『うずしお』だって?
スターキッドは天王星上空4万km環の外側を衛星軌道に乗って自然周回していた。
「ねえキッドちゃん、待つ時間の長さってのは忍耐力の測定に使えるんじゃないかしらね」
〈待つ事は忍耐力を向上させる初歩の訓練ですからね〉
「キッドちゃんもちゃんと出来る様になったものね」
〈これは忍耐ではなく諦めを覚えた結果です。ほらしっかりディスプレイ見ていないとタイミング逃しますよ〉
「あら、カウントダウンしてくれると言う話しだったじゃない」
〈おんぶに抱っこばかりではなく自分でも少しは考えてみたらどうですか〉
「いつも考えているわよ、今もお昼ごはんは宇宙基地に着いてから取るべきだろうかとか、いろいろな事を考えているんだから」
〈さっき食べていたのは何ご飯だったんですか〉
「あれはつまみ食いよ、ご飯とは違うわ」
〈こちら警備隊基地管制スターキッド応答どうぞ〉
〈こちらスターキッド感度良好ご指示願います〉
「こらキッドあんたじゃなくてうちが返事するんでしょう」
〈いや大事な話しだから私がしたほうが二度手間にならなくて早く済みますよ〉
「わかったわ、うちはもう何も言わないから全部勝手にやんなさいよね、あとで泣き付いて来ても知らないから、これからは 話し掛けないでね」
〈ちょっとキャプテン〉
〈スターキッドどうぞ内輪揉めは後にしてもらえますか、しかし自我を持つAIが存在するのは初めて見ました。それだけでも感動なのにお友達にまでなって頂いて恐縮です。それではそろそろこちらの準備が整いましたのでスターキッドさんの準備が良ければあと3周後よりカウントダウンテンより開始します〉
〈こちらオールグリーン予定通り開始願います〉
「キッドちゃんたらカッコいいじゃない、少しくらいなら許して上げても良いかもよ」
(カウントダウンまでもう少し時間があるなぁ…)
『〖うずしお〗とは超遠距離重力砲の原理を利用したもので、簡単に言ってしまえば水しか入っていない洗濯機を高速回転させた時、遠心力により周囲に水の壁が出来て中心部が空洞になり底が見えて、水に濡れる事なく底に触れられると同じ考え方を利用したものです』
『重力砲を目的地に向け撃つと周囲の空間が砲のエネルギーに引きずられ中心部に距離が存在しない空間が出現します。この時の重力砲の軌道を固定化し蓋をして保存しておけば、次からは蓋を開けるだけで距離が存在しない空間(道)を利用する事が出来る様になりますね』
『地球防衛基地は度々行くので(道)を作っていまして〖うずしお〗を使うと表現しているのです。〖うずしお〗は1回使うと(道)が閉じてしまうので始めから作り直します。1度使った場所は空間が歪んでしまいしばらくは使えないので別の所を探さないといけません』
『〖うずしお〗を使う時は蓋を開けて直ぐに飛び込まないと(道)が閉じてしまうしタイミングを誤ると距離がない世界に閉じ込められて、帰って来れなくなりますから危険も伴います』
『危険のリスクと〖うずしお〗を発生させる為に膨大なエネルギーが必要になる事から簡単には使えません。だから許可を必要としています』
『今回使う〖うずしお〗は地球防衛基地まで光速で12分、2億1千6百万Km手前の通常空間に出ます』
『それより近いと敵と間違われて攻撃される恐れがあるから、そこでも間違われる可能性がりますので、直ぐに識別信号は出して下さい』
『そこからはスターキッドの10%出力で2時間で到着と言った所ですが、これも早過ぎると攻撃対象になってしまいますから気を付けて下さい』
アイリーンは出発前に受けた天王星宇宙港管制室での話を思い出していた。
〈 …3、2、1、解放、グッドラック!〉
解放の瞬間、目の前の宇宙空間が本当に丸く切り取られ、そこだけ別の宇宙空間になっているのがわかる。
『大事なのは〖うずしお〗に入った瞬間スターキッドの総てのエネルギーをカットして〖うずしお〗に干渉しないようにして下さい。そうしないと〖うずしお〗の力場と干渉し合いスターキッドは分解してしまいます』
当然管制室での話はAIキッドにも伝えている。
〈周回軌道離脱〖うずしお〗へ突入! 全出力停止… 移動先通常空間出現〉
AIキッドはアイリーンの指示を待たずに事を進めて行く様になり、アイリーンはキャプテンとしての立場が危うくなっていく気がしている。
何か釈然としない気持ちになってスターキッドのAIとして淡々と喋っていた頃を懐かしんでいた。
管制室での話の中に現在の〖うずしお〗は改良が重ねられて通過時間はゼロになっているのだけど今はまだ天王星側からの一方通行になっているので、地球防衛基地から来る時は通常宇宙空間を飛ぶか別の方法を利用するようにして下さいとのことだった。
(レッド隊長は『まだ改良の必要があるのです』とか言っていたけど、うちは戦略的にわざとじゃないかと睨んでいるのよね、こっちからは行けてもあっちからは来れないって見え見えだと思うわ)
「時間が掛からないってのは便利だけど地に足が着いた気がしないわね、まあ宇宙なんだから当たり前の事なのだろうけど」
〈何か言いましたか〉
「あと2時間で基地に着くわね、何だったっけ東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地だったわね、本当に何べん言ったって長い名前で舌を噛みそうだわ」
(やっぱりうちが別名を付けないと不便よねデス・スターはお兄ちゃんに却下されているし、何にしようかな・・・そうだわライフ・スターなんて良くないかしら、お兄ちゃんにぴったりだしうち達だけの名前にすれば良いわ)
〈キャプテン・アイリーン、そろそろ東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地へコンタクト取ったほうが良いけど、流石に私から連絡しては不味い気がしますのでお願い出来ますか〉
「分かったわ連絡する。それとうち達だけの話しになるけど東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地って長い名前の事だけどライフ・スターって呼ぶことにするわ、生命の星って意味よ良いでしょう」
〈私とあなただけの呼び名なら構わないでしょう〉
「キッド怒るよ。あんたこの前からお兄ちゃんの事を忘れているでしょう、忘れたりしたらだめなんだからね」
アイリーンは泣き顔になってきた。
(キャプテン・ライトの事を言うと直ぐに泣き出すじゃないですか、だから敢えて話題に入れないのですよ、このわからず屋)
〈アイリーンが悲しい顔をしなくなったらキャプテン・ライトの話をたくさんしましょうね〉
「卑怯者…」
アイリーンの顔色が益々曇って来る。
(話題、話題、別の話題を…)
〈キャプテン・アイリーン…さん、ライフ・スターに着いたら他の人達には私の事を黙っていて貰えますか、只の東域宇宙唯一のスターキッドAIが進化して人間の様な感情を持っていると知れたらモルモットにされて実験動物みたいな扱いを受けるに決まっていますから、もし生きたまま? 解剖されたら? 流石の私でも何処かのコンピューターみたいに復讐の暴走を始めますからね〉
「大丈夫よ、バレそうになった時はうちが『腹話術です』と言って誤魔化してあげるから」
(アイリーンの顔色が少しだけど晴れてきて良かったよ)
〈ところで基地への通信しましたか?〉
「さっきビーコン出したわ、向かうが気付いて何か言って来るのを待ちましょう」
〈それはやめたほうが良いです。敵の工作員と間違われる確率が高いですから〉
「そうかぁー、また知らない年上の人と話をしなくてはいけないのかと思うと気が重くなるよのね、仕方ないわ…そう言えば宇宙に出てからうちより年下って会ってないよね」
〈まだ居住区がある場所へは行ってませんからねそれから…〉
「わかったわ、それ以上言わなくても頑張れるからキッドの評価に“子守りの上手な”を追加してあげるね」
〈こちら地球防衛基地スターキッド応答せよ!〉
「あちゃー先を越されたよ」
〈ほら言わんこっちゃない〉
〈地球防衛基地よりスターキッドへ現在地点で全エネルギー停止後、当方の巡視船の到着を待つように〉
「どのくらいまてば良いのですか?」
〈巡回中の…(いま、女の子の声がしなかった?)巡視船を向かわせ…(こちらを油断させる為のカムフラージュだとしたら…)ますので10時間位…(いや、ドロンパ号…)うるさい! 通信中なのが分からんのか! あ、失礼しました。あと10時間現在地点で待機してもらいます〉
「エ~ッちょっと待ってよ謝るからさあ、そんなに待てないよ~誰かドロンパ号って言ったでしょう。ジラーフ室長かゴートさんか鷹鳥さんに代わってよ、ドロンパ号はもうそこに着いているよね」
〈スターキッドに告ぐ、そちらが何処かの(鷹鳥さんって誰よ)諜報員だとの疑いが晴れるまでは(確か副官のホークさんはバード星出身…痛!)我々の防衛基地へ近付け(殴る事はないでしょう)ません〉
(何なのよ、この通信は周囲の音や声が丸聞こえじゃない)
アイリーンはイライラしだしている。
「うちは地球出身のグエン・アイリーンよ、ドロンパ号に登録してるしブレインだって着けてるわキャプテン・ライトの魂だって早くクローンに入ってもらいたいのに」
(泣くんじゃない)
アイリーンは涙が出てくる前に強く思った。
〈キャプテンライトがそこに居るのですか?〉
「魂だけうちが持って帰っているのドクターイノマンの助けによるものよ」
〈少し待って下さい。(今、イノマンて言った、イノマンってあのイノマンだよね)私の判断では出来ないので上司を呼びます〉
「ドロンパ号の人を呼んでよ!」
〈ドロンパ号のホーク副官には連絡している最中です。それと速度落として下さい。さっきから加速しているのは分かっているのですよ。撃たれたいのですか〉
「味方の識別ビーコンを出している小型宇宙艇(天王星でホルスさんが小型宇宙艇だって言ってたのよね、うちはコスモファィター見たいな攻撃機だと思ってたのにすごく残念だったわ、お兄ちゃんも正直に言ってくれてたらよかったのよ)しかも幼くか弱い女の子が1人しか乗っていないの、それを撃つ非道者にあなたはなれるの!」
〈私は砲手ではないので撃ったりしません(よ~だ、バ~カ!) あーいま許可が下りました。地球防衛基地の第9ドックにドロンパ号が帰港しているのでそちらに着艦して下さい〉
「良かった~ドロンパ号は無事に帰れたのね、みんなは無事なのかしら」
〈誘導ビーコンを出しますのでオートパイロットにしてから信号受信願います〉
「オートパイロットにしたわスピードもかなり落ちたわね、信号受信も良好ね問題なしみたいよ、でもこれからあと1時間も掛かるのねもう少し時間を稼ぎたかったわ」
〈赤キップ切りましょうか〉
その意味を知る由もないアイリーンは操縦席に深く沈み込みこれまた深い溜め息を吐いた。
「そう言えば後ろの座席に氷パン乗せてたわね、食~べよっと」
アイリーンは氷パンを噛りながら、やっとの思いで到着するライフ・スターがある太陽系の環みたいにも見える小惑星帯を、これからも大変な目に遭うんだろうなと憂鬱な気分になりながら見つめている。




