地球は今
地球防衛基地日本支部より迎えのためのリムジンが駐機場に向かって来てるのだけど、バイオキッドはスターキッドから出ないみたいなことを言い出す。
「なに言ってるのキッドも一緒に行くのよ、服も2人分用意してもらったんだし、向こうはあなたに会いたがっているみたいよ」
「だから嫌なの、奴らは汚い手でベタベタ触ってくるのおまけに人の事を端末だとかターミネーターとか好き勝手に言いやがってターミネーターじゃないっての」
「仕方がないことなのよキッドあなたは有名なのだから諦めることね、あっ、それから今更だけどスターキッドって地上に降りれるよね、大気圏で燃え尽きたりしないわよね」
「本当に今更ですねもう直ぐ着陸です」
「本当にキッドが居てくれて助かるわ、うちをおんぶにだっこしてくれるものね」
「他人任せばかりしていると脳と身体が退化しますよ、まあ大気圏突入をアイリーンに任せていたら燃え尽きていたでしょうけどね」
「酷いこと言うのね」
「ほらタッチダウン、あっ、アイリーンさん服を取りに1度降りるんですよね、僕はその服が気に入っているのでそのまま渡してくれても良いですよ」
「変態キッド!きれいに洗ってから返すわよ、あんたなら何を着ても似合うわよ、何しろマネキンキッドだものね」
「アイリーンそれ凄くセクハラっぽくないですか…確実にセクハラですね」
「着替え貰って来るわね」
着替えを済ませた2人は迎えの車に乗り込んでいた。
(リムジンの中って凄く広いのね、テレビで見たことしかなかったのだけど確かこの辺からお酒とか出てくるボタンが… 何も無いわね、痛! 何でつねるの? キッドったらリムジン乗った途端一言も喋らなくなってからまるで無口なロボットの様に振る舞うのね、分かったわ)
「キッドうちが日本支部へ出掛けている間スターキッド本体の方でお願いしておきたい事はないですか」
〈ヴッ、プププ、ツー〉
(そっちがその気ならこっちも合わせるわよ、もう一言も喋らせてやらないんだからね、元々のお喋りにはさぞ辛くなるでしょうよ)
「え~とすみませんバタバタしてお名前聞いてませんでしたよね」
アイリーンがリムジンの運転手ではないほうの人に聞く。
「ドライバーの前田と私はガイドの田中と言います」
(2人とも普通に見えるけど地球人だよね)
「スターキッドに標準備品とかを補給したいのですが お願い出来ますか、あと日本に今いる行動調査チームの担当者は誰がいますか?」
ガイド役の田中さんは顔色を悪くして返事をしようとしない。
「お二人を支部長の所まで案内しますから直接お尋ねになって下さい」
運転手の前田さんが答えてくれる。
(今まで会ったどの宇宙人より冷たい対応だわそれにしても何か嫌な感じね、悪い予感しかしないよキッドは相変わらす無言を通す気みたいだし)
山道から山中を走る片側二車線の立派なアスファルト道路に出た。
目の前が開け〖真緑園の会 東背振会館〗と書かれている大きな看板が目に飛び込んでくる。
どうやらここが日本支部らしい。
鉄筋コンクリート造り3階建ての屋上がハウス庭園になっていてその中央にあるペントハウスの支部長室にアイリーンとバイオキッドは通された。
「あなた達の情報は一通り持っているつもりよ」
支部長は40才位の明朗な印象を受ける快活な言い方をする女性だ。
「アイリーンさん、ここでの会話は他言無用でお願い出来ますか」
(うっわ嫌な切り出し方するわね、そんな権威的な言われ方してノーって言える人がいるのかしら『うちはお喋りなので約束できないから聞きません』って言ってみたいわぁ)
「秘密は守りますから聞かせて下さい」
(今は我慢するしかないわね)
「最近、世界中の大都会を中心に宇宙人狩りの威力が高まってきているのですよ」
アイリーンは事の重大さに寒気がして少しキッドに寄り添い心に鉄のカーテンを下ろす。
「支部長… さん、地球外宇宙人は地球に来れなくなっているのでしょう。いま地球にいる宇宙人は全て地球出身者ですよね、お前は宇宙人だろうって言われる筋合いは何もないんでしょ」
「それがね規則を守らないのは何も地球人の専売特許ではないのよ、規則を破る事に快楽を感じる人はどこにでもいるの、そんな宇宙人が偶然にでも地球人に捕まると自分の保身のために何でも肯定してしまう、それこそ根拠のない噂話程度の事でもね。それでもその情報が元で他にもう一人でも宇宙人が捕まれば全てが真実になってしまうのです。いま地上で宇宙人は賞金首になっていてそれこそ中世の魔女狩りみたいになってるのよ、歴史は繰り返すの典型ね。もう既に私たち組織の宇宙人がたくさん犠牲になったわ、だから今の地上には数十ヶ所に散らばってる支部以外に宇宙人は誰もいないはずよ」
(なんでそんなに酷い事になっているのよ、ここまで来たんだからママに会って帰ろうと思っていたのに、でもまだ諦めない)
「うちは久留米市の出身なの知っているでしょう地元人よ、どうしても会いたい人の所に行きたいの、絶対大丈夫迷惑掛けないと約束しますから行かせて下さい」
「そう言うと思っていたわ、だから交換条件を用意したの、私が納得できる答えを正直に話してもらえる」
「支部長が納得すればうちを外に出して貰えるのですか?」
「正直に話す事が前提条件よ」
アイリーンは決意した。
(自由の為なら身内でも売ってやる)
開け放たれた車窓から背振山系の木々の香りが流れ込んでくる。
こういったドライブは初めてで本来のアイリーンだったら、はしゃいでいた所なのだがいつもより心は沈んでいた。
(バイオキッドは怒っているだろうなぁ)
支部長の質問責めに真摯に答えて、最後はキッドを人身御供にして残ってもらってアイリーンだけ外出している。
(しかし、まあバイオキッドを連れて歩くと人目に止まるリスクが大きくなるので最初からお留守番は確定してたけどね)
今は日本支部から車を出してもらい、久留米市の昔住んでいたアパートへ向かっていた。
「知っている人がいると良いですね」
運転手の前田さんは最初に迎えに来てくれた時にはリムジンを運転していたけど、今は四駆の軽自動車を運転してくれている。
来る時には素っ気なく思ったけど今は気さくな感じでで話しやすい。
「もう、知っている人は誰もいないはずですけど、今も研修生のアパートになっている気がするので行けば何か情報があるかなと思うの」
(ママの電話が使われてなかったのよね、ベトナムに無事帰ってると思うけどやっぱり連絡が取れないって心配ね…それにしても風が気持ちいいわ~)
「おきて、起きて下さい。アイリーンさん着きましたよ」
「えっ、キッドどこに着いたって?」
「しっかり目を覚まして僕ですよ運転手の前田です、寝ぼけてたら駄目ですよ」
「あれ、うちは寝ちゃってましたかどれくらい寝てました?」
「1時間程ですね、最初は山道に酔ったのかなと思ったのですが寝息がすごかったので、そのまま寝ててもらっていたほうが静かなので起こしませんでした」
(寝息が凄かったって、寝言は言ってないでしょうね恥ずかしいわ)
「私は車の番をしてましょうか」
(う~ん、一緒に来てもらったほうがいいと思うのよね、今アパートに誰が住んでいるか分からないものね)
「表通りに出た所に駐車場があったけど、まだあると思うわそこに停めて一緒に来てもらえますか」
駐車場も周囲の風景も5年前と変わってなくて懐かしさが込み上げてくる。
あの時のラーメン屋もまだある。
(そう言えばそろそろお昼時じゃないかしら)
じっと前田さんを見上げるけど反応がない。
この人はにぶちんねと思い諦める。
アパートの2階に上がりパイプシャフトを開けて見るけど空のビールケースは無かった。
前田さんが怪訝そうに見ているのに気付いたので弁明する。
「この部屋の人はビールを飲まないみたいね」
前田さんに呼び鈴を鳴らしてもらおうかとした時呼び鈴に手が届きそのまま押してしまう。
(ああ、うちの背が伸びてたんだ思わず押してしまったけど心の準備は…大丈夫よね)
「どちら様ですか?」
中から懐かしく思える人に良く似た声がする。
「アイリーンじゃなかった、鈴木愛鈴と言います5年前までここに住んでいたんですがその時の事を知っている人が誰か住んでないか訪ねて来ました」
鍵が開いて中からウオンさんが出て来た。
(ウオンさんがいるわけないのに)
「アイリーンなのかい久しぶりだね、あんたこの2年間連絡を全くしなかったろう、死んだんじゃないだろかってアンの奴もとうとう…」
「ママがどうかしたの!ごめんなさいうちが連絡しなかったから、うううっ」




