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女王の呪い唄  作者: 西季幽司
第一部「幽霊坂からの招待状」
4/11

屋敷をさまよう幽霊③

「誰か来てくれ~! いや、天音さんだ。天音さん、書斎まで来てくれ~! 志功が・・・志功が倒れている~!」

 俺は声を限りに叫び続けた。

 やがて、どかどかと足音をさせて、応接間にいた人々が書斎に駆けつけて来た。

「天音さん。志功が大変だ」俺が机の後ろに倒れている功兄を指さす。

 机が陰になって功兄が見えない。天音さんが駆け寄って来て、功兄の姿を確かめると、一瞬、ドキリとしたようで、硬直した。「胸を・・・刺されていますね」と呟いてから、功兄の傍らにうずくまった。功兄が倒れていると聞いて、病気だと思ったのだろう。

「百十九番を――誰か、早く、救急車を呼んでください!」

 天音さんの声に「分かりました」と橋本弁護士が直ぐに反応した。

 ポケットから携帯電話を取り出して、電話を掛けようとしたその瞬間、「警察もお願い」と天音さんが言った。

「死んでいるのか?」頭の後ろから声がした。

 いつの間にか、隆俊叔父が背後に来て、様子を伺っていた。

「脈がありません。それに――」

 胸の傷と多量の出血を見れば、死んでいることは一目瞭然だろう。

「現場を荒らしてはいけません。さあ、皆さん、一旦、ここを出ましょう。直ぐに警察が駆けつけてくれます」

 橋本弁護士に促されて、俺たちは書斎を出た。

 応接間に戻り、重苦しい雰囲気の中、警察の到着を待った。空気の読めない隆俊叔父だけが、「誰が志功を殺したのだ⁉」、「あいつがいなくなると、会社はどうなる?」と無神経な質問を誰彼構わず投げつけていた。

 随分、長く感じたが、せいぜい二十分弱だっただろう。サイレンの音と共に救急隊員と警察官が駆け付けて来た。

 辺りが騒がしくなった。

 暫く応接室で待たされた。やがて、一人の男が現れ、茨城県警刑事部捜査第一課の安達(あだち)(よし)(やす)と名乗った。

 既にベテランの域に差し掛かった刑事だ。抜けるように額が大きい。瓢箪を思わせる風貌だ。鉢のように大きな頭は、頭脳の明晰さを表しているかのようだった。

「さて、被害者について教えて頂けますか?」と誰ともなく声をかける。皆が一斉に俺の顔を見た。まあ、当然だろう。俺が一番、近い肉親だ。

「阿舎利志功、アゼリの社長だ」と短く答えた。

「ああ、アゼリの――」と安達が呟く。まあ、この辺りでは有名な会社だ。「あなたは?」と俺に聞いた。

「志功の弟の志尊です」

「それで、今日、皆さま、お集まりなのは、何かあったのですか? それとも、こちらにお住まいで?」

「大事な話があるので来て欲しいと言われて、集まったのです。ここには兄一人で住んでいます」

「ほう~お一人で。それで大事な話というのは?」

「それを聞く前に、ほら、ああなってしまったので、分かりません」

「屋敷に着いたら、殺されていたということですか?」

「ええ、まあ」

「被害者を恨んでいた人物、或いは被害者とトラブルになっていた人物はいませんか?」

「功兄と? さあ、聞いたことありませんね。兄は人と争うような性格ではありませんでしたから」

 俺の言葉に、「うんうん」と晴美や橋本弁護士、高田夫妻が頷いた。

 その様子を見て、安達は「なるほど。被害者は人格者だったようですね」と言った。そして、「遺体の第一発見者は、あなたですね?」と俺に向かって尋ねた。

「はい。そうです。皆さん、お揃いなのに姿を現さないので、兄を探していて見つけました」

「なるほど。で、部屋を出て、遺体を見つけるまで、どのくらい時間がかかりましたか?」

 来た! やはり俺のこと、疑っているのだ。遺体の第一発見者を疑え――は捜査の鉄則だと聞く。

「さあ・・・二階にある功兄の部屋を見てから書斎に降りて来ましたから、十分か、いや十五分くらいかもしれません」

「なるほど。部屋に入って、殺害するのに十分な時間があった訳ですね」

 嫌味な言い方だが、その通りだ。さて、どう答えようか迷っていると、「待て。志尊の前に、俺が書斎に入った。志功の姿は無かった」と隆俊叔父が口を挟んだ。

「ほう~他にも書斎に入った方がいるのですね」

「ああ、入った。志功を探してな。だけど、いなかった。いや、机の陰に隠れていて、見えなかったと言った方が正確だろう」

「部屋の中に入って、確かめなかったのですか?」

「いいや。入り口から覗いただけだ」

「ふむ」と安達は頷くと、「他にどなたか、書斎を覗かれた方はいませんか?」と尋ねた。

「いいえ」と皆が首を振った。

「誰が書斎に入ったのか、聞かなくても分かりますよ」と高田涼介が言う。

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