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スキルマスター  作者: とわ
第二章 アクアンシズ編
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33.マジックバッグ


「何ここ!?」


「びっくりしたよ~」


「また景色ががらりと変わったわね~」


 モモとリリーは目を丸くし、アイラは辺りを見渡している。


 俺達は遂に2層へ辿り着いた。そして正面の数メートル先には木が横一列にずらりと並んでおり、それが左右に見渡す限りに続いている。


 ここは先程までのサバンナのような地形とは打って変わり、広大な森林地帯となっていた。そして木々の隙間から顔を覗かせる岩場や倒れた木の幹には苔などが生息しており、湿度も若干、高いように思えた。


(しかし、ここはまた、随分と変わった景色だな…。いや、それは俺の中の常識での話か…)


 目の前の幾何学と天然の合わさったような景色を見て、俺のチープな常識など、ここでは一切通用しないのだと改めて感じさせられた。


 そして、正面の向かって左手にはキャンプ地も見えた。こちらは1層のなんちゃってキャンプ地とは違い、木の柵で囲まれている。ただ、それだけでモンスターを防げるかと言えば恐らく無理であろう。そんな程度の簡易的な柵だった。


 俺達は一通り中を見回り特に珍しいものもなかったので、俺は頃合いかと思い皆に声を掛けた。


「おーい。そろそろ街に戻るぞー」


「はーい」


 モモはこちらに近づいてきたが、リリーとアイラはその場で首を傾げた。


「着いたばかりなのにもう帰るの?」


「またここに来るのは大変よ?」


(んん? さてはこの二人…)


 二人が何故こんなことを言っているのかは予想が付いたが、念のために確認をする。


「ここにはいつでも来れるぞ。話を聞いてなかったのか?」


 リリーとアイラはお互いを見つめ合った。そしてリリーが口を開く。


「どういう事?」


「ここに来るためのスクロールが街で売ってるんだ。それに、広場にテレポート屋が居ただろ。その人に頼んでもここに飛ばしてもらえるぞ」


 リリーはキョトンとした顔をしたが、


「ええー!」


 とても驚いた表情に変わった。そしてアワアワとし始める。


「わ、私は知っていたわよ。それじゃあ帰りましょ」


 アイラは中途半端なツンデレを発動させ、何事もなかったかのような顔をして、俺達の方へと近づいてくる。


「リリーも近づかないと置いてかれるよ~」


「待ってー!」


 モモが声を掛けると、リリーが慌ててこちらに駆け出す。


 俺はリリーが十分に近づいたことを確認してから、この場で帰還のスクロールを使い街へと帰ることにした。





 街に戻るとまだ夕方前だったので、そのままの足でギルドへ向かい換金を済ませる。今回はダンジョンを先を急ぐような形で進んだので、あまり稼ぎは良くなかった。それとついでに、あれのことを尋ねることにした。


「食料を入れるバッグはここで売っているか?」


「食料保管用のバッグですね。こちらでも扱っていますが…」


 カウンターの女性はきょろきょろと辺りを気にし始める。そしてその後、ずいっとこちらに身を乗り出してきた。


(なんだ?)


 小さく手招きをしているので、俺は顔を近づる。


「ここだけの話ですが、実はここにはあまり良い物が置いていないんですよ。食料保管用のバッグは色々な種類がありますから、初めての購入ならアクセサリー商店で確認された方が良いと思いますよ」


(なるほど、そういうことか。ここで買うよりも先にアクセサリー商店の方を見たほうが良いんだな)


「わかった。ありがとう」


 女性は姿勢を戻し、小さく手を振りながら満足げな顔をして俺達を見送った。


 今、俺が尋ねたものは食料保管用のバッグと呼ばれる物で、いわゆるマジックバッグの一種だ。このバッグは生産職の人が作っているのだが、手作りなので装備品と同じように魔法の効果を付与することができる。そしてその効果で、食料を長持ちさせることができるようにした物が、食料保管用のバッグ、というわけだ。


 ちなみに、空間魔法のストレージでは中に入れた物の時間が経過してしまうので、生肉などは短時間で傷んでしまう。なので、この食料保管用のバッグは少し値が張るのだが、この世界の冒険者にとっては必需品となっていた。


 用事を済ませてギルドの外に出るころには、辺りはすっかり暗くなっていた。なので俺達はこの日はこれで宿に戻ることにした。



 ◇



 翌日。


 今日はダンジョンから戻った次の日なので休みとなるのだが、俺は午前中に用事を済ませようと思い、出掛けることにした。


「ちょっと出てくる」


 隣の部屋でくつろいでいる3人に声を掛けて自分の部屋へと戻る。するとモモが追いかけてきた。


「どこに行くの?」


「…散歩だ」


「散歩?」


「…」


 モモが無垢な視線をこちらに向ける。


(マジックバッグのことを言えば皆付いて来るよな…。この間の装備を買いに行ったこともあるし、ここは一人で出掛けたいんだが…)


「あーーー! お兄ちゃんがマジックバッグを買いに行くよ!」


 モモが大声で叫びながらリリー達へ声を掛けた。


(しまった! モモは心を読めるんだった…)


「どうしたの?」


 アイラが隣の部屋から出てきた。


「お兄ちゃんがね、こっそりマジックバッグを買いに行こうとしてるの」


「ふ~ん…。パーティーのアイテムなのに一人で買い物に行くの?」


 アイラが腕を組んでこちらを見ている。


「パーティー用のアイテムなら皆で買いに行った方が良いよー」


 リリーも隣の部屋からひょっこりと顔を出した。


(失敗した…。やっぱりモモのスキルはチートだよな…)


 皆で買い物に行くと長くなりそうだったので、こっそりと出かけようと思ったのだが、俺の企みはあっさりとモモに見破られた。


(これからは作戦を考える時は頭の中に思い浮かべてはダメだな。…でも、そんなことが出来るのか?)


 俺は自問自答をした。


 こうして俺達は俺の意に反して、皆でマジックバッグを買いに行く事となった。





「どこで売ってるの?」


 隣で歩いているモモが俺を見上げる。


「アクセサリー商店にあるみたいだぞ」


「アクセサリーなのね。色々楽しみだわ」


「部屋に飾る小物とか、あると良いね」


 早速、アイラとリリーから、目的とは違う発言が飛び出した。


(今日は諦めよう…)


 賑やかしいモモ達の横で俺がため息をついていると、道の先にアクセサリー商店が見えた。


 この店は武器屋のおやじから教えてもらった店なのだが、いかにも、と言える高級そうな店構えをしていた。この世界の敷居は高いのかは分からないが、とりあえず中へ入ってみることにする。


「いらっしゃいませー」


 店の奥から小さな女の子が現れた。


(ん? こんな高級そうな店で、こんな子が働いているのか?)


 少し疑問に思ったが、とりあえずバッグのことを尋ねてみることにした。


「ここに食料を保管できる、マジックバッグは置いてあるか?」


「それならこちらにありますよ」


 小さな女の子は左手で指し示すようにして右に手を伸ばす。その動作は接客に慣れている人のものだった。そして、指し示された先には布製や革製の物、それと材質がよく分からない物など、様々なバッグが並んでいた。


 俺達はそちらへ移動して、商品の確認をする。


 マジックバッグは腰に付けるタイプのものが多く、ポーチのような感じだった。


「こちらの商品は収納と冷凍の効果が付いています。あちらになると時間の停止の効果が付いていますが、値段がちょっとお高くなっています」


(なるほど。食品は凍らせておけば何日も持つからな。ただ、あまり長く放置をすると冷凍焼けを起こすが…)


 俺は停止の効果の付いているものを、ちらっと確認する。


(うぇ、あれは買えないな…)


 桁が大変なことになっていたので、冷凍の物から選ぶことにした。


 モモ達は、「これ可愛い!」などと、話し合いながらバッグを選んでいる。


(沢山あってよく分からないな。とりあえず、一番安いものを聞いてみるか)


 俺は女の子に尋ねることにした。


「一番安い物だといくらだ?」


「それならこの布のタイプになります。値段は大金貨3枚ですが、冒険者だと小さいと思いますよ」


 女の子は1つのバッグを手に取り、それ手渡してきた。


 そのバッグは布でできた腰に付けるタイプの物だが、中に手を入れてみると確かに小さかった。中は20センチ四方ぐらいの広さで、これではすぐに物が溢れてしまう。


「冒険者ならこれぐらいは欲しいかと思いますけど」


 今度は別のバッグを手渡してきた。


 渡されたバッグを見ると、見た目は先程のバッグとあまり変わらないのだが、中はそこそこ広く、日本の小さな冷凍庫ぐらいはあった。


(これなら1週間ぐらいの食糧は入るか)


 マジックバッグには一週間分の肉を保存できれば良いと考えていたので、これならば、何とかなるように思えた。


「これはいくらなんだ?」


「こちらは大金貨8枚となっています」


 まるで、俺達の足元を見ているかのような値段だった。


(手持ちの金が殆どなくなるな…)


 悩んでいると、女の子が話を続けた。


「それでも安い方なんですよ。この手の商品は材料を集めるのが大変なのです。仮に予約をしてもらったとしても、素材集めで数か月、待つようなこともあるんですよ。今買わずに後で後悔をしても、私にはどうすることも出来ませんからね」


(小さいのに何気に商売上手だ。今しかない、というニュアンスは危険なのだが…。食糧事情をケチる訳にもいかないか)


「少し相談をさせてくれ」


 俺は金額があれだったので、皆に相談することにした。





「聞こえていたわよ」


 皆の方へ近づくと、アイラが待ち構えていた。


「お金はまた貯めれば良いし、必要な物なんだから買うしかないんじゃない?」


 モモが買うことに賛成のと言った表情でこちらを見る。


「お肉、食べたいな…」


 リリーが俯きながら、とても悲しそうな顔をしている。


(この顔はダメだ! こんな顔をされては、男として、もう買うしかないだろう!)


「そうだな。買っていこう!」


 ということで、金は殆どなくなってしまうが必要不可欠な物ということで、マジックバッグを買うことになった。


「バッグは誰が持つ?」


 俺は皆に尋ねた。


「動き回らない人が良いんじゃない?」


 モモがリリーを見る。


「わ、私?」


「アイラは盾でリリーを守ってもらう予定だからな。一番動き回らないのはリリーだろうな」


「私もそれで良いわよ」


 ということで、リリーにマジックバッグを持ってもらうことになった。なので、デザインもリリーに任せることにした。


 リリーがバッグを選んでいる間に、他のアクセサリーの商品を見てみたが、やはり、金額はピンからキリだった。


(大金貨ではなく、もう白金貨の世界だな。とりあえずは最低限の物から揃えていこう)


 リリーが気に入ったものを見つけたので、支払いを済ませ、その後はギルドへ向かうことにした。



 ◇◇



 ギルドに来た目的は、ランクの上げ方を確認するためだ。俺達の冒険者ランクはFなのだが、そろそろランクを上げても良いのではないかと思ったからだ。


「こんにちは」


 俺はカウンターの女性に声を掛けた。


「こんにちは。今日はどうされましたか?」


「冒険者ランクを上げようと思ったのだが、具体的には何をすれば良いんだ?」


「今のランクはいくつですか?」


「Fだ」


「それなら、ギルドカードを見せて頂いても宜しいですか?」


「ああ」


 俺は女性にカードを手渡す。すると、何かの装置のようなものにカードを差し込んだ。


「ルーティさん達でしたら、あと1回、Eランクのクエストをやってもらえれば、ランクを上げることができますよ」


「どういうことなんだ?」


「FランクからEランクへ上がるためには、Fランクのクエストを10回以上、Eランクのクエストを2回以上達成する事が条件なんです。以前にEランクのクエストを1回やっているようなので、あと1回、Eランクのクエストを受けて頂ければ、Eランクへ昇格することができますよ」


(あの装置は今までにやったクエストのランクや回数を調べることが出来るのか。それにしても、Eランクのクエスト? そんなの受けたか…? ああ…、ボボンさんと行ったクマ退治がEランクのクエストだったか。Eランククエストが2回でランクが上がるのは、まだランクが低いからだろうな)


「わかった」


 俺はギルドカードを返してもらいその場を離れた。皆も近くで話を聞いていたので内容は理解した様子だった。


(ボボンさんか~。今は何をやっているんだろう?)


 俺は少し懐かしく思ったが、今はクエストを選ばなければならない。 


 俺達はクエストボードで直ぐに出来そうなクエストを探したが、見つからなかった。


(時間も時間だし、そう都合よくは見つからないか)


 この後は自由行動にして、それぞれ好きなことをすることにした。




☆を付けていただけると嬉しいです。

ブックマーク登録もして頂きたいです。

やる気が出るのでよろしくお願いします!


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