74.幼馴染み 3
(オビスがちょっと変になっているもう無理矢理にでも連れて帰った方がいいのかも知れないな、でももう少しこの思春期病を見てたい気がするかも……)
その時、扉がギギギと軋み音をあげながら内側に開いた。
(ギギギはさすがに効果音だとは思うけどインテリアに凝ったオーナーみたい、これは内装に期待しても良さそうかな)
期待通りとはいかなかったけど室内はまじヤバくないかと言いたい程薄暗く、自分達が歩く通路だけが自動点滅タイプのスポットライトで明るく照らされていく。
両サイドにあるボックス席はスパイ防止装置が働いているみたいにキラキラしたカーテンに包まれていて話し声とか全く聞こえてこない。
代わりに落ち着いたラブソング的な音楽が静かに流れている。
スポットライトに誘導されるようにして十数歩進むと目の前にミラーボールが輝く無人のボックス席が現れた。
10人は座れるU字型シートの一番奥に2人並んで座り、この席で飲む酒が本当に終わりであることをアリオンが切に願っているとオビスがささやき声を掛けてくる。
『アリオンはこういう店は初めてだろう』
『馬鹿なことを言うなよ何回もあるさ、非合法のドラッグストアみたいな所だろう』
本当は士官学校時代にオビスと飲み歩いた時以外には呑み屋自体に行ったことがない。
(こういった店は初めてなのだけどさ、頷いたりしたらなんか負けを認めたみたいで悔しくて、つい出来心でウソをついてしまったよ)
ウソをついた後ろめたさで顔が赤くなってる気がして焦ってきた。
目の前のテーブルに丸い穴が開いて下から出てきたカクテルを素早く手に取り口をつける。
『ゴフッ、何これお酒じゃないじゃないか』
オレンジ色だったので柑橘系カクテルと思い込んで飲んだら凄く苦く瞬間的に毒を盛られてしまったと思った程だ。
オビスは細い目を見開きながら聞く。
『どうした、まだ酒が欲しかったのか? 今のは酔い覚ましだよ私が説明する間もなく飲んだお前も少しは悪いのだからな、この時間帯に来る時はだいたい酔い覚ましを飲んで帰るんだ。入る時に『苦水』と言ったろう、この店は会員制のコンパートメントクラブなんだよ、もちろん普通の酒もあるけどごめん、ごめんそんなに睨まないでくれよ前もって言わなかった私が悪かった』
アリオンは乾杯もせずに飲んでしまったことにあきれられたんじゃないかと思って更に顔が赤くなるのを感じながらオビスを睨んでいた。
元々あまり酔ってなかったのだけどそれでも急速に体内から酒精が消えていくのがわかる。
オビスはゆっくりちびちび飲んで徐々にアルコール濃度を下げているみたいだ。
(オビスの奴あんな不味いものをよく平気で飲んでいるな)
『酔いが一気に覚めてつまらないよー、弱い酒を少し貰ってもいいかなぁ』
(この店のことを非合法って言ってしまったけどスルーしてくれて助かったよー)
『わかった、さっきの騙されて飲んだカクテルの本物を作ってもらうよ』
アリオンがぶすっとしてイスに深く沈み込んで天井付近できらびやかに輝いているミラーボールを不思議そうに眺めていたら、さっきと同じ色したカクテルがテーブルの下からせりあがってきたので手に取って今度は騙されないぞと言った感じに少しずつ口に含む。
『この味、この味だよ良かった美味しくて懐かしい感じがする、ありがとね後はここで酔いを覚ましてから帰るだけだよね』
『この店は入会審査が厳しくて身分の保証が得られない人は入会出来ないし、ブース毎にスパイ防止装置が働いているから他人に聞かれたら困る話なんかをするのに向いているんだ』
(オビスはストレス溜め過ぎてるんだろうな、こんなに広いボックス席でスパイ防止装置を働かせて酔いざましを飲んで……いきなりストレッチなんかを始めたらどうしよう)
『なあオビス君、僕は口が軽いんだだからあんまり他人に話せないような内容なら聞かせないでくれないかな』
(面倒な事にならないように事前に釘を刺しておこう)
『いいじゃないか酒の席の酔っぱらいの戯れ言として聞いてくれよ』
(ほら来た何が酔っ払いの戯れ言だよ、すっかりしらふに戻ってるじゃないか今回の本題はこれからだな、酔いは覚めたし程よいアルコールは脳を活性化してくれるはずだ)
『じゃあ、冗談として聞いてやるよ』
(さあどこからでも掛かってこい)
アリオンは臨戦態勢をとって最後のカクテルを口に含む。
『東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地司令官を辞職しようと思ってるんだけど……どうかな?』
『ぶふぁぁぁーっ、ゲホ、ゴホ……ちょっと待て』
アリオンは自分の内ポケットから私物の携帯用スパイ防止装置を取り出してスイッチを入れた。
『これからが本題だとは思っていたけど卒業以来の最悪な冗談じゃないか、君は東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地の最高責任者なんだよ分かってるよね君の上司は半径1250光年以内には居ないんだよ、あとは連盟評議会が君の解任と新たな司令官の任命権を持っているくらいなんだ本気でそんなことを言ったら正気を疑われても仕方がない、本当に良かったよ僕に打ち明けてくれて、もし誰か他の人に話していたら僕は君が収容されている病院へ面会に行くことになっていたと思うよ』
アリオンは本気でそう思った。
オビスはアリオンの言葉を聞いてなかったように続きを話す。
『もう評議会を信用できなくなってしまってね、評議会は地球人排斥派によって洗脳されているとしか思えない結論しか出さなくなってしまってるんだよ、最近は保護派に対して地球人の移民はケンタウルス座アルファ星C2で完了しているのだから解散しなさいと言ってるんだ。擁護派に対してはもっと酷くてねドライアイスメテオ作戦の決行が決まった今となっては擁護のしようもないだろう存続自体が経費の無駄遣いになっていると言ってこちらの意見なんか聞こうともしない、排斥派は地球の自然環境を守りながら生きようとする地球人までも黙殺しようとしている。私たち擁護派の存在価値なんてゴミ箱の中を探したって見つからない。これからは連盟の枠組みから外れたところで活動したほうがやり易いと考えたんだ、冥王星のアンバ隊長も脱退計画を模索中なんだけど君に直接会って伝えなければと思って来てもらったのさ、それにしてもアリオン君は地球人を淘汰するとかいう計画を聞いた時に何も感じなかったのかい』
オビスはまだ酔っぱらっているみたいな口調で話し終えた。
『だから君は考え過ぎなんだよ、若ハゲさんになっても知らないからね。僕たちは長いものに巻かれている歯車の1つにしか過ぎないんだから「考えないで働け働け!」って歌いながら毎日を過ごせば良いんだよ、何故だかけっこう耳に馴染んでいてさ精神的にきついと思ったらそれを歌うんだ……本当に楽になるんだからね、こんなことならもっと早く相談するために呼んで欲しかったな』
『戦艦艦長はいいよなぁ、指揮棒は指揮卓で歌いながら振れるもんね、私はデスクが仕事場だから考えないでサインするわけにはいかないし皆が居る中で突然歌い出したりしたら……想像するだけで楽しくなるだろう』
「もう話しも尽きただろう帰ろうよ」
アリオンは立ち上がってオビスの腕を取り引き上げようとする。
『そこでだスターキッドとアイリーンの話なのだけどさ……』
オビスは腕を掴まれたまま話を続けようと抵抗した。
(ええっ~、ここでいきなりなんでスターキッドとアイリーンが出てくるのさー、でもスターキッドかぁ……乗ってみたかったなぁ、冥王星から石井光一と一緒にやってきたんだったよなぁ、イノマンが関わっているらしくて勇者にしか抜けない剣みたいに人を選んで中に入れないらしいけどオビスは入れたんだよなぁ~)
オビスの力が強くなり体が大きく揺さぶられる。
「艦長、アリオン艦長起きて下さいよー、スターキッドがこっちへ来てるそうですよー」
艦橋連絡係のアルビレオはソファーで寝込んでいるアリオンの両肩に手を添えて揺すりながら声を掛けていた。
(やめて~、体を揺すらないで……頭が~)
「あと5分……」
「寝るんだったら個室ブースに行って下さい、ここで寝てたら急な来客時にサボってるんじゃないかと思われて言い訳に困りますよ、返事できますか」
「だ、大丈夫、僕は24時間働ける……」
アリオンはそのままの状態でまともでない返事をする。
アルビレオはアリオン艦長の意識がどのくらい覚醒しているのか確認したかった。
「連絡書をテーブルの上に置いておきますよ、ルナ・ターミナルを飛び立ったスターキッドがこっちに向かったと偵察衛星からの情報です」
(艦長には聞こえたよね僕は戻るからね)
ソファーに背を向け退室寸前に声を掛けられた。
「み、水を一杯くれないか」
踵を返したアルビレオはテーブルの上に載っている空のウイスキーグラスと水差しを手に取るとウイスキーグラスに水を注ぎクルクルっと片手で回して口を付けず器用に飲む、そしてポケットから取り出したアンプルの中身をグラスに入れ水を足しクルクルっと回し艦長に手渡す。
「どうぞお飲み下さい」
アリオンは差し出されたウイスキーグラスを怪訝そうにチラッと見ただけで体勢を変えずに手だけ伸ばして受け取り、目を閉じたまま一気に飲み干した。
「ぐっは、貴様……何を入れた」
アリオンは喉元を押さえ、それをアルビレオは微笑しながら見下ろしている。




