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ガルメニ人参上 1

 廊下の天井照明は同じ照度を24時間変わることなく保っているのだけど、アイリーンは一段暗くなった様に思えてそのぶん思考にも遅れが生じた。

「女の人が居るよ」


挿絵(By みてみん)


 アイリーンが顔を赤く染め受話器を持ったまま口に出す。

「事務員の人じゃないのかなあ」

 昴くんが言う。

「その通りよ、この司令官室の中には一人しか居ないとでも思ってたんじゃないでしょうね」

 新月さんが指摘する。

「うちが行くときは何時も一人だったわ」

 アイリーンが言い返す。

「あのー、お名前とご用件をお伺いしたいのですが」

 丁寧な言葉の裏に『扉の前でゴタゴタしてるんじゃない』と罵る強い語調を感じる。

「失礼しました。私たちはスターキッドのクルーです。キャプテンアイリーン以下3名がオビス司令官に面会を求めてやって参りました。アポイントメントはアリオン艦長より入っていると思いますが、時間を伝えてなかったのに気付いてどうしたものかと話してました。今からお会いすることはできますでしょうか」

 新月さんが素晴らしい機転をきかせたビジネストークを発揮すると、扉が内側に開いて一行を導き入れた。

「私はオビス司令官の秘書をしていますスピカと申します。少しの間そちらでお待ち下さい」

 アイリーン一行は扉の内側で立ったまま待たされる。

『あのスピカと言う女性が戻って行く時、空間が揺らいだのに気付いたかい』

 頭の中に直接九論の声が響く。

 アイリーンも意識を集中して頑張る。

『どうしたのよ九論、突然テレパシーの訓練でも始めるの?』

 アイリーンが不思議がっている。

『こちらからはオビス司令官が見えてるのに向こう側からは見えてない様だな、途中で見えざるマジックカーテンで仕切られてる。用心するに越したことはない』

 九論がそう伝えてくるとアイリーンも違和感を覚え出す。

(うち達が来ることは伝えてる筈なのにこの対応は少し変だわね、もしかして司令官には伝わってないのかしら?そうだとしたらムカつくわね)

 アイリーンの体温が上昇して怒りのボルテージが高まっていく。

 隣に立っていた昴くんがアイリーンの異変に気付き手を取ってくる。

「愛鈴どうかしたの手の平が凄く熱くなってるよ」

「そうね、何でだろうね」

 昴くんが握ってきた手を軽くほどきながらツイっと前に出てそのまま足早に歩き出す。

「アイリーン駄目だ!」

 九論が言った時に新月さんも同じ内容の言葉を掛けている。

 しかしアイリーンは2人の言葉が聞こえなかったように進んで行き、見えざるカーテンに触れた。

 バチバチバチと音がして空間が白濁して押された分だけ凹んでいくけど通り抜けれそうではない。

 九論が『戻って来い』と言おうとした次の瞬間、アイリーンは見えざるカーテンの向こう側に平然と立っていてそのまま歩み出す。

「あいつ、テレポートしやがったな」

 九論が呆れた風に昴くんと新月さんの顔を交互に見合わせてる間にアイリーンは秘書のスピカを横へ押しやりオビス司令官の前に立つ。

「おじさん久しぶり、うちが来ることがちゃんと伝わっていたかしら?」

 秘書のスピカはアイリーンの怒気に怖じ気づいたように立ち尽くしている。

「やあ、アイリーン突然だね、君が今日来るとは聞いてなかったな、どこかで意図的な手違いがあったみたいですね。それにしても大きくなったね、それに相変わらず元気そうで嬉しいよ」

「うん、おじ…オビス司令官さんもうちが知っている人のままで良かったよ、もしかしたらうちが知らないオビス司令官になってしまったんじゃないのかなと心配してたからね、本当に良かった」

 アイリーンの怒気が急速に無くなり、代わりに涙がこぼれ落ちる。

 それを見たスピカが威勢を取り戻しアイリーンに向かって何か言おうとしたがオビス司令官がそれを片手で制止し口を開いた。

「スピカ君、今日の予定は全てキャンセルして休日と振替て下さい。理由は『働き過ぎでお腹が痛くなった』でいいですよ。後は宜しく頼みます」

「そんないい加減な理由で職場放棄されるのですか、諮問会にかけられますよ」

「それこそ、こんなくだらない理由で諮問会を開く事の方が疑問視されるだろうよ、何と言われようとも今日は帰るから」

 オビス司令官はそう言うと机の上の書類を全部まとめて引き出しに押し込んだ。

「いいの?」

 アイリーンは心配そうに涙を袖で拭いながら聞く。

「最近は軟禁状態で働かされているからね、締め切りが迫っている遅筆の小説家並みの激務を連日こなしているよ、この辺で無理をしてでも息抜きをしようと思っていた頃なんだ、正当な理由が出来て助かったよ」

「アリオン艦長にお願いしたんだよ『会いに行くから伝えてね』って『中で会おうね』って言ってくれたのに、さっき意図的なミスって言ってたよね誰の意図なのかなあ」

 アイリーンはそう言いながら女性秘書を睨む。

 スピカの表情が青ざめていく。

「私が通信指令部より連絡を受けたのが本日の始業前でしたので、司令官の業務が一段落してから報告しようと思っていたのです。確かに意図的に報告を遅らせましたが悪意があってのことではないと断言致します。来客側からの時間指定がありませんでしたので、お見えになった時にこちらの都合に合わせた時間を伝えようとしたのです。それで司令官に来客があった旨をお伝えして面会時間のお伺いを頂こうとしていた時に割り込まれたのです」

 さすがベテラン秘書だ、自分の立場を完璧に正当化した。

 ただアイリーンの名前を聞いていた筈なのに意図的に出さなかったのは悪意があっての事じゃないかと言ってもいいのだけど、オビス司令官は別のことを聞く。

「それで、アリオンは何時になったら戻って来るのかなあ」

 スピカは勝ち誇った表情を取り戻して返事する。

「アリオン艦長ならまだしばらくお戻りになりません。ルナ・ターミナルで休暇中の艦隊が休暇を切り上げて帰航するまでは防衛艦隊と一緒に基地周辺の巡回任務に当たることになりました。これはヘンナ副司令官の直接命令によるものです」

 オビス司令官は額に手を当てて言った。

「私に一言もなしにかね」

「その様な些細な事案で司令官の時間を取らせる訳にはいきません。食事のメニューを決めて頂いたことがありましたでしょうか、それと同じ事です」

 スピカは平然と言い返す。

 オビス司令官はもう何を言っても話が噛み合うことはないだろうと諦めて行動に移す。

「分かったありがとう、これからの事は優秀な君に任せるよ、じゃあ私は出掛けてくるからバリアを解除してもらえるかな」

「本日を休日になさるのなら、1時間の勤務時間は休日出勤扱いになりますが宜しいのですか」

「今更休日出勤がどうのこうのと言ってるレベルではないと思うのだが、それこそ好きにしたまえもう行かせてくれないか」

 泣き言の様にも聞こえてきた。

「最後に1つだけお願いがあります。緊急連絡用のポケット端末を持って行って下さい」

 スピカが下手投げで見事なコントロールをもってして端末を投げ渡す。

 オビス司令官は無言で受け取り胸ポケットに入れてアイリーンの手を引いて歩き出した。

 見えざるカーテンが無くなっているのは目の前に3人の姿が現れたので分かる。

「やあ、新月さんで良かったかな確か日本支部の成富さんの補佐をしていた人だよね。それと石井光一さんに良く似た人だね君もイノマン博士のクローンかな。それで中身は誰なんだろうね、ボクはアイリーンのお友達かな…アハハ」

 アイリーンにはオビス司令官が笑いながら3人と握手を交わしていく姿が愛おしく思えた。

 握手をしながら九論と昴くんは短い自己紹介だけして早々にその場を離れることにする。

 オビス司令官にしても昴くんの肩に乗っている見慣れない生物の事とか、アイリーンの肩に乗っているボロを纏った人形について直ぐにでも聞きたいと思ったが落ち着ける場所に座ってからにしようと我慢した。

「何処に行こうかな」

 オビス司令官が聞いてくる。

「うち達、朝ごはんを食べてないのよねお腹空いたわ」

 アイリーンが最重要課題をちらつかせた。

「じゃあ、まずは食事ができる所だね」

 そう言って先頭を歩き出す。

 基地の飲食街はオフィス街の下方第4層にあり、そこまでは6人乗りの卵をチャーターして5人が乗って移動した。

「来た来た。美味しそうなピザ!」

 アイリーンは特大の宇宙ピザを注文していてウエイトレスが持ってきた大皿に載ったピザを見て大喜びしている。

(ピザだと口に合わない時は、ほかの人のと交換して貰えるかも知れない。イヤ無理矢理にでも交換してみせるわ)

「先に食べてもいいわよね」

「いいよお食べなさい」

 新月さんのお許しを頂いた。

「愛鈴そのピザ凄く大きいけど一人で全部食べるつもりなの、きっとお腹痛くなるよ」

 昴くんが心配して聞いたのだけど。

 アイリーンはほくそ笑んだ。

「そうね、じゃあ昴くんに一切れあげるわ」

 12等分にカットされたピザを1枚つまむ。

「アッチ!」

 アイリーンが指をフーフーする。

「熱かったわ!火傷するかと思った」

(取り皿がテーブルに載ってたと思ったんだけど、あったわ)

「新月さん、そこのお皿5枚取ってもらっていいですか」

「5枚?」

 新月さんが不思議そうな顔をしながらアイリーンに手渡す。

(たぶん自分のピザの分よね、食べきれないので最初から皆に分けようとしてるんだろうけど1枚多いんじゃないかしら)

 アイリーンは九論、新月さん、昴君そしてオビス司令官にも自分のピザを分け与えながら微笑む。

 スターキッドAIのロボットカメラはその様子をテーブルに置かれた状態で見ていた。

(アイリーンは皆の料理を少しずつ貰うつもりなんだろうけど、絶対食べきれないと思うな、どうするつもりだろう)

「うん、正解だね、このピザ美味しいよ」

 昴くんが微笑む。

(良かったわ、これなら皆も文句を言わずにうちに分け与えてくれる筈よ)

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