表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
契約結婚で北の辺境に嫁いだ没落オメガですが、もふもふ聖獣と一緒に凍土を耕していたら不器用な旦那様に溺愛されました  作者: 水凪しおん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
1/15

第1話「雪に閉ざされた辺境の地へ」

登場人物紹介


◆ルカ・エルウィス

没落したエルウィス伯爵家の三男。性別はオメガ。

家族の借金を肩代わりしてもらう条件で、北の辺境へと嫁いできた。

おとなしく控えめな性格だが、芯は強く、植物に関する豊富な知識を持つ。

動物や魔獣に好かれやすい不思議な性質があり、領地で出会った巨大な聖獣をあっさりと手懐けてしまう。

温かい料理を作ることと、土をいじることが好き。


◆レオン・ヴォルグ

北の辺境を治めるヴォルグ辺境伯。性別はアルファ。

無口で表情に乏しく、周囲からは冷酷な人物だと恐れられている。

過去の経験から人間不信気味だったが、領民への責任感は非常に強い。

契約結婚としてルカを迎えたものの、彼のひたむきな姿に少しずつ心を開き、不器用ながらも優しさを見せるようになる。

甘いものが密かに好き。


◆シロ

北の辺境に住む伝説の聖獣。真っ白で巨大な狼のような姿をしている。

本来は人間に懐かないが、ルカから漂う穏やかな気配に惹かれて彼に付きまとうようになる。

もふもふとした分厚い毛皮を持ち、ルカの良き相談相手であり、頼もしい護衛でもある。

 窓ガラスを覆う分厚い霜が、外の景色を白く濁らせている。

 木製の車輪が凍てついた轍を乗り越えるたび、古い馬車の車体が大きく軋んだ。

 座席に縫い付けられたように身を縮めるルカは、自身の口から吐き出される息の白さをただ見つめていた。

 厚手の外套を何枚も重ね着しているというのに、北の地の冷気は容赦なく布地の隙間から忍び込んでくる。

 手袋に包まれた指先はとっくの昔にかじかんでおり、自分の身体ではないような鈍い感覚だけが残っていた。

 エルウィス伯爵家の三男として生まれたルカが、この最果ての地へ向かうことになった理由はただ一つだ。

 実家が抱え込んだ莫大な借金を清算するための、身売りと同義の契約結婚である。

 相手は北の国境を守護するヴォルグ辺境伯、レオン。

 無口で冷酷無比なアルファだと、王都の社交界では誰もが恐れをなして語る人物だった。

 没落した家を救うためとはいえ、オメガであるルカが一人で嫁ぐにはあまりにも過酷な環境だ。

 けれど、ルカに拒否権など最初から用意されてはいなかった。

 馬車がゆっくりと速度を落とし、やがて重々しい音を立てて停止する。

 到着を知らせる御者の声が、冷たい風の音に混じってくぐもって聞こえた。

 硬く閉ざされた馬車の扉が外から開かれると、氷のように冷たい空気が一気に車内へと流れ込んでくる。

 ルカは小さく息を呑み、震える足に力を込めて立ち上がった。


『泣いてはいけない』


 自分に言い聞かせるように心の中でつぶやく。

 馬車を降りたルカの靴底で、踏みしめた雪が硬く砕ける音が響き渡った。

 顔を上げると、黒い石を積み上げて造られた巨大な城砦が、鉛色の空を切り裂くようにそびえ立っている。

 装飾の一切を削ぎ落としたようなその無骨な外観は、北の厳しい自然と外敵を拒絶する意思そのものだった。

 出迎えた使用人たちの案内で、ルカは薄暗い石造りの回廊を歩き始める。

 壁に掛けられた燭台の炎が、吹き抜ける隙間風に揺れて細長い影を床に落としていた。

 石の床から這い上がってくる冷気が、靴底を通して足の裏から体温を奪っていく。

 長い沈黙の中を歩き続け、やがて重厚な両開きの木の扉の前にたどり着いた。

 使用人が恭しく頭を下げ、ゆっくりと扉を押し開ける。

 部屋の中に足を踏み入れた瞬間、ルカの心臓が早鐘のように鳴り始めた。

 広い執務室の中央にある大きなマホガニーの机の向こうに、一人の男が立っている。

 彼がヴォルグ辺境伯、レオンだった。

 王都で見慣れた貴族たちとは根本的に異なる、大木のように分厚くたくましい体躯をしている。

 漆黒の髪は無造作に切り揃えられ、鋭い眼光を放つ深い灰色の瞳がルカを射抜いた。

 アルファ特有の威圧感が、冷たい空気とともに肌を刺す。

 冬の針葉樹の森を思わせる、静かで鋭い気配が部屋全体を満たしていた。

 ルカは思わず一歩後ずさりそうになるのを必死に堪え、両手を胸の前で固く握りしめた。

 レオンは表情を一切変えることなく、無言のままルカを観察している。

 その視線はルカの華奢な肩から、血の気を失った青白い唇、そして小刻みに震えている指先へとゆっくりと移動した。

 何か恐ろしい言葉を投げかけられるのではないかと、ルカは目を伏せて身構える。

 しかし、レオンの口から紡がれたのは、予想とは全く異なる低い声だった。


「部屋の暖炉に、もっと薪をくべろ」


 その言葉はルカに向けられたものではなく、控えていた使用人に向けられた指示だった。

 ルカは驚いて顔を上げる。


「南から来たばかりの体には、この城は冷えすぎる」


 レオンの言葉は事務的で淡々としていたが、そこには確かな気遣いの色が混じっていた。

 視線を交わすことなく再び書類に目を落としたレオンの横顔を、ルカは呆然と見つめる。

 冷酷だと噂されていた男の、唐突で不器用な配慮。

 握りしめていたルカの手から、ほんの少しだけ余計な力が抜けていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ