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死者選定  作者: 修羅観音


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第十二章:暴かれる偽飾と、泥濘の罵声

食後の珈琲を啜りながらも、参加者たちの間に流れる空気は、どこまでも刺々しく乾いていた。


清水翼は、手持ち無沙汰そうにコーヒーカップを弄びながら、不満を隠そうともせずに吐き捨てた。

「……ったく。ここってドリンクバーがあるのはいいんだけどさ、漫画とか雑誌とか一切ねえんだな。監獄じゃあるまいし、少しは娯楽くらい用意しとけよ。」


その言葉に、椅子の背もたれに深く体重を預けていた智弘が、力なく同意するように頷いた。

「スマホもPCもないからな。外部と一切連絡取れないし、描きたい時に漫画も描けないから、やる事無さ過ぎて暇だよ、本当。」

彼は、情報の生命線を断たれた禁断症状に苛まれているかのように、落ち着きなく指先を動かしている。


翼は、そんな智弘を品定めするような、卑屈な笑みを浮かべて身を乗り出した。

「そういや智弘さん。あんた、エロ漫画描いてんだよな。どんなの描いてんだよ、見せてくれよ。ペンネームとかサークル名とか教えろよ。ここを無事に出られたら、読んでやるからさ。」


ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる翼に対し、智弘は露骨に不快そうな表情を浮かべて視線を逸らした。

「君、まだ未成年だから駄目だよ。それに、スマホもPCも無いんだから見せるのは無理だって。そもそも、ペンネームとかサークル名は教えないよ。そこは非公開だ。」


「自分のやってることは非公開、か。」

それまで黙って珈琲を啜っていた笠原慎介が、嘲笑を孕んだ低い声で割って入った。


「コンサルを名乗って商売しておきながら、実績も正体も隠すなんて。そんな事をしていて、まともな人間から信用されるわけがないだろうが。……あ、コンサルじゃないか。ただの汚い集金詐欺だったっけな。何だっけか、AI漫画コンサルだったか? 潔く詐欺師って名乗ったらどうなんだ、この青二才が。」


慎介の言葉に、智弘の顔が一瞬で激昂の赤に染まった。

「……なんだと!? 慎介さんだって詐欺師のくせに!プロフィールに書いてあったぞ? トレンドブログだか何だか知らないけど、自分のサイトは非公開にしてたんじゃないのかよ! しかもさ、手動ペナルティにならない方法を偉そうに教えて来るくせして、自分のブログとかメインサイトは思いっきり手動ペナルティ喰らってやんの!笑わせんなよ、無能の極致だろ!」

智弘は腹の底から嘲笑うようにゲラゲラと笑い声を上げ、慎介の痛い所を執拗に抉り出した。


「うるさい! 黙れ!」

慎介は顔を真っ赤にして立ち上がり、机を激しく叩いた。


「くそ……なんだよ、あのプロフィール。どっからどうやって、あんな重箱の隅を突っつくようなことまで調べ上げやがったんだ。気持ち悪い……。」

彼の憤りは、自分の醜悪な過去を完璧に把握している主催者側への、底知れぬ恐怖の裏返しでもあった。


「主催者には、こっちの事は全部筒抜けでお見通しっちゅうことやな。どこに隠れとっても、過去からは逃げられへん。逆らわんほうがええよ……。」

美馬義彦が、人生の酸いも甘いも噛み分けてきた老獪な溜息を漏らし、静かに目を閉じた。

企業を成長させるために多くの人間を切り捨ててきた彼もまた、自分の犯した罪がすべて白日の下に晒されているという事実に、言いようのない圧迫感を感じていたのである。


しばらく、重苦しい沈黙が食堂を支配した。


その静寂に耐えかねたように、村井幸子が珈琲カップをソーサーに戻しながら、翼の不満に同意するように呟いた。

「それにしても、翼君やないけど、確かに娯楽が一切ないのはちょっとなあ。時間が経つのが遅うて、余計なことばっかり考えてしまうわ。」


「トレーニングルームなら、ありましたよ。」

鶫が、静かに、けれど通る声で提案した。

今朝、彼岸と共に汗を流したあの場所を思い出し、少しでも場の空気が和らげばと考えた末の言葉だった。


「はぁ? 死ぬかも知れねえって時に、呑気にトレーニングなんかしてられっかよ。お前って、本当に救いようのない馬鹿だな。」

翼は即座に鶫の言葉を笑い飛ばした。

その瞳には、彼女を貶めることで辛うじて自分の自尊心を保とうとする、浅ましい悪意が滲んでいる。


「馬鹿なお前には、そこの生産性のないおっさんとお似合いの趣味だよ。非生産的な無能同士、せめてここの洗い物とか雑用でもやって、少しは人の役に立っとけよ。」

翼はゲラゲラと下品な笑い声を上げ、彼岸と鶫を一緒くたに侮辱した。


彼の罵倒を黙って聞いていた鶫だったが、どうしても見過ごせない一言に、静かに反論を返した。

「……自分で使った食器は自分で洗うとか、そういう最低限の意識はないの? 私や彼岸さんは、あなたの召使じゃないわ。」


「あ?なんだとコラ?」

翼が再び凄もうとした瞬間。


隣でニコニコと微笑んでいた彼岸が、穏やかな声で鶫に語りかけた。

「鶫さんは、とても賢い方だと感じますよ。自分の足で立ち、自分の手を動かすことの尊さを知っていらっしゃいます。」


「あ……有難う御座います。」

思いがけない彼岸の賛辞に、鶫は頬を微かに染めてお礼を言った。


その光景を、翼は顔を歪ませて睨みつけ、苛立ちを隠さずに鼻を鳴らした。

「ふん! 好きにやってろよ、無能どもが!」


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