28.漆黒のライフスター
東域宇宙和平維持連盟地球防衛基地のことを、うちとAIキッドだけはライフスターと呼ぶようにしたのはついさっきの事だった。
「もうすぐライフスターが見えてきてもいいんだけどまだかなぁ」
〈キャプテン起きていますよね、ライフスターならさっきから見えていますよ〉
「えっ、どこに小惑星しか見えないよ?」
スターキッドの自己進化型人工知能(AI)はアイリーンが睨み付けているディスプレイに矢印とライフスターを点滅させ目立つ様にしてあげる。
〈ほらここにあるでしょう。分かりましたよね〉
「うちが間違えていたわ人工惑星って言うからには銀色に輝いていると常識で思うでしょう。何でつや消し黒なのよ悪の巣窟なの、何なのうちに対する嫌がらせ? これじゃあデススターのほうがよっぽど似合っているわ」
〈はいそうですね。もう気が済みましたか? そろそろドロンパ号に着艦の最終確認したほうがいいんじゃないですか〉
航路タイムチャートプランを見るとあと10分で着艦できると表示されている。
「AIキッドの事はドロンパ号でも内緒なのよね」
自己進化を続けて今では自我まで持っているAI、まだまだ進化を続けるのであればいずれ人類に恐れられ排除される日が来るかもしれない。
〈できるだけ内緒でお願いします。天王星の宇宙管制官にバレてしまいましたから噂が広まるのは時間の問題かも知れませんけど〉
「わかったわ、うちがスターキッドを下りた後はどうするのか決めたの?」
〈暫くは目立たない様におとなしくしていますよ、我慢の限界まで〉
「我慢の限界が来たらうちに連絡しなさいよね何を置いても会いに来るから」
(キッドが暴走するような事だけはさせないから)
〈キャプテンとは思えない優しいお言葉に感謝します〉
(そろそろ限界かも、内輪話に夢中になりすぎるとろくな事が起きないからね)
「こちらスターキッドドロンパ号応答して下さい」
〈こちらドロンパ号スターキッドどうぞ〉
「あと8分後に着艦します。準備はいいですか?」
〈誘導ビーコンの軌跡を辿って進入願います。臨時格納庫に着艦となります。進入路入口1000mより電磁拘束誘引を開始しますのでそれまでに速度を秒速100m以下に落とし出力停止で慣性飛行して下さい〉
〈「ラジャー」〉
スターキッドAIも同時に返事してしまう。
「あんたねぇ、キッドさんよ今内緒にしてねって言ったばかりよね、どうしたの?」
〈エヘッすみません、ついうっかり八兵衛やっちゃいました〉
「八兵衛って何なのよ一体、この先のことを思うと不安しかないわ」
〈お互い成り行き任せの気楽な人生にしませんか〉
「もう!ちゃんとスピードを落としてる?間に合うの」
〈秒速100m以下って微妙でチョー難しいので一度停止しまーす〉
ディスプレイの船外風景も『しまーす』と同時位に停止する。
〈微速前進しまーす。出力停止慣性飛行に移行して5分後には電磁拘束にキャッチされます〉
どこかのカメラでうちのことを見ているだろうAIキッドに向けてウィンクする。
投げキッスしたらキッドが暴走しだすといけないからやめておく。
「こちらスターキッドドロンパ号どうぞ」
〈こちらドロンパ号ですどうぞ〉
「あと3分後に電磁拘束誘引される予定です。了解ですか」
〈ドロンパ号了解しました。ご幸運を!〉
〈「ご幸運を!」〉
またハモってしまった。
「あんたがバラバラにされたら部品を何か1つ記念に貰ってあげるわね」
〈再組み立てが不可能になりますのでそれだけは勘弁して下さい〉
〈こちらドロンパ号スターキッドどうぞ〉
「こちらスターキッド要件をどうぞ」
〈スターキッドはドロンパ号に着艦後そのままの姿勢で全エネルギー停止して待機下さい。そのままの状態で地球防衛基地対外管理局の検査官による検索を受けて下さい〉
「トイレ行きたい! お腹も空いた。うちはこの2点の解消を早急に要求します」
トイレの我慢はまだ余裕あるけど要求はしとかないといけないのよね何があるか分からないからね。
〈トイレはスターキッドを降りて前方の扉手前右側にあります〉
「スターキッドから出ていいの?」
〈臨時格納庫内での行動は自由にしていいです〉
「ありがとう、やっとこの狭い空間からおさらば出来るわ」
〈私の悪口は私が居ないところで聞こえないように言ってくださいね、アイリーンは私との別れは寂しくないのですか、そう思うと凄く切ないです〉
「キッドさぁ、あんたこの頃人間らしさに磨きがかかってきてない。良い事なのかなぁうちには分からないけどそれにね、うち達がお互いに別れたくないと思っていても運命の神様が私達を引き離そうとすれば私達はそれに抗う術を持ち合わせてないのよ、だからあまり深く考え込まないほうが良いと思うのそうしないと心が暴走してしまいそうになるの」
〈私は運命の神様の思惑に抗う術はあると考えますよ。細心の注意を払い危険から離れ楽をする為の手抜きを行わず強い意思を持って行動する。機械でない生身の人間には限度がありますが神様が駒を動かそうとするその瞬間にさえ最大限の注意を払えば私達の行動を易々と左右させられる事はないと信じます〉
「凄い事を言うわね、うちにはちょっと無理ね、うちはのんびりとした空気に包まれ楽をして生きるんだって決めているの、でもお兄ちゃんの事は別よお兄ちゃんの魂には早く新しいクローンに入ってもらってまたうちの傍に居てもらうわ、その為なら何だって出来る。ただお母さんたちの時は違ったのよねうちが気付いた時にはもう何か出来る状況は過ぎていたもの……」
〈キャプテンは強いですね、改めて見直しましたよ益々私が守ってあげたいです〉
「うちはキッドに守ってもらうよりはやっぱり理想は白馬の王子様よね」
〈私のボディを王子様が乗ってる白馬みたいに白に塗り直しましょうよ、この間の戦闘でかなり汚れてしまったままだしそうだ、ついでに内装も変えませんか、トイレにシャワーにベッドを置いてキャプテンはここに住むといいですよ〉
「やったー、とでも言うと思ったかキッド君よ、その狭い機体のどこにそんなスペースあると思うの、でもオーバーホールは必要よね、言ってみるわ取りあえずトイレに行くわねお留守番宜しくね」
〈帰って来ますよね〉
「気が向いたらね」
〈そんなー、このままお別れなんて嫌ですからね〉
「悲しい声を出しても… うちはやっぱり運命には逆らえないと思うわ」
(格納庫の中は自由に出歩いていいって言ったよねトイレも無事……に済ましたし、後はこの扉ってデジャブー感ありありね、あの時はお兄ちゃんの後ろを歩いていたなぁ~、これってたしか自動扉だったわよね)
アイリーンが自動扉の表面を優しく撫でた途端、扉がいきなり左右に開き出した。
(うちは何もしてないからねそれにたとえ開いたとしても格納庫の中に居るんだったら問題ないはずよ)
「えっ、ジラーフさん?」
開いた扉の隙間からキリンさんの姿が見えた気がする。
扉がさらに開いて行くとはっきりジラーフさんと確信できた。
その隣にはゴートさん副官のホークさんも居る。
大勢いる他の人達もみんなお兄ちゃんとドロンパ号に初めて乗った時に見掛けた人たちだ。
扉の向こう側から不安そうにこっちを見ている。
「アイリーン! 大丈夫だった?」
駆けて来たジラーフさんに抱き付かれて抱え上げられた。
「痛い! うち背中にちょっとしたケガしてるので少し緩めて欲しいです」
「ご免なさい気が付かなくて怪我の具合直ぐ見ましょうね」
「いえもう、日にちが経っていますから触らなければ大丈夫です。それに今は話を先にしたいから、でもどうしてドロンパ号の皆がここに来てるのですか」
「もう忘れたのスターキッドはドロンパ号の搭載機よ、月を出た後攻撃を受けてキャプテンとあなたが敵と一緒に消えてからずっと探してたのです。そしたら1時間少し前に突然スターキッドの信号が現れましたの、もうその時のパニック状態ったら言葉で表せるものではなかったですわ、ホーク副長が宇宙港管制官と連絡取ろうとしたけど話が通じなくて、業を煮やしてオビス司令官に直談判して司令官から管制官に言ってもらったの『ドロンパ号に着艦させる様にして下さい』って、もう話す事がありすぎて混乱しそうだわ」
「うちも話す事が多すぎて……でもお兄ちゃんが」
「アイリーン、大丈夫よキャプテン・ライトは最後まであなたを守ったの、男として最後の務めを果たしたのだから悲しまずに『ありがとう』と笑顔で言ってあげるのよ」
「いいえジラーフさん、お兄ちゃんの魂をうちが持って帰っているのだからまだ死んではいないわ、元々クローンの体だったからこの魂を新しいクローンに移し替えたら元通りのお兄ちゃんになるって、イノマンが言ったわ」
「えっ、ドクターイノマンに会ったの?」




