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昴くんは頑固者 1

 スターキッドは地球の衛星軌道を周回している。

〈アイリーンそろそろ最終到着地点を入力してもらえますか〉

「マップ上にポイントで良いよね…ここに何時に着くのかな」

〈地上に下りる時間はどこだろうと深夜の1時って決めてましたよね、もうだいぶ前のことになりますけど〉

「そうね、地球上に発着するのは深夜の1時から2時の間にしようって決めたような覚えがあるわ、その時バイオキッドは居なかったからクーちゃんは知らないでしょうけど」

「私は定期的にAIとリンクして共有情報は得ている。全情報量の15%はプライベート部分だと言い張って開示してくれなかったからな、いつか無理やり奪い取ってやろうと考えている」

「やめなさいよ可哀相でしょう、それとエーちゃんと呼んであげないといけないわよ」

〈僕はそんなに気にしてませんから大丈夫ですよ、それよりアイリーン何か食べとかなくてもいいですか〉

「そうだった地上に降りてからラーメン食べようと思っていたんだった。深夜1時じゃお店開いてないよね、そうだ昴くんと一緒に食べようと思って長期保存していた冥王星のおにぎりを今食べようっと。天王星名物氷パンはお土産ね」

「〈アイリーン!〉」

〈他星の有機物を地上に持ち込むのは厳禁ですからねトイレも我慢して下さいよ〉

「そんな無茶言わないでよ、トイレ我慢してたら病気になるわよ」

「出来る限りだ。行って戻って来るのに1時間位だろう、ここを出て行く直前に絞り出して行けば我慢できるはずだ」

〈僕たちはステルス状態にしたままのスターキッドの中で待ってますから、アイリーンは見えている場所へのテレポートなら100%大丈夫でしょうけど気を抜いたら駄目ですよ〉

「ハンカチとティッシュ持ったか、馬子にも衣装とはこういう時に言うのだな」

「あんた達うちを何だと思っているのよ」

「〈別に何とも〉」

((着せ替え人形だとか))

「思ってはいない。普通に地球人が出掛ける時の挨拶とデーターにあったのでな違ったか」

「違ってます!じゃあ行って来るから、1時間と言わずにすばるくんを連れて戻ってくるわ」

〈無理をしたら駄目ですからね〉

「地上まで150メートルだ。もう少し高度を下げても良いが行けるか」

「このままで大丈夫よ昴くんは本当にこの離れの勉強部屋で寝てるのよね、中が見れたらいいのだけど」

「上空からの情報収集に間違いがなければ、今この下で寝ているのが固有名詞『昴くん』のはずだ、カーテンが完全に閉じてなければ部屋の中が見れると思う」

「わかったわ、1度目で真下の地上にテレポートして、それから部屋の中にテレポート、昴くんと一緒にここにテレポートで戻って来るで良かったよね」

「不安があるのか?」

(チャッ、チャッ、チャじゃない楽勝よ)

「不安なんて何もないわ、じゃあ行ってくる」

(1回目のテレポートは成功っと…あっ、失敗した。靴を履いたまま来ちゃったわ、帰りはお部屋の中からテレポートだものここの場所と靴をしっかり覚えておいて後からアポーツで回収しなくっちゃね。良かった部屋の中が見えてるからあそこにテレポートしてっと)

「すばるくん、昴くん、起きて」

(可愛い寝顔だなぁ… あっ、いかんいかん)

「昴くん」

「だれ、まだ…真夜中だよね…」

「魔夜中!なんちゃったりして」

(光兄ちゃん、やっと来れたわ…長かった、長かったよ~)

「あんた誰、可愛い顔の女泥棒?」

「うわっ、待って、まってよバットなんか持たないで!怪しくなんかないから」

「怪しい人程、自分の事を怪しくないと言ってるから」

(これは何てベタな夢なんだ)

「そうかも知れないわね」

「認めましたね、ぶちのめします」

「ちょっと待ってよ昴くん、あなたはこんなに可愛い非力な女の子をバットで叩けるような酷い子に育っちゃったの」

「可愛い悪魔かも知れない。こんな夜中に鍵の掛かった部屋に入って来れるのだから」

(本当に可愛い女の子だな…悪魔じゃなくてサキュバスかも)

「良かった、可愛いと言うのは認めてくれるのね」

「淫魔と言うのは認めるね」

「認めないわよ、少しで良いからうちの話を聞いてよ」

「まあ確かに、たとえ宇宙人だろうとこんなに可愛い子を殴ったりしたら後味が悪そうだし、早く話せば…」

「そうね、うちが宇宙人だと言うのは認めるわ」

「やっぱりそうか、捕まえて市役所に突き出そうか、そうすれば1万円くらいは貰えるはず。大人しく縛られろ」

「ほら直ぐに弱い者いじめをする。だから地球人は野蛮だって言われるのよ、うちは花畑で生まれたんだからね、地元人よ」

「畑で産まれたのならお母さんは大変だったろうね」

「花畑町よ、昴くんわざと言ってるでしょう。そんな意地悪はやめたほうがいいわよ」

「早く本題を話し出さないと僕の気が変わってしまうよ…って、もう夜中の1時過ぎてるじゃん、明日?いや、今日は学校、終業式だけは出席しようと思っているんだよ、君も早く帰って寝たほうがいいって」

(学校かぁ、行きたかったかも知れないな)

「うちがここに来た理由は昴くんを迎えに来たの一緒に宇宙に帰りましょう」

「帰るって? 僕はどこにも行かないよ」

(こんな現実みたいな夢を見るのは久しぶりだなぁー)

「昴くんは今、うちを捕まえてお小遣いを稼ごうと考えたでしょう。宇宙人狩りって知ってる?」

「知らないよ、大人の人が猪とかまむしを捕まえて役所からお金を貰っているって話なら聞いた事があるけど」

「ハント・ザ・イーティ、略してHTETと言う組織があってね宇宙人狩りをしているの」

「へえ、はんとざETねそのまんまだね、ETってやっぱりママチャリの前かごに乗っているのと同じ姿をしているのかい」

「それがね、彼等は普通の人が宇宙人と接触して戻って来た人の事も宇宙人って呼んでいるの、浦島太郎は宇宙人だと言っているような人たちなのよ、昴くんが今言ったような宇宙人のことはエイリアンと呼んで区別してるみたいよ」

(昴くんちゃんと聞いてくれてるよね、夢だなんて思ってないよね)

「だから、宇宙人狩りって言っているけど狩られているのは普通の人たちなのよ」

「そんなのただの誘拐だろう、警察に通報して終わりじゃないか、それと僕が何の関係があるのさ」

「昴くんが宇宙人狩りの対象になっているのよ危険が迫っているの」

「何でだよ、僕は宇宙に行ったことはないしそんな話を聞くのも今が始めてだ。君が僕に話をしたことで僕が奴らに捕まることになるのなら本末転倒。君が僕を殺すことと何も変わらないね」

(何て疲れる夢なんだ、面白いけど)

「HTETは殺しはしないわ、殺してしまっては本物のエイリアンと取引が出来なくなるからね、でも、狩りのやり方にもよるけど行方不明にするとか火事で死んだように偽装するとかはしてるみたいなの、他にも方法は幾らでもあるらしいよ」

「本物のエイリアンに対する人質にするとでも言うのかい…えっと名前を聞いておこうかな直ぐに忘れると思うけど」

「その通りよそれと…そうね自己紹介がまだだったわね、うちはフリープラネットのエージェント日本名は鈴木愛鈴すずきあいり、通り名はアイリーンよ、昴くんは愛鈴あいりって呼ぶといいわ」

〈ねえ九論、アイリーンの奴あんなに嘘八百言っちゃったらあとでひどい目に遭うよね〉

「しっ、静かに盗み聞きしているのがアイリーンにバレる。自業自得だろう、私たちはここから見守るだけだ」

「愛鈴だね、君に良く似合ってる名前だよ、君、可愛いしね」

「嬉しい。初めて『可愛い』なんて言われたわ、お兄ちゃんでさえ言ってくれなかったのに、さすがお兄ちゃんの生まれ変わりね」

(今度は転生者かよ一度起きないとこの夢は終わりそうもないな。起きようガバッと、あれ、ガバッと…)

「昴くん何をしてるのいきなり腹筋?何かの準備運動?」

「夢から覚めないんだ。何故だ」

(昴くんやっぱり夢だと思ってたよー)

「夢じゃないからに決まっているでしょう。現実よ今からうちと一緒に宇宙に行くの危ないことなんかないわ、それでも怖いの?」

「怖いさ、朝起きてから僕は普通に学校に行くんだ、突然僕がこの部屋から居なくなってしまったら父さんや母さんは悲しむだろうしかける兄さんとはまだ仲直りしてないんだ、翔は僕が突然いなくなったりしたら絶対自分のせいだとか言い出すに決まっている」

 昴くんはベッドの横に立ち上がり全身を震わせている。

「行けない…行かない!僕は行かない!!こんな夢消えてくれ!!!」

 そう叫ぶと昴くんの体から閃光が吹き出し勉強部屋もろとも白い世界に包まれた。

 海辺の波が押し寄せてくる様に暗闇が辺りを包むと昴くんはいつもと変わらない寝息を立てている。

 さっきまで隣に居たアイリーンの姿はもう何処にも気配すら感じない。

 カーテンを完全に閉め切ってないサッシ戸から差し込む淡い光は夜明けが近付く毎に段々と強い光へとなっていく。

 昴くんは『起きなきゃ』の意思に抵抗するように最後の夢を見ようとしていた。

『すばる君、昴君おきて、起きて』

(僕を呼んでいるのは誰だ…)

 ジリリリリーン・ジリ…

「ふぁぁ~、夢?…かなりへんな夢だったな、現実みたいなんだけど夢なんだよなぁこれが、ああ、眠い」

(勉強部屋3日目か、もうそろそろ翔兄ちゃんが仲直りに来てもいい頃かな)

「昴、起きてるか?」

(ほら来た)

「今、起きた所だけど何ですか?」

「朝ごはん食べて、今日は一緒に学校へ行かないかなと思って」

「わかった、終業式だけだし直ぐそっちに行くよ」

 昴くんはソファーベッドから抜け出して伸びをし目をこすりながらサッシ戸のカーテンを開けて今度こそ本当に目を覚ます。

「女の子の靴がある?」

 もう一度、目をこすってみた。

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