64.巨大パフェ 1
少し焦り気味の九論を横目にアイリーンは涼しげに言う。
「早目に決着を付けたいの」
(うじうじした探り合いは嫌いなのよ)
「仕方ない結論から言わせてもらうと、実は私はイノマンのクローンなのさ」
ピエロが突然とんでもないことを言い出す。
「えーっ! うそよ! 信じられないわ」
「100年程前冥王星のイノマンが育成中だったクローンに事故で死にかけていた石井光一さんの脳と幽体をコピーしてカプセルに入れ冥王星軌道上に打ち上げた。連盟が光一さんのクローンを回収してから冥王星をしらみつぶしに調査したけど何も発見できなかった。地下研究所を守り通したのもイノマンのクローンなんです。その時私は地球防衛基地のイノマンによりクローンとして育てられていたのですけどね」
「クローンって……それに冥王星のイノマンとか基地のイノマンとか一体全体何なのよ」
「・・・」
「言えないってのねわかったわ、それよりイノマンのクローンがそんなにたくさん居るって聞いてないわよ」
「それぞれのイノマンがそれぞれの場所でクローン育成してましたからですね、本人達も全体で何体居たかなんて把握してないと思いますよ」
「そんなにクローン作って何をしようとしていたのか……やっぱりいい、聞かない事にするわ、聞いてはいけない気がするの」
「懸命ですね。クローン光一は姿がイノマンのままですが初めて生きている他人の脳と幽体のコピーに成功したクローンなんですよ、冥王星のイノマンは大喜びしたと聞いています。私はプレミアムタイプとして地球防衛基地で密かに活動を始めたフリープラネット同盟で誕生しました。身体を整形され頭脳も幽体も成長の過程で作り上げていったのです。フリープラネット同盟は基地内でイノマンクローン達が存命する為に立ち上げた組織です。イノマンも指名手配中なのはあなたも知っていますよね、それであなた達を勧誘に行ったのです、今もそうですよ」
「勧誘に来たのなら敵ではないと思って良いのかしら」
「信じてもらえるならその通りです」
「『信じられない』と言ったらどうする気だ」
(九論、少し怖いわよ)
「一度退散しますよあの時のように、そうならないと私は信じてますけど、それとあの掲示板にはもう1つ重要な張り紙がありましたよね」
「だからそれも聞きたくてここに居るのよ、今なら教えてくれるんでしょう。『地球人類排除に決定! ドライアイスメテオ作戦開始される』っていう張り紙は何かのジョークよね」
「あの掲示板は東域宇宙連盟の公式です」
「とんでもない事だわ、排除なんてジェノサイドのことよね地球上の人類全て滅ぼすって書いてあるのよ、100億人近い人間をどうやって殲滅させるってのよ」
「公式では発表されてませんが街の噂と我々が得た情報は一致していまして、それはですね火星の公転軌道がアステロイド側から月裏へと繋がっているコスモトンネルに一番近づいた時、コスモトンネルへ重粒子を流してあれこれすると月の裏側で巨大なドライアイスの塊が出来上がるのですよ」
「なんだか、チャララッチャッチャッチャって料理番組を聞いてる気分になってきたわ、そのドライアイスの球を地球人めがけて投げつけようとでも言うの」
「小さい球でチマチマ攻撃してたら時間がかかるのと死体の処理が大変でしょう、計画では直径1000kmの巨大球になるまで形成します。月の直径が大体3500kmですから、どれくらいの大きさか想像つくでしょう、それを3個作って太平洋と大西洋それにインド洋に落とします。通常なら大気との摩擦で燃え尽きますが、あれこれの作用によって真っ赤に加熱された状態のままで海に落ちてドライアイスが一気に昇華されます。その莫大なエネルギーにより落下地点から半径3000キロメートルの範囲は海の底が見えるほど海水が押し退けられ、それは巨大津波となって世界各地に襲いかかります」
「話が違うわ、そんな事をすれば人類だけじゃなく植物を含めた全ての地上生物が死滅してしまうじゃない」
「人類排斥派の実力者は『そんな事は知ったこっちゃない』と言うでしょうね」
「絶対にそんな事なんかさせない、阻止する方法を教えてよ、何かあるんでしょう、だからうち達に声を掛けたんでしょう」
「事がここまで進んでからでは手が出せませんね、スターキッド1機で何とかできるレベルじゃないです」
「うちが冥王星へテレポートしてアンバ隊長とレッド隊長を説得してアポーツで艦隊毎こっち側に呼び出すわ」
「アイリーン無茶を言うんじゃない、できないことを考えるより何をすれば一番効果的かを考えるんだ。ピエロ君も一方的に人類が滅びるのを見るのが面白くないから私達に声を掛けたんじゃないのか」
「そう思われても構わないです。一緒に窮鼠は猫にでも噛み付くのだと言うことを見せてやりたいですね、ただ残された時間は48時間なんですよ」
「「48時間!!!」」
その時アイリーンが注文した品が運ばれてきた。
ウエイターは地球人が発する奇声に驚く様子も見せずにバケツみたいに大きなガラス容器に盛られた色鮮やかなパフェを置いていく。
この様な巨大なパフェを注文するのだからまともな人達ではないと思ったらしく配膳が終わるとそそくさと去っていった。
取り分け用のカップとスプーンが一人一人の前に配られアイスクリームデッシャーとトングが別容器に入れられて置かれているので好きなところを好きな量だけ取って食べれば良いのだと分かる。
しかしみんな今までの危機的な話を忘れ唖然と見上げているだけで誰も手を出そうとしない。
「ごめんなさい! 注文の仕方を間違えちゃったみたいね、5人分注文したんだけど……何で全員分が一つの器に入って来るのかなあ」
アイリーンが両手を合わせて謝っている。
「でもこのままでも食べられるわね、新月さんは甘いものがダメらしいからカカオチョコアイスなんか良いんじゃないかしら、うちが新月さんの分として注文した所だよ」
(このカカオチョコアイスまでたどり着くためには上のトッピンクされた果物とバニラアイスをどかさないとダメなのよね)
「愛鈴さん、どう見てもこのメンバーで完食するのは無理だと思うよ、量も思ってた以上だし」
隣で昴くんが不安げに声を掛けてくる。
しかしその手にはしっかりとスプーンが握られていて臨戦態勢は整っているようだ。
「うちもそう思うわ、でも半分までくらいならいけるんじゃないかしら、その下はカラフルな寒天ゼリーだけみたいだし残しても問題ないと思うよ」
(最初に注文した時ウエイトレスが『本当に一緒にお持ちして良いのでしょうか』と聞いてきたので『いいわよ』って返事したのよ。それが間違いの元だったのね一番下が〖コーヒーゼリー〗でうちが注文した順番に重なってはいるけどね『別々に持ってきて』と正確に言わなくっちゃいけなかったのかなぁ、まあ何とかなるわよね)
「愛鈴さん僕は食べる前からお腹一杯になってしまったみたいだよ」
「駄目ようちと昴くんとピエロさんで上の部分のバニラアイスを平らげるのよ、頑張って!」
(バニラアイスが無くなればあの2人も参戦してくれるはずよ)
「私もなんですか?」
ピエロは何で私がと思っている。
「そうよ同じ釜の飯を食う仲間になるのよ」
(((それは、ちょっと意味が違うと思うな)))
「グチグチ言わないの、ほらみんなの分を取り分けるからカップを渡しなさいよ」
「私は自分の分は自分で取りますから、アイリーンさんのお手を煩わせる必要はありませんわ」
「私の分はどれになるのかな」
みんながトングやらデッシャーを駆使して自分用のカップにそれぞれの思いを込めた盛り付けが終わる。
(まあ結果オーライよね)
「じゃあみんなに行き渡ったところで乾杯しましょう。ピエロが音頭を取ってね」
「「えっ!」」
「パフェで乾杯なんて聞いたことがないわね」
新月さんが常識を言ってきた。
「いいじゃない『儀式』よ、うち達が一致団結しましょうってことよ」
「何で発声が私なのですか? 九論さんのほうが適任だと思いますけど」
ピエロがオドオドと九論の方を見る。
「諦めろ!」
九論が一蹴する。
「あなたが一番長生きしているからですよ、恩恵を分け与えるのは当然でしょう」
新月さんが言う。
『あんた培養槽に居た時から数えると100年以上生きてるんでしょう』とアイリーンの目が訴えている。
(仕方ない、ここは、逆らうよりさっさと済ませた方が得策か)
ピエロは諦めた。
「それでは『私達人類の希望ある未来を願って』乾杯!」
「かんぱい!」
声は一人分だけしかしない。
乾杯の唱和をしたのはアイリーンだけで残りの3人は冷ややかな目付きで見返している。
「愛鈴さん恥ずかしいよ回りの人がこっち見てるよ、地球出身者は僕達だけみたいだし少し怖いよ」
昴くんは野生のカンに従った。
「あまり目立つ行動は取らないほうがいいと思いましたので」
新月さんは理性的に判断した。
「もういいわ、さっさと食べながらお話ししましょう」
「アイリーン無理して食べて体調不良を起こしたら今後の行動に差障りが出ないとも限らないからな、無理強いはしないように」
目前のカップに入っているフルーツを少しだけおざなりに噛ってから、九論が無表情で諭してくる。
「分かったわ、無理して食べなくてもいいわよ、このあと動けなくなったら大変だものね」
(あと48時間しかないのよね)
「やっぱりレッド隊長だけでも連れて来たいわ〖うずしお〗を使えば半日で天王星から艦隊を連れて来れるわよ」
(レッド隊長のことだから、あれから艦隊くらい揃えてるわよね)
「そして宇宙大戦争を開幕させる気かね、レッド隊長が常識と言うものを知っていれば苦しい立場に追い込むことになるがアイリーンはそれでもいいんだな」
九論が厳しい表情で詰問してきた。
「宇宙大戦争? もしかしてここがごった返してるのって、みんな観戦が目的で来てるっていうの」
アイリーンが険しい表情になっていく。




