巨大パフェ 1
少し焦り気味の九論を横目にアイリーンは涼しげに言う。
「早目に決着を付けたいの」
(うじうじした探り合いは嫌いなのよ)
「わかった。私も結論から言うよ私はイノマンのクローンなのさ」
ピエロが突然とんでもないことを言い出す。
「えーっ!うそよ!信じられないわ」
「100年程前イノマンが自分のクローンに石井光一さんの脳と幽体をコピーしてカプセルに入れ冥王星軌道上に打ち上げた。その頃のイノマンは何体もの自分のクローンを造ってましてね、連盟が光一さんのクローンを回収した後、研究所をしらみつぶしに調査してる時、地下研究所を守り通したのもイノマンのクローンなんです。その時私は培養槽の中で育っていたのですけどね」
「クローンってイノマン本人は何してたのよ」
「・・・」
「言えないってのねわかったわ、それよりイノマンのクローンがそんなにたくさん居るって聞いてないわよ」
「自分のクローンに実験目的でたくさん造らせていたからですね、イノマン自信も何体居たかなんて把握してないと思いますよ」
「実験って一体何をしていたのか…やっぱりいい、聞かない事にするわ、聞いてはいけない気がするの」
「懸命ですね。クローン光一は姿がイノマンのままですが初めて生きている人間の脳と幽体のコピーに成功したクローンなんですよ、イノマンは大喜びして改造を繰り返しほぼ不老のクローンにしてしまったのです。私はプレミアムタイプとして初期の頃から時間をかけて造られたんです。身体を整形され頭脳も幽体も成長の過程で作り上げていったのです。フリープラネット同盟はイノマンのクローンが自分達の為に立ち上げた組織なんですよ。それで光一さんとあなたを勧誘に行ったのです、今もそうですよ」
「勧誘に来たのなら敵ではないと思って良いのかしら」
「信じてもらえるならその通りです」
「『信じられない』と言ったらどうする気だ」
(九論、少し怖いわよ)
「一度退散しますよあの時のように、そうならないと私は信じてますけど。あの掲示板にはもう1つ重要な張り紙がありましたよね」
「だからそれも聞きたくてここに居るのよ、今なら教えてくれるんでしょう。『地球人類オミットに決定ドライアイスメテオ作戦開始される』についての張り紙は何かのジョークよね」
「あの掲示板は東域宇宙連盟の公式です」
「とんでもない事だわ、オミットなんて優しい言葉で言っているけどジェノサイドじゃないよ地球上の人類を全て滅ぼすって書いてあるのよ、いったい77億人の人間をどうやって殲滅させるってのよ」
「公式では発表されてませんが街の噂と我々が得た情報は一致していまして、それはですね火星の公転軌道がアステロイド側から月裏へと繋がっているコスモトンネルに一番近付いた時、コスモトンネルへ重粒子を流してあれこれすると月の裏側で巨大なドライアイスの塊が出来上がるのですよ」
「なんだか、チャララッチャララって音楽の料理番組を聞いてる気分になってきたわ。そのドライアイスの球を地球人めがけて投げつけようとでも言うの」
「小さい球でチマチマ攻撃してたら時間がかかるのと死体の処理が大変でしょう。計画では直径1000kmの巨大球になるまで形成します。月の直径が大体3500kmですから、どれくらいの大きさか想像つくでしょう。それを3個作って太平洋と大西洋それにインド洋に落とします。通常なら大気との摩擦で燃え尽きますが、あれこれの作用によって真っ赤に加熱された状態のままで海に落ちてドライアイスが一気に昇華されます。その莫大なエネルギーにより落下地点から半径3000キロメートルの範囲は海の底が見えるほど海水が押し退けられ、それは巨大津波となって世界各地に襲いかかります」
「話が違うわ、そんな事をすれば人類だけじゃなく植物を含めた全ての地上生物が死滅してしまうじゃない」
「人類排斥派の実力者は『そんな事は知ったこっちゃない』と言うでしょうね」
「絶対にそんな事なんかさせない。阻止する方法を教えてよ、何かあるんでしょう、だからうち達に声を掛けたんでしょう」
「事がここまで進んでからでは手が出せませんね、スターキッド1機で何とかできるレベルじゃないです」
「うちが冥王星へテレポートしてアンバ隊長とレッド隊長を説得してアポーツで艦隊毎こっち側に呼び出すわ」
「アイリーン無理を言うんじゃない。できないことを考えるより何をすれば一番効果的かを考えるんだ。ピエロ君も一方的に人類が滅びるのを見るのが面白くないから私達に声を掛けたんじゃないのか」
「そう思われても構わないです。一緒に窮鼠は猫にでも噛み付くのだと言うことを見せてやりたいですね、ただ残された時間は48時間なんですよ」
「「48時間!!!」」
アイリーンが注文した品が運ばれてきた。
ウエイターは地球人が発する奇声に驚く様子も見せずにバケツみたいに大きなガラス容器に盛られた色鮮やかなパフェを置いていく。
この様な巨大なパフェを注文するのだからまともな人達ではないと思ったらしく配膳が終わるとそそくさと去っていった。
取り分け用のカップとスプーンが一人一人の前に配られアイスクリームデッシャーとトングが別容器に入れられて置かれているので好きなところを好きな量だけ取って食べれば良いのだと分かる。
しかし皆、唖然と見上げているだけで誰も手を出そうとしない。
「ごめんなさい注文の仕方を間違えちゃったのかなあ5人分注文したんだけど、何で全部が一つの器に入って来るのかなあ」
昴くんが両手を合わせて謝っている。
「でもこのまま食べても大丈夫だよね、ほら新月さんも甘いものがダメならここのカカオチョコアイスなんか良いんじゃないかしら、うちが新月さんの分として注文した所だよ」
(このカカオチョコまでたどり着くためには上のトッピンクされたバニラアイスをどかさないとダメなのよね)
「愛鈴さん、どう見てもこのメンバーで完食するのは無理だと思うよ、量も思ってた以上だし」
隣で昴くんが不安げに声を掛けてくる。
しかしその手にはしっかりとスプーンが握られていて臨戦態勢は整っているようだ。
「うちもそう思うわ、でも半分までくらいならいけるんじゃないかしら、その下はカラフルな寒天ゼリーだけみたいだし残しても問題ないと思うよ」
(最初に注文した時ウエイトレスが『一緒にお持ちして良いでしょうか』と聞いてきたので『いいわよ』って返事したのよ。それが間違いの元だったのね一番下が〖コーヒーゼリー〗でうちが注文した順番に重なってはいるけどね『別々に持ってきて』と言わなくっちゃいけなかったのかなぁ、翻訳ミスだったのかも知れないわね、まあ何とかなるわよね)
「愛鈴さん僕は食べる前からお腹一杯になってしまったみたいだよ」
「駄目ようちと昴くんとピエロさんで上の部分のバニラアイスを平らげるのよ、頑張って!」
(バニラアイスが無くなればあの2人も参戦してくれるはずよ)
「私もなんですか?」
ピエロは何で私がと思ってる。
「そうよ同じ釜の飯を食う仲間になるのよ」
(((それは、ちょっと意味が違うと思うな)))
「愚痴愚痴言わないの、ほらみんなの分を取り分けるからカップを渡しなさいよ」
「私はバニラアイスがなくなったらカカオを自分で取りますから、アイリーンさんのお手を煩わせる必要はありませんわ」
「そのあと私はカカオの下に沈んでいるフルーツを貰うためにかき回すが良いだろうな」
みんながトングやらデッシャーを駆使して自分用のカップにそれぞれの思いを込めた盛り付けが終わる。
(まあ結果オーライよね)
「じゃあみんなに行き渡ったところで乾杯しましょう。ピエロが音頭を取ってね」
「「えっ!」」
「パフェで乾杯なんて聞いたことがないわね」
新月さんが常識を言ってきた。
「良いじゃない『儀式』よ、うち達が一致団結しましょうってことよ」
「何で発声が私なのですか?九論さんのほうが適任だと思いますけど」
ピエロがオドオドと九論の方を見る。
「諦めろ!」
九論が一蹴する。
「あなたが一番長生きしているからよ、恩恵を分け与えるのは当然でしょう」
新月さんが言う。
『あんた培養槽に居た時から数えると100年以上生きてるんでしょう』とアイリーンの目が訴えている。
(仕方ない、ここは、逆らうよりさっさと済ませた方が得策か)
ピエロは諦めた。
「それでは『私達人類の希望ある未来を願って』乾杯!」
「かんぱい!」
声は一人分だけしかしない。
乾杯の唱和をしたのはアイリーンだけで残りの3人は冷ややかな目付きで見返している。
「愛鈴さん恥ずかしいよ回りの人がこっち見てるよ、地球出身者は僕達だけみたいだし少し怖いよ」
昴くんは野生のカンに従った。
「あまり目立つ行動は取らないほうがいいと思いましたので」
新月さんは理性的に判断した。
「もういいわ、さっさと食べながらお話ししましょう」
「アイリーン無理して食べて体調不良を起こしたら今後の行動に差障りが出ないとも限らないからな、無理強いはしないように」
目前のカップに入っているフルーツを少しだけおざなりに噛ってから、九論が無表情で諭してくる。
「分かったわ、無理して食べなくてもいいわよ、このあと動けなくなったら大変だものね」
(あと48時間しかないのよね)
「やっぱりレッド隊長だけでも連れて来たいわ〖うずしお〗を使えば半日で天王星から艦隊を連れて来れるわよ」
(レッド隊長のことだから、あれから艦隊くらい揃えてるわよね)
「そして宇宙大戦争を開幕させる気かね、レッド隊長が常識と言うものを知っていれば苦しい立場に追い込むことになるがアイリーンはそれでもいいんだな」
九論が厳しい表情で詰問してきた。
「宇宙大戦争?もしかして今ここが人でごった返してるのってそれが理由なの、みんな観戦しに来てるっての」




