今回は客ではなく仕事で訪れたので、しっかりと挨拶をしておく。
「いらっしゃいませ~」
店の奥から以前に出会った女の子が現れた。
「あら、あなた達は…」
この子は俺達のことを覚えている様子だった。
「この間はありがとな。ところで、今日はクエストを受けに来たんだが、ここの店主は居るか?」
女の子は可愛らしい表情から一転、むっとした顔となる。
「ここの店主は私よ!」
そう言い放ちながら、腰に手を当ててそっぽを向いてしまった。
(こんな小さな子が店主なのか?)
俺が怪しんでいると、リリーが一歩前に出た。
「もしかして、ドワーフですか?」
女の子は視線だけを戻して俺をチラ見した。
「そうよ。私はドワーフよ!」
なんと、この子はドワーフだった。この世界で初めて見るドワーフだ。いや、他にももっと居たのかもしれない。今まではドワーフの事を考えていなかったので少し驚いた。
「それはすまなかった。俺はドワーフに会うのは初めてだったんだ」
「私はあまりドワーフっぽくないから、よく間違われるのよ」
女の子は小さくため息をついた。どうやらそれ程怒ってはいないようだ。
(この子が店主だったのか…。これからは気を付けよう)
気を取り直して、俺は話を続けた。
「依頼の事を詳しく聞いても良いか?」
「ええ、良いわよ。何が知りたいのかしら?」
女の子は…、元、店主は手を腰に当てたまま体をこちらに向き直すと、その顔は商売人のものに変わっていた。
(ちびっこでも商売人は商売人か。気持ちの切り替えは早そうだな)
店主から、一瞬鋭い殺気が放たれる。
(おっと。顔に出たか? いかん。今は話を先に進めよう)
「俺達は鉱石の採集は初めてなんだが、それでも構わないか?」
「あなた達、鑑定は使える?」
「ああ、大丈夫だ」
「それなら大丈夫よ。場所はこちらで教えるから、そこへ行って銅鉱石を採ってきてくれれば良いわ。このマジックバッグを渡すから、最低限、このバッグいっぱいにはしてきてちょうだい」
女の子は自分の体が隠れてしまいそうな程の、大きさの巾着袋を俺にずいっと押し付けた。
俺は試しに袋の中に手を入れてみるが、底が分からなかった。
「このバッグの大きさは、どれぐらいなんだ?」
「そうね。クマが1頭入るぐらいかしら」
(クマか~…)
クマと言われたが、野生のクマなのか、モンスターのクマなのか、はたまた別のクマなのか、俺にはよく分からなかった。そして、マジックバッグは中を覗いてみても真っ暗なので底が見えない。なので、このマジックバッグの中には、どれ程の量の銅鉱石が入るのかのイメージが湧かなかった。
(銅鉱石は色々不純物が混ざっていて、銅を作るには大量に必要だった気がするが…、クマは相当デカいのか?)
俺はあれこれ考えたが、この世界のことはまだよく分からないので、気にしても仕方がないと思い考えることを止めた。
「それで、場所はどこなんだ?」
「この街の北にある鉱山よ。今から北門へ向かえば鉱山を往復をしている馬車に乗れるわ。今日出発するつもりなら少し急いだ方が良いわよ」
「わかった。それなら今から行ってみるよ」
「それとこれ、採掘をする時の道具よ。どうせ持っていないんでしょ?」
店主は俺達のために採掘道具を用意してくれていた。見かけによらず気の効く女の子のようだ。
「良いのか?」
「新人の冒険者がこのクエストを受けてきても良いように用意しておいた物だから、気にせず使ってちょうだい」
「ありがとう。助かる」
「「「ありがと~」」」
俺達は店を後にして、馬車の止まっている北門へと急いだ。
(何気に親切なドワーフだったな。アクセサリーを作れるんなら、今後も仲良くしておきたいな)
俺は移動しながら先のことを思い浮かべた。
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