65.ドラゴンの存在
街と同様に、ギルドの建物もムーン・ブルよりも遥かに大きく5倍はありそうだ。そして、
「カンパーイ!」
出入り口に辿り着くと中から何やら騒がしい声が届いた。俺達がそのまま中に進むと10人ほどがジョッキを片手に集まり、大いに盛り上がっている。
(ここも、中で呑めるのか。あいつらは、何かいいことでもあったのか?)
俺はこれを横目にし、静かなモモ達と一緒にカウンターに向う。
カウンターは数か所設けられ、受付の人物は全て若い女性だ。接客中の場所もあり、俺達は空いている所を選ぶ。
「こんにちは。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
「さっきこの街に来たんだ。それで、その報告だ」
「そうでしたか。念のために、ギルドカードを見せてもらっても宜しいですか?」
「ああ」
女性は笑顔で迎え入れてくれたので俺は用件を伝え、指示通りにそれを手渡す。
「Fランクの、冒険者様ですね。え~っと…、パーティー名はございますか?」
「…いや、まだないよ」
「そうですか。決めて頂けるとこちらも助かりますので、是非、よろしくお願いします」
にこやかに尋ねてきた女性に俺は一瞬ドキッとして言葉に詰まったが、女性はカードをこちらに手渡したあと丁寧にお辞儀を行った。
(そういえば、パーティー名を決めてなかったな。名前か…。困ったな…)
俺に、ネーミングセンスはない。自覚しているので、この事は一大事だった。しかし、とりあえずは保留にした。そして、ついでに気になることを尋ねる。
「あれは、何があったんだ?」
俺は、盛り上がっている冒険者達を見た。
「ああ。あの方達は、ドラゴンを倒したんですよ」
「ドラゴン!? それは凄いな」
(ドラゴンか…。そういえばここは異世界で、その存在を忘れてたな)
俺は驚いたがそのことを思い出し、思わず握る拳に力が入った。そして若干の湧き上がる感情を押さえていると、
「はぐれのドラゴンだったのですがこの街の近くまで来ていて、ちょっと困ってたんですよ」
(はぐれのドラゴンか。そんなのが居るんだな。だが、それだと…)
「どこかに、住処でもあるのか?」
「はい。ここから、山を2つほど越えた先にあります。ただ、ドラゴンは人の住む場所にはあまり近寄らないので、何もしなければ特に問題はなかったのですが…」
(なんだ? 歯切れの悪い言い方だな?)
困り顔で話をした女性に思考を巡らせたあと尋ねたが、女性は話の終わりに俯いたので俺は首を傾げた。
「でも、もう大丈夫なので、安心してください!」
しかし、再びこちらを見た女性は、明るく振舞いながら話を終わらせた。
(何かあったのか? …まあ、今はいいか。それにしても、はぐれドラゴンを10人ぐらいで倒したということか。ドラゴンには一度会って見たいが、上手く跨いでくれるだろうか? 今ならプチっと、潰されそうだよな…。あの道は険しそうだ)
かの有名なドラマタの女性を思い出しつつ、俺はこの件もとりあえず保留にした。
このあと、俺達はクエストボードを少し確認してからギルドをあとにした。
「お兄ちゃん、お腹すいたー」
「私もー。お腹すいたー」
(ひな鳥が、餌をせがむ様だな…)
右のモモと左のリリーは、俺を挟むようにしながらピーチクパーチクと鳴きだした。ギルド内では空腹過ぎておとなしかったのであろう。それの限界を迎えたようだ。
「そうだな。馬車ではいい物が食べられなかったし、今日は豪勢にいくとするか!」
「やったー!」
「私、お肉食べたーい!」
俺の話に、モモとリリーは手を繋ぎ踊り始めた。
「その前に、風呂に入ってからな」
「そうだね! お風呂入ってから、いっぱいご飯食べよ!」
「うん。モモちゃん行こ!」
ということで、俺達はこのあとの行動が決まった。
◇
(これは、ゴーレムだよな? 昔、通ってた銭湯の絵は、なんだったかな?)
俺は湯船に浸かりながら旅の疲れを癒し、壁のタイルに描かれている金色のゴーレムを見ながら、ふと、そんなことが気になった。モモ達も同様に、既に銭湯に訪れている。そして、
(ああは言ったものの、まだいい店がわからないからな…)
夕飯をどこで食べようかと考えていたが、
(そう言えば…)
俺はダンに言われたことを思い出した。そして湯船から上がり、外でモモ達と合流した。
「店は、ダンに教えてもらったのでいいか?」
「いいよー!」
「私も、そこでいいよ!」
俺達は、良かったらあとで来いよと、伝えられた酒場に向かうことにした。
(ダン達も今日はそこで飲むと言っていたし、合流すればおごってもらえるか?)
俺は若干の下心を抱きながら、スキップするモモ達と一緒に酒場に向かい歩き始めた。
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