第十五話 GG
「後がないチーフェン選手、このまま勝ち続けることができるか? 対する蓮選手、このまま逃げ切る事が出来るのか? さあ開戦の銅鑼が鳴る!」
「グヮーン!」
実況と同時に銅鑼が口火を切った。
チーフェンと蓮は再び相まみえる。
(哇涩⁉︎ こ……この短時間で、アイツ闇のスピリットを揃えたのか⁉︎)
チーフェンは感嘆の表情を見せる。
「さあ、ナイトが壁になり、先程と同じ様に躙り寄る! 同時にドラゴンナイトが変身だ! しかし、今度は蓮の闇のスピリットぉ、スキル、ブラックホールを放っていくぞ! ブラックホールは、最大HPに対する固定ダメージ。ナイトバリアの上から、どんどんと体力を奪っていく! その上から嵐のシャーマン、イオンストーム。砂漠の主、サンドダッシュ! CC攻撃が止まらない! コレがディヴァインメイジの恐ろしさだぁ! このラウンドとったのは蓮選手!」
チーフェンに13点のダメージが入る。
残りHPは、あと7点!
「……我不行了。これは、どうしようもない」
蓮はそのまま次の巡にも勝利してチーフェンを下し、見事1位を勝ち取った。
「決勝戦進出は、蓮選手──────‼︎ 見事中国大陸チャンピオン、チーフェン選手を倒しました! TOP8へ一番乗りだ!」
「よっしゃぁああ────────‼︎」
蓮はプレイブースから立ち上がり大きくガッツポーズ。
まるで優勝したかのようだ。だがそうなるのも無理はない。チーフェンはそれほど強い相手であり、蓮が超えたいと思っていた相手だからだ。
ステージを降りると、チーフェンが手を差し伸べてきた。
「GG了。蓮、いい試合だったぜ」
「チーフェン……。ありがとう、また対戦しよう!」
蓮は差し伸べられたチーフェンの手を握る。
すると──。
後ろに見慣れない人の姿。
「「後ろに居るのは……まさか」」
二人揃って声が出る。
「我明白了! ハハハ、把握したぜ。どうやら、握手がきっかけでお互いの雀士が見えるようになった見たいだな。そう、俺の後ろに立ってるのが五十嵐晶さ。で、蓮の後ろに立ってるのが、橘和宏……だろ?」
「う、うん。そうなんだけど……」
「?」
蓮は、アキラの姿が見えるようになった驚きに加えて、更に驚きがあった。
「アキラさんって……女の人だったんだ。それもスゲー美人」
アップにした髪型に軍帽を被り、背筋を正して軍服を着用する女性の姿がそこにあった。
「なんだ、蓮。ようやくアキラが見えるようになったのか」
カズが蓮の様子を見て茶化す。
「うん。っていうか雀鬼っていうからてっきり麻雀の鬼……で、男の子人かと思ってた……」
「鬼? 私が? くくくく。違いない」
アキラが笑う。
「ハハハ、いや、だからずっとジャンキって呼んでただろ。麻雀のジャンに、お姬さまのキ。で、雀姬五十嵐晶!」
「え〜 お姫さまの、漢字って、キって読むの⁉︎」
「なんだ、お前その年になって漢字も読めねえのかよ……」
「そんな、まだ学校で習ってないんだ! しようがないだろ⁉︎」
蓮はチーフェンに向かって改めて語り出す。
「それにしてもチーフェンは凄く強かった。だってアキラさんのアドバイスを試合中受けてなかったんでしょ? 僕なんて、カズが居なければ勝てたかどうか……」
「不对呀。いや、そんな事はない。蓮の強さは本物だ」
「え? どうして?」
「天運は、打ち手自身が掴むものだってね。アキラさんがそう言ってたよ。……打ち筋なんか所詮小手先の技術でしか無い。俺の負けだよ」
「チーフェン。アキラさん……」
二人は蓮に笑み返す。
「あ──⁉︎ なんだとぉ、小手先の技術だァ⁉︎ おい、アキラ。ってことは何かい? 今囘の勝負はあくまで蓮と、このガキの勝負であって、お前は壹切関係ねえってことかい?」
割って入って来たのはカズだ。
「そんなことは斷っじて認めねえぜ! 勝ちは勝ちだ! アキラ、お前との勝負は通算、壹勝壹敗だからな!」
「な……‼︎ 言わせておけば、カズ! あんたのそういうところが嫌いなのよ私は!」
「ああ〜、嫌いで結構だ。さあ、今度はハッキリ麻雀で決着をつけようじゃねえか!」
カズとアキラは、なんだか生き生きと痴話喧嘩をはじめ出す。
「あ〜ハハハ。あの二人デキてたんだね……」
「そう……見たいだな。アキラさん……しきりにカズ、カズって言ってたのは、好きだったからか……」
すると両名がこちらを向く。
「「コイツのこと好きだって⁉︎ そんなバカなこと!」」
お互いを指差し罵り合う。
これにはチーフェンも蓮も、呆れ顔だ。
* * *
「面会だ」
昭和十七年 十月 横浜。
暑苦しく、劣悪な環境である刑務所暮らしが和らぐ、束の間の折。
看守はカズに声を掛けた。
毎月上旬に必ず面会が入る。
小さな部屋に椅子が一つ。
そして金網の向こうには……、五十嵐晶。
「お前も竒妙なヤツだな。每月俺に面會して飽きないかね……。ま、俺にとっちゃムショの中の方がまっぴら御免よ。お前のイケ好かねぇ顏を見てる方が未だマシってもんだ。で? なんか用か」
「いつかの約束……」
「ああ、ムショにぶち込まれてんじゃあ、麻雀打ちたくても打てねえぜ。だが刑朞は貳年だ。それまで待ってくれ」
「いや、貳年と言わず、それよりも當分出來なくなるかも知れんでな。それを告げに來た」
「は? なんでだ?」
「戰爭激化に伴い、私もいよいよ戰地へ配屬となる」




