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昴くんは宇宙人 2

 スターキッドはゆっくりとした速度で月へと向かっている。

「AIのくせに他人を落とし入れて自分の評価を上げようとするのは恥ずかしくないのか、私はお前とリンクしているだろうが、それと根も葉もない噂話はするんじゃない」

 スターキッドAIの余計なお喋りを黙って聞いていた九論が言う。

〈僕が聞いたことに対する返事はしてくれるよ、でも、僕とアシュラはアイリーンが僕から離れた所で取る行動についても検閲された後のデーターではなくてリアルタイムでの情報が欲しいのさ、それと喩え眉唾な噂話でも貴重な情報には違いない筈だよ〉

「2人共会話が盛り上がっているところ悪いんだけど、うちも知らないような突っ込みどころ満載の長い話しをしてるわね、あまりにもあ然すぎて突っ込むタイミングを見失なってしまったわ。昴くんと新月さんがね固まってしまってるので一旦終りにしましょう。昴くん何か聞きたい事があれば言っていいわよ、そういうところだから」

「僕はいいやトイレに起きただけだから、もう寝るね聞きたいことは明日にしてもいいよね」

「いいわよおやすみなさい」

〈おやすみなさい〉

「おやすみ」

「私はもう少し会話に混ざるわ、今後の事も少し聞いとかないと眠れそうにないから」

「それなら新月さんの座れる椅子を持ってくるか」

 九論はそう言いながらコクピットから出ていった。

(たぶん隣の休憩室に行ったんだと思うから直ぐに戻って来るわよね)

 アイリーンは悪戯っ子みたいに目を輝かせた。

「ヘヘッ、うちは飲めないけど取って置きのいいお酒があるのよ、以前のキャプテンが地球のお酒を飲んでいたみたいで倉庫に眠ってたのを見つけてたのよね、それでアイン星人のエム18母船に乗った時アンバ船長と交渉してアイン星のお酒とかと交換したの天王星のレッド隊長とも同じことをしたわ、その時は地球産とアイン星産の2種類と物々交換したのね、だから今ここに地球産、アイン星産、モーリス星産の3種類のお酒があるのよ、新月さん飲んでみませんか」

「アイリーンさんは飲んでないでしょうね、暦年齢では成人していても実年齢は未成年なんですからね、言うまでもなく理由は分かっているでしょう」

「もちろん分かっているわ、でもうちは無国籍だからどこの国の法律も適応されないと思うの、おまけにここではどこの国の法律も拘束力を持たないんじゃないかしら」

「屁理屈は言わないのよ」

 新月さんは笑いを堪えている。

「はい、はい分かりましたよ」

 アイリーンはニヤついた。

(既に4歳の時に飲んでますけどね!だからか成長が遅いのは…別にいいわ小柄なほうが小回りが効くし利点は多いはずよ)

「私も飲むぞ当然の権利はあるよな。ツマミも持ってきていいよな」

 九論は新月さんのために持ってきた椅子と小さめのテーブルを床に固定すると再び今度は酒とつまみを取りに出て行こうとしている。

「いいわよ後で飲んだ感想聞かせてね、でも九論はアルコール飲んでも平気なの?」

「問題ない…ハズだ今日が初めてだがな」

(これはやばくなりそうな予感がするわ)

「新月さん操縦席をこっち向けるからここで寝てもらえますか、うちは簡易ベッドで寝ますので」

「ありがとう助かりますわ」

「Aちゃん監視よろしくね、酔っぱらいが暴れだしたら睡眠ガスの使用を許可するわ」

「失礼な!」

 九論がまだ半分凍ったままの枝豆を皿に載せて戻って来ている。

 テーブルの上に枝豆とハーフボトルの酒3本を置くとグラスが置けない。

(どうする気だろうか)

 アイリーンは少しだけ心配した。

「私は少しだけ頂くわ、珍しいお酒ですもの、知識としての味見でね」

 グラスを手に持ったままの新月さんの言葉が言い訳のように聞こえる。

「じゃぁうちは寝るからおやすみなさい」

「おやすみ…」

(うちも簡易ベッドで寝るのは初めてね、大丈夫かしら…ア~フおやすみ)

 アイリーンのふかふかベッドの中で昴くんは深い眠りに落ちていた。

『にいちゃんまって…兄さん、翔兄どこにいるの返事してよ、僕は宇宙に来てしまったよ…兄さんあの時車で僕を助けてくれたのは学年主任の新月先生だったよ、襲ってきたあいつらはハントザETと言って宇宙人と接触がある人を探して連れ去っているんだって、翔兄さんと宣子さんは捕まらなかったよね、酷いことされなかったかな僕だけ逃げて悪かったと思っているよ、ごめんなさい。どうも一緒に逃げた愛鈴さんが元凶みたいなんだけどさ、彼女が言うのに僕も宇宙人の仲間だって『奇跡の新生児』とか言われてたでしょう、あの時に宇宙人との接触があったって言うんだよ、笑っちゃうよね、あと一つ笑っちゃうことがあってさ、ハントザETが宇宙人と呼んでいるのは宇宙で生活をしたことがある地球人を含むんだって、地球上に純粋な宇宙人がいなくなっているのが理由なんだってさ、宇宙で生活したことがある地球人の中に愛鈴さんも含まれているんだって、愛鈴さんは、僕がハントザETに捕まる前に一緒に宇宙へ逃げるつもりで迎えに来たんだって、今は新月先生も一緒に愛鈴さんの宇宙船に乗って月に向かっているんだよ、もう信じるしかないと思っているんだけど、本当は僕の頭がおかしくなってしまったんじゃないかと不安でもあるんだ、兄さんはどう思う、ねえ翔兄さん、にいちゃん…』

「うるさいぞ昴さっきから耳元でずーっと話し掛けやがって寝られないじゃないか、さっきまでお前のことが心配で寝付けずに…昴なのか?お前は無事なのか、帰って来ないから心配で堪らなかったんだからな、宣子さんもずっと泣いていたから宣子さんにもちゃんと謝っとくんだぞ、昴よぅもう帰って来れないのか、会えないのか…うっうっグスッ」

『ごめん兄さん宣子さんの所には行けそうもないから、僕の代わりに兄さんから謝っておいて』

『そ、それもそうだな、こんな深夜にお前を宣子さんの所に行かそうとした俺が間違っていた。お前は行かなくていい俺が行ってくる』

『兄さん明日にしたほうがいいと思うよ、今は真夜中なんだし』

『そうだなお前はいつも正しいことしか言わないつまらん奴だったな、それで今どこに居るって言ってたかな』

『兄さんさっきの長い話しをもう一回聞きたいわけ僕は嫌だよ、だから結論だけ言うよ僕は今、宇宙船に乗って宇宙に出て月に向かっていてベッドの中で夢を見ているんだ…だから全部夢なんだよ夢で良かったね兄さん、冬休み何して遊ぼうか…』

(そうだよ長い長い夢を見ているんだ、良かったなー)

「昴くん…重い、重いよ上に乗らないで…」

(何?この柔らかいの…)

「あ、愛鈴さん、な、何で僕の下敷きになっているの…」

 ドシン!

「イタタ?タ…あれ、痛くない?」

「重力制御装置が正常に機能している証拠よ、一定以上の加速度は緩和されるの、うちが昴くんの下敷きになっていたのは、昴くんの横で寝てたうちに覆い被さったからでしょう。何でうちが昴くんの横で寝ていたかと言うとですねうちが隣の簡易ベッドで寝てた時に昴くんが寝苦しそうに唸りだしたので頭を撫でながら子守唄を歌ったのよ、そうしたらうちも一緒に寝てしまったみたいね、でも何もなかったし問題ないわ」

「『何もなかったし問題ないわ』で済ませていい問題なのだろうか」

「うちがいいと言っているんだからいいのよ、少し遅れたけど、おはよう昴くん」

「あっ、おはようございます。う~んと少しは痛いし本当に夢の続きではなさそうですね」

「まだそんなことを思っているの、しつこいのは嫌われちゃうよ」

〈アイリーンおはよう。朝から仲が良くて羨ましいですよ、お二人共いつまでもそんな冗談を言い合ってないでコクピットに来てもらえますか〉

 スターキッドAIがスピーカー越しに朝の挨拶をしてくる。

(何かあったわね、あの二人のことだわまさかコクピット汚したんじゃないだろうね)

「そうそうあの2人は絶体二日酔いしてるよね、ねえそうでしょう?」

〈他人の不幸を期待すると自分に跳ね返って来ますよ〉

「そうよね悪かったわごめんなさい。二人は無事よね」

〈ご自分の目で確めたらいいでしょう〉

「わかったわ、昴くんも一緒に行きましょうね」

(その前にトイレ済ませて手と顔を綺麗にしなくっちゃね)

「「おはようアイリーン」」

 コクピットに入るなり九論と新月さんが同時に挨拶をしてきた。

(二人ともなんて清々しい表情なのよ)

「夕べお酒飲まなかったの?」

「美味しかったよ、やはり地球産が一番合うね冥王星のも天王星のも美味しかったよ」

「えっ、どれだけ飲んだのさ」

「それぞれ1本づつ飲んだわ、中途半端に残すとアイリーンが飲むかも知れないって話しになってね、2人で3本空にしたから次に飲む時は新品の封を切ることになるわね」

「え~っ、うちってそんなに信用ないかなぁ」

(しまったようちの考えを読まれていたとは、顔に出てたかなぁ)

「事と次第によるな、そうそうこれからのことなんだが火飛びトンネルが使えそうにないんだな」

 九論が『火飛びトンネル』なんて言葉を使ってきたけどそんなの誰も知らない。

「火飛びトンネルって何なの」

「昨夜の酒飲みながらの話で月からアステロイドまでのトンネルの呼び方を決めようってなってね、火星を飛び越えるのだから火飛びにしようかってなったのさ」

(九論にしては珍しくお茶目なことを言うじゃない、でも相変わらず無表情で面白さに欠けるわ)

「まあいいわ、それで使えなくなった理由はなんなのよ」

「AIよりの情報なんだが連盟の連中はトンネル入口付近に集合しているらしい。このままだと鉢合わせになるな、何か策を練るか迂回するかだがどちらにする」

「全速力で突っ込んじゃえば…ダメなの」

「トンネルには進入速度と言うものがあってかなり遅く設定されている。それより速すぎても遅すぎてもトンネルには入れないんだ」

「厄介なのね…ヘッヘッへ」

「アイリーンどうかしたのか、大丈夫か?」

「うちの腕の見せ所よね」

 アイリーンが紅潮してる。

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