ドロンパ号は輸送艦
宇宙艇は宇宙港がある擬装されたクレーターより出て月面に対し垂直に上昇しているのだけど加速感が全くなく実感が湧かない。
「そんな時間はないと思うよ、直ぐに母船惑星間宇宙船〖ドロンパ号〗に着くからね」
「えっ何、そのいかにもうちに対する嫌がらせみたいなネーミングは」
拗ねるかもしかしたら反対に笑い出すのか、そんなアイリーンを横目で見ながら光一は宇宙船へのアプローチ体勢に入った。
アイリーンに凄く不評をかった惑星間宇宙船〖ドロンパ号〗の宇宙艇発着所への誘導信号を正常に処理することが出来たので後は自動着艦システムへお任せする。
「ドロンパ号って名前は結構気に入っているんだけどな」
光一がぼやく。
(もしかしたらアイリーンは何に対しても気に入らないって言うタイプの人間なのだろうか? そんなはずないよな食事とかベッドとか結構気に入っていたし)
「誰がそんなヘンテコな名前を付けたのさ?」
「えっ、僕だけど…」
「お兄ちゃんって宇宙船に名前を付けられるくらいに偉い人だったの!」
「名前は誰でも付けられるよ、ただ誰もつけたがらないだけさ」
「うそ、名前って一生ものでしょう?」
「そうだね一度付けた名前は滅多な事があっても普通は変えないね」
「それならもっと誰だって名前を付けたがると思うけどな、うちなら喜んでたくさん名付けしたいけど」
「名前を付けるって結構大変なんだよ、名前を決める時にかなりの気を使うし、出航する度に無事に帰って来ますようにって気を使う、沢山の精神力をいつもすり減らすことになるけど、見返りといえば『誰がそんなヘンテコな名前付けたのさ』と言う罵り言葉を頂くくらいのものだからね、誰も好き好んで名付けをしたりしないね」
「ご、ごめんよ~お兄ちゃんの心を傷付けちゃったね、悪気がそんなにあった訳じゃないんだ、許してよね」
(許すも何もまだ怒ってもいないんですけど少しは悪気があったんだ。少しは怒ってもいいのかな)
「でもそんなもんかしら、精神がすり減るなんて考えても分からないわ、私が付けるんだったら流星号とかにするわね、そしてその後のことなんか考えないようにするわ、そうすれば精神力もすり減らないでしょう」
「そうかなぁ、それに既に使われている名前は登録出来ないからなかなか難しいものがあるんだよ、登録された名前を見たら流星2号とか3号になっていたりするね」
「そんな間抜けな名前なんか嫌だよ~」
「それが嫌なら誰も使用してない名前を自分で探してから登録するんだけど、これがまた大変なんだよ格好いい名前なんて殆んど使われているからね。やっとの思いで選んで登録したら出来上がった名前に2号が付いていたりして、何でって行政に文句言ったら同じ名前の申請がほぼ同時にあったとかで、そんな事が多々あるものだから行政も受付順に登録してダブっていたら名前のあとに2とか3を付け足すだけにしてるんだってさ」
「そんな~、じゃぁさ前の流星号が事故とかでバラバラになって失くなっちゃえばうちのが流星号って付けられるんだよね」
アイリーンが悪鬼の顔付きになっている。
「そう考える人を出さない為にちゃんと手は打ってあってですね、船主が船とかを失った場合は抹消届を税務署に出すんだけど、名前の使用権は残るんだよ持ち主が使用権も放棄した場合にその船の運行期間の倍の年数が経過してからなら登録出来るようになっているんだ」
「なになに……難しいね10年使っていたら20年も待つことになるわけ何でよ」
「宇宙は広いからね最低でもそれ位いの空白期間がないと前の船と混同してしまうからね、悪用されない為だってさ」
「悪い事を考える人ってどこにでもいるのね、うちはそんなこと全然思いも付かなかったけどね」
「そうだね」
(『アイリーンは悪人になれないね』と言えば皮肉に聞こえるだろうな)
「ひどいわ、お兄ちゃんの目が悪口を言っている」
「そんなことないよ~」
そうだった、テレパシーを使えるんじゃないかって疑っているんだった。
〈小型宇宙艇リトルバードのキャプテン・ライト様は乗船手続きと同行者の新規登録を速やかに行って下さい〉
いきなり艇内にアナウンスが聞こえてきた。
宇宙艇の機能を全自動にしていたから宇宙船からの通信が丁寧な日本語に翻訳されて艇内に流されている。
いつの間にか宇宙船の発着所に到着していたようだ。
教えてくれても良さそうなのに。
そしてそれを聞き逃さなかったアイリーンの目が光っている。
キラキラなんてものじゃない。
「お兄ちゃん!うち何から聞けばいい?ねえ、リトルバードって何、 キャ、プ、プハハハッ、はあはあ、キャプテン……キャプテンライトって誰?アハハハもうダメ……笑い死にする」
宇宙艇は一つ乗組員はうちとお兄ちゃんだけ他に何があるって言うの。
(もう好きなだけ笑っていればいい)
アイリーンの手を取り歩き出す。
しっかり手を握ってないとどこに消えるか分かったもんじゃない。
「速やかにって言われたから急ぐよ、帰着予定時刻をだいぶ過ぎているしね」
アイリーンの手を離さないように気を付けて宇宙艇のタラップを降りて船内通路に向かう。
「お兄ちゃんが寝坊したからでしょう!ほら、やっぱり怒られるんだ」
「怒られたりしないね、書き物が一枚増えるだけだよ、顛末書って言うんだアイリーンは今後の為に覚えておくといいと思うよ、それにここには僕たちを怒る人はいないよ」
「へぇ~親切な人しか乗っていないんだね楽しみだな、てんまつ書って意味が分からないけどありがとうね、勉強するよ」
少しだけ良心が傷んだけど真実を知った時のことを考えると今は優越感に浸っていたい。
目の前の大きく頑丈そうな自動扉が両側に開く。
アイリーンが私の腕にしがみついてきた。
(まあいつものことながら壮観な眺めではあるな)
扉が開くと制服を着た宇宙人が通路の両側にずらりと整列しているのが目に入ってくる。
片側に50人づつ合わせて100人居た。
左側の人は紺色の右側の人は白い制服を着ている。
私たちが一歩前へ踏み出すと真横の両側に立つ人が直立不動で敬礼した。
次の一歩で次の両側の人が敬礼する。一度敬礼した人はそのままの姿勢で頭だけ光一が歩いて行くほうに動かす。
私たちは足早に通り過ぎていき最後の人が敬礼すると回れ右をして整列する隊員たちのほうを向く。
「解け!」
お兄ちゃんが号令を掛けると皆が一斉に敬礼をやめた。
その時の音が『バッ』って聞こえてカッコいい。
「解散!」
皆が小走りで散り散りに去って行く。
それもざわざわしないで整然と。
(お兄ちゃんって偉い人だったんだ、そんな素振り全然しないから分からなかったよ。カッコいいなあ)
アイリーンが熱い瞳で光一を見詰めている。
光一はアイリーンからの圧を受けながらこれは説明が大変そうだなと気が滅入ってきた。
「キャプテン、帰りが遅いので心配しましたよやはり護衛が必要でしたでしょう」
お兄ちゃんの横に立っていた白色の制服(多分男の人)の人が言う。
頭が鳥……鷹? に似ている。
目付きが鋭くて、チラッと見られるだけで竦み上がりそうになった。
(やっぱりうちも『キャプテン』って呼んだほうがいいのかなあ……む、ムリだあ~)
さっきまでここに100人は居たと思う。
その中の10人がお兄ちゃんの周りを囲んでいる。
「いや大丈夫……だったよ心配ない、それより変わった事はなかったですか、 報告があるなら直ぐに聞きたいです。それと出航は最短で何分後になりますか」
「出発なら今からでも可能です」
「そう、それなら……」
アイリーンはまだお兄ちゃんに釘付けになっていた。
光一は大きく息を吸い込んで右手を水平に伸ばす。
小さな彼女の熱い視線を受け流しながら言う。
「地球防衛基地に向け出航!」
「出航! 了解!」
鳥頭の後ろで控えていた2人が駆け足で戻って行った。
「遅くなって悪かった。すまない、時間差はどのくらいかな」
お兄ちゃんが鳥頭に話し掛けてる。
アイリーンが手の甲に爪を立ててきた。
(やっぱり謝ってるじゃん!)
知らない人が一杯居るので借りてきた猫のように口を閉じたまま大人しく、横目を更に細めて罵っている。
「キャプテンはお戻り予定時間より102分の遅れ、本船は出航予定時刻より12分遅れています」
「トンネル入口までに12分は取り戻せるよね」
「はっ!トンネル入口到達時間は48時間後になりますので12分は余裕で取り戻せます」
「私が遅れた事による問題はないよね」
「 問題?は……ありません」
「アイリーン聞いたかい、問題ないってさ」
光一がアイリーンに小声で話し掛ける。
アイリーンは知らん振りをしているが気付いたはずだ。
膨れっ面はそのままだけど。
〈ねえアイリーン、僕、スターキッドは銀色に光り輝くボディだったよね〉
「仕方ないでしょ、暗かったんだから、次はもっと格好良く書いてあげるわよ」




