53.新種のスライム 2
アイリーンはスターキッドの倉庫手前通路でうごめく雑巾に怯んでいる。
(ぶ……不気味だわ)
「〈バケツがあるだろう でしょう〉」
「分かったわよ、2人同時にそんなに言わなくてもいいじゃない」
(どっちもうちのことを心配してくれないのね覚えておくわ)
「そこの雑巾……さん、あんたのせいよ動いているのならバケツに入りなさいよ、ほらさっさと入りなさいよ」
(意外と素直に入ってくれたわ、まさか言葉が通じてる訳がないよね偶然よ偶然っと、このまま走っても大丈夫よね)
「ほうこれか雑巾と一体化してるな、どれ絞ってみたら分離するかも知れないな」
「クーちゃん何よ人には素手で持って来いって見たいなことを言ってたのに自分はゴム手袋するのね」
「あそこにゴム手袋は無かったろうここにはある、だから使うに決まっている」
(そんな理屈を言うのね、分かったわよく覚えておくわ)
「アイリーン、こいつは絞り出そうとしたら自分から分離したぞ、もしかしたら思考があるのかもな、こっちの言葉を理解しているのかも知れない」
「あっそうかも、うちがバケツに入ってって言ったら自分で入ったわ」
「そう言う大事なことは早く正確にしっかりと言うように」
「偶然の出来事と思っていたから言わなかったの、雑巾が言葉を理解した何て言ったらあなたたち絶対に笑ってバカにするでしょう」
「状況にもよるな今度からはお互いに気を付けよう、今回は私も先にアイリーンから状況を全て聞いておくべきだったと反省している。それでこのヘンテコな生き物みたいな物体はどこから来たと思うかね」
バン! ババン
〈バケツの中で跳ねてるよ、九論がこの生物を怒らせたんじゃないのかな〉
「お前はこれが生物だと言うのか」
〈他に何があるっての?〉
「幽霊かもしれんぞ」
「クーちゃんは科学者なんでしょう! もっと現実的な発言をしなさいよね」
「いやたとえ科学者だろうと幽霊の存在を信じるのは自由だろう」
「〈・・・ブルッ〉」
アイリーンとスターキッドAIは身震いをした。
「ごめんねスーちゃん、クーちゃんは口が悪いけど悪気はないんだから仲良しになりたいだけなのよ、もちろんうちもあなたみたいに可愛い子とは仲良しになりたいわ、良かったらお友達になりましょうよ」
〈「スーちゃん?」〉
九論とスターキッドAIは疑問符を投げつける。
「スーちゃんとはその物体の名前かね」
「アニメなんかに出てくるスライムみたいじゃないだからスーちゃんでいいでしょう。ねえ、スーちゃんもいいよね」
バン!
〈なんだか赤みを帯びてきている様に見えるのだけど〉
「この子は男の子よ、うちが魅力的な女性だって分かるんだと思うわ……きっとそうよね」
「いやスライムならば分裂増殖だから、オスもメスもないのだが」
〈ねえ、他にもこの子の仲間が居るんじゃない? 探しに行ったほうが宜しいんじゃないでしょうか〉
「あらエーちゃんもしかして怖いんじゃないの、そうよねースーちゃんの仲間にあなたのボディ噛られちゃったりしたら嫌だものね、ねえスーちゃん」
(あら今度は青み掛かって来たわね)
「スーちゃんはこの船噛ったりしないよね……やっぱりだわ、ねえエーちゃんクーちゃん、スーちゃんはね身体の色で自分の意思をうち達に伝えているんじゃないかと思うのよね、肯定は赤、否定は青みたいなんだけど」
「まだ観察の必要はありそうだが、今の所そのようにしといても問題なかろう」
「エーちゃんもそう思うでしょう」
〈う~んそうだね、それと九論と一緒に返事する時は先に九論に言わせるよ、違う意見の時だけ僕が喋るね、そうしないとノイズを拾い過ぎて言語障害を起こしそうだから〉
「ふん、軟弱者めその位臨機応変に処理ができるようにならないとこの先苦労するぞ」
〈九論のせいで苦労しそうだよアハハ……僕には足がないのに滑ってしまったみたいだね〉
(クロンとクロウを掛けたかったのかなぁ……可哀想)
「バカなことばかり言わないのよ、スーちゃんと一緒にスーちゃんの仲間を探しに行くのはうちだけだからね、クーちゃんはしっかりモニターで見ていてね」
「このスライムは置いて行けばいい。私がしっかりモニタリングしているから安心して行っておいでフフ……おっ、跳ねたな! アイリーンの方に飛んだぞ」
「きやっ、スーちゃん大丈夫だよ誰にも苛めたりさせないからね、クーちゃんスーちゃんを怖がらせたらダメだよ、あっ、こら、スーちゃん頭に登らないで……くすぐったいよ!」
「頭でリボンに擬態したか…かなりの知的生物かも知れんな」
〈きれいな蝶々……かも知れない〉
「アイリーンそいつの生態が全く分かっていないからな、皮膚に直接触れさせたりすると危険だぞ、あまり信じ過ぎないことだ」
「きっと大丈夫うちの勘がそう言っているわ、さあスーちゃんと一緒に仲間を探しに行ってくるね」
アイリーンの髪の上でリボンに擬態した宇宙の蝶は一番安全な場所を確保する事に成功した。
スターキッドは月面を掠めるようにして減速しながら、それでも秒速2500kmで更に減速を続け地球に近づいている。
(もっと懐かしむかと思ったけど、そうならない自分を悲しむ気持ちのほうが大きいわ)
「もう直ぐ地球ねクーちゃん風に言うと3年3ヶ月と23日掛かったわね、あと2時間位かしら」
〈まだ減速します。今の1/5位までですね。到着時間も調整しないといけませんから、あと5時間位を目安にして下さい正確な時間を知りたいですか〉
「そうね…地上に降り立つ時間ね、あれれクーちゃんどこに行ったの? さっきまで傍に居たような気がしてたけど」
〈九論なら倉庫へ行きましたよ。最近は思考回路を一方的に切られてますから何を考えて行動しているのかさっぱりわからないです〉
「そう、何もない時は別にいいんじゃない、それより到着時間を午前10時頃にしてもらえないかしら開店したばかりのお店に行きたいわ」
〈観光に来ているのではないでしょう。日本支部の時みたいに宇宙人を排除しようとする連中に見つかったら酷い目に遭いますよ、それにアイリーンはお金を持っているんですか、何も考えないで行こうなんて無謀ですよ〉
「悪かったわね、ちょっと冗談を言ってみたかっただけよ、ここのところ楽しみな事がなかったからね」
〈アイリーンの冗談は冗談に聞こえないからですね、冗談ならもっと分かり易く言って下さいよ〉
「わかったわ、そうね今度連盟に見つかって追いかけ回されたら攻撃しちゃいましょうか」
〈それ冗談になってませんから〉
「それもいいかもしれないと思うぞ、アイリーンも私たちが置かれている立場が分かってきたようだ」
〈九論まで何を言い出しているのですか、それに今まで何処で何をしていたのですか?〉
「到着の準備だよ、アイリーンには任せられないと思ったのでな」
〈到着の準備って?〉
「お前はやはりAIだな、アイリーンをあのままの服装で地上に下ろす気だったのだろう」
〈あっ、やっぱり宇宙服のままじゃマズかったかなぁ?〉
「えっ、うちはこの服の事をかなり気に入っているけど、今の地上のファッションセンスは分からないけどそんなにおかしな服装かなぁ?」
「2人とも『かなぁ?』じゃないだろう、そんな放射線防護服みたいな格好で地上に降りてみろ直ぐに見つかって通報され任意同行という名目で拘束されてしまうぞ。真っ当な警察に連れていかれるならまだしも宇宙人を排斥しようとする連中に目を付けられたら、こちらも相応の対応をしなくてはならなくなるだろう」
「あ~あ、こんなことならあの時光一兄さんから光学迷彩擬態の方法をちゃんと習っておけばよかったわ」
〈アイリーンったら3日で練習をやめちゃいましたものね〉
「だから、倉庫に仕舞い込んでいたアイリーンの服を引っ張り出してきたのだよ、地上に降りても目立たない服を探すのに手間取ったがな」
〈アイリーンはこの所ずぅーと宇宙服を着っぱなしだよね〉
「これはね慣れると脱げなくなるんだわ、あんた達にはわからないでしょうけど、それで用意した服ってどこよ」
「アイリーンが寝てるベッドの上に置いてきた、それと外に出る時はそのスライムもどきは置いて行くのだぞ」
「スーちゃんよ、どうしてスーちゃんも一緒に地上に降りようと思っていたんだけど」
「ダメだ、それの生態は今も不明な部分が多いのだから地球の大気中に存在する雑多な物質や微生物に触れた途端に巨大化でもしたら可哀相な結果を招く事になる……かも知れないのだぞ」
「そんなのは嫌ね、初めての自然体験を地球でさせたかったのになぁー、スーちゃん一人でお留守番大丈夫かなぁ」
バン!
スーちゃんは明確に意思表示をする。
「そんなに心配ならアイリーンのベット部屋に閉じ込めておけば良いではないか」
イノマンがあからさまに嫌がらせを言う。




