新種のスライム 1
「起きて、起きて、おきなさいアイリーン」
「ああ、おはようキッド今何時… なの」
「昨夜は9時に就寝したからな今は朝5時だ」
「毎朝同じことを言うのね」
「アイリーンは以前『睡眠は8時間なの、それ以下でも以上でも調子が出なくてダメなのよ』と言ってたからな」
「それ何時の話よ、あ~ふ、まだ眠いわ」
「冥王星でサロメの所から逃げて天王星に着く前のスターキッドの中でAIに言ってた記録があるぞ」
「そんな昔のことを何時までも言うのね、うちはとっくの昔に記憶の深淵に沈み込んでいるわ」
(確かにクローンキッドだわ、目覚めた時はバイオキッドと全く同じでバイオキッドは死んでなんかいないと思ってた。あの時はそう思わないとやっていけなかったのよね、でも日が経つにつれて少しづつバイオキッドじゃなくなっていったわ、このほうが良かったのかも知れない。でも口調がイノマンぽくなったのは許せないわね)
「クローンキッドがイノマンの所で目を覚ましてからもう3年になるのね、あの時は地球までの3年がとても長く感じられたのに、いま思い返すと一瞬のように感じるのは何故かしら」
「〈それはですね…〉」
〈今、アイリーンは僕に話し掛けて来たんだからお前は黙っててよ〉
「お前って呼ぶな!」
〈クローンキッドのイケズ〉
「あらあら、まあまあ」
〈「アイリーン! 〈前に言っ〉「以前にお願いしまし」〈「たよね」〉〈名前を呼んでって〉、「付けて下さいと」、〈「もう」〉、〈AI〉、「クローンキッド」、〈「は嫌ですと」〉
「何時も何時も何時も言ってることだけど2人が同時に喋るのはやめなさいよね、面白いけど何を言っているのか分からないわ」
〈「名前」〉
「名前ね、AIは嫌だとかクローンは名前じゃないとか言ってたわよね、いいわ新しい名前を付けるわよ、そうねうちのインスピレーションで付けるとすると、AIは英一エーちゃん、クローンのことは九論クーちゃんって呼ぶからね反論は受け付けないわ、そうねキッドって呼んだ時はこのスターキッドのことにするわよ」
「〈……〉」
「それじゃあさっそくエーちゃん地球まであとどれ位かしら、もうそろそろ着いても可笑しくない頃よね何しろ3年も飛んでいるのだから」
〈残りは直線距離で4億8千万kmで時間にしたらあと5ヶ月ちょっとでしょうかね。連盟の監視網に引っ掛からないように飛んでいるからですね。目立たないように速度を落として遠回りしてるのです〉
(イノマンが言ってたようにこの2人は全く別々の個体なのよね、バイオキッドの時はスターキッドAIの完全人型外部端末バイオロイドなんて一心同体みたいなことを言ってたけど、クローンになってからは一度もそんなことを聞いた覚えがないわね。まあ意識はリンク出来るみたいだけどクーちゃんに質問するとエーちゃんに聞いてから返事してるのよね、この頃特に別人としか思えなくなってきたわ)
「まだ冥王星を出発して3年にはならない、2年と5ヶ月だな20日と4時間6分も付けようか」
「クーちゃんは細かすぎなのよ命に係わる事ならともかくそうでない時にはもっとファジーでいいと思うよ」
「わかったこれからは気を付けよう、それから今までは連盟のやり方に不信感を抱き陰に隠れて私達に協力してくれているアイン星人やモーリス星人の宙域を物資の供給を受けながら飛んで来れたけど、これからは見つかればその場で拘束される宙域を飛行することになるからな、スピードで振り切れるがその後の事を考えると見つからないように行動するのが良いな」
(クーちゃんの喋りはくどいし、時々イノマンが来たんじゃないかってドキッとする時があるのよね何とかできないかしら)
「地球まであと半年近くもあるのね、ねえクーちゃん何か新しい遊びとか思い付かないかな」
(この前まで担当宙域を巡回警備していたアイン星人やモーリス星人の人たちがギリギリまでうちの相手をしてくれていたからそんなに退屈しなかったけど、これから先は例え仲良しの人であっても見つかったら逃げ切らないとお互い気まずい事になるのよね。それ以前に見つかったらうちの地球行きがバレて集中攻撃を受けるようになっても困るしね。うち達は地球人のスパイとして指名手配されてるのだからね。でもちょっとスリルかも知れないわね)
「アイリーン新しい遊びならあるぞ、外装を磨いて回れば雑多な宇宙ゴミや未発見宇宙生物なんかがへばり付いている可能性があって、時間潰しには大変面白いと思うが… 宇宙放射線を浴びながら飛んでいるスターキッドの艇外に出る事は無理だろうから艇内を磨いて回るのを提案するがどうだ、新鮮で運動にもなっていいと思うぞ。新たな発見があるかも知れないな」
「それもいいかも知れないわね、うちもちょっと面白いことを思い付いたのだけど、連盟の地球防衛基地にわざと見つかって追い掛けさせるの、そして追い掛けてきた人たちに歌いながらうちの無実を訴えるの、中には分かってくれる人がいるかも知れないわ」
「そんなことをすればまたアシュラに迷惑が及ぶ恐れがあるぞ、それにもし追っ手の中でアイリーンに共感する人が出たらその者は直ぐに連盟に拘束されると思うが」
〈僕も仲間に入れてよ、クーちゃんとはリアルタイムに繋がってないし個体としては別人なんだから、2人が仲良くしてるのを見てるだけなのは何か…仲間はずれになってるみたいに感じるよ〉
「誰がクーちゃん等と馴れ馴れしく呼んでいいと言ったかね、私のことは九論様と呼びたまえ」
「あのねクーちゃん、そんな意地悪なことは言わないのよエーちゃんからそう呼ばれたくないなら九論で良いじゃない。エーちゃんはそれでいいわよね、うちはクーちゃんって呼ぶけど、だからクーちゃんもエーちゃんを呼ぶ時は英一って呼んであげてね」
「これまた。英一とは名前負けも甚だしいのではないかな」
〈九論さんはいけないんだ。英一さんって名前の人は数多く居るのだからそんなことを言ってはいけないんだよ。僕は好きだよ九論って名前何かほら高貴な感じがするじゃないですか〉
「そうだな人の名前は揶揄するものではなかったな謝っておこう」
〈それからアイリーン、さっき追い掛けっこがどうとかって言ってたけど僕はずーっと飛び続けていてけっこう疲れているんだけど、もう少し労ってくれてもいいと思うんだ…だからやめようよそんなこと〉
「ごめんね半分冗談だから、そんな事はしないわよ」
〈半分未満は本気だったんでしょう。僕が言わなければ暇潰しの遊びとして〉
「遊びで命は賭けないのではないか、私としては本気で濡れ衣を晴らしたいと思っていたが」
「うちは本当にそこまで本気じゃなかったからそんなに言い争わないで」
「〈誰も言い争ったりしていませんよ〉」
「うわまただ、二人とも気が合うのはいいのだけど仲良く喧嘩はしないでよねー、うちはクーちゃんの提案に乗って艇内清掃に行ってくるけどクーちゃんはどうするのかな」
「どうするとは何か、一緒に雑巾持って艇内を歩かないかと誘っているのかな、だとしたら私は行かない。ここで色々と調べものをしたいのでな」
「わかったわ、じゃあ一人でお散歩してくるわね」
(うちが居ない所であの二人はどんな話をしてるのかなあ、一応クーちゃんはエーちゃんの完全人型外部端末なのよね何か立場が逆転してないかしら、言葉遣いがまるっきしイノマンみたいになっちゃってるしイノマンのクローンにコピーしたからなのかしら…あら、でも変ね確かお兄ちゃんもイノマンのクローンにコピーした身体だって言ってたけど全く全然これっぽっちもイノマンのイの字も感じなかったわ何故かしら)
アイリーンはスターキッドの通路しかない場所で宙にイの字を書きながら歩いていた。
「うわっと! あぶない… 足が滑ってしもうて雑巾が飛んで行っちゃったよ、いかんいかん考え事をしながら何かをしてる時って結構な確率でドジるのよね」
(また独り言を言ってしまった。まあ話し相手があれじゃぁね独り言も多くなるわよ、それより滑ったまでは良しとしよう、転んで独り言を言うような失態をエーちゃんの監視カメラに撮られなくて良かったよ、危うくアシュラへのいいお土産になるところだったわ…そうよね~イノマンはアシュラのこと何も言ってくれないけど冥王星で無事にしてるのよね、通信したいとか言ったらあの二人から何て罵られるか分かったもんじゃないわね、特に今はクーちゃんも居ることだし気を付けないと、それよりえーと雑巾はどこだ?)
「うぁっ、え! 何これ雑巾が動いてる気持ち悪い。ちょっとエーちゃんカメラで見てるんでしょ助けなさいよ」
〈その雑巾をそのままこっちまで持ってきてよ良く見ないとわからないしさあ〉
「いや、駄目だ艦橋に持ち込んでもしもの事が発生してからでは遅いので休憩室で観察しよう、アイリーンが持って来るのだろう」
「嫌よ、こんな得体の知れないもの素手で持ちたくないわ」




