115.『乾杯』
ヘンナ副司令官の私兵艦隊を葬り去ったあと戦艦マリンへ乗船したアイリーンと昴くんは白鳥座アルビレオの歓迎の舞いで出迎えられた。
2人とも美しい舞踊に最初こそ見惚れていたけど興味が全くなかったので直ぐに私語を始めだしてアルビレオの不興を買ってしまう。
アイリーンがそのことに対しての意趣返しとばかりに空手の型をアルビレオの鼻先で披露を始めた。
最初は喧嘩の始まりかと思われたけど直ぐに型の披露だと判断され中断されることなく続き最後まで綺麗にまとめる事ができたので周囲から拍手を受ける。
それから戦艦マリンの多目的ホールでささやかな立食パーティーが(アイリーンの強い希望により)開かれる事になっていた。
パーティーに参加するためにキャメロットからやって来たリトルバードの乗員に九論が居るのをを見つけて合流しようとするアイリーンはピエロに引き留められている。
ピエロが九論の持つ秘密を話したかったみたいだけどアイリーンは身内の告げ口なんか聞きたくないと思いそれを拒否した。
「失敗したかな」
ピエロは表情を柔らかくしてる。
「あ~あ、イノマンから大目玉を食らうことになりそうだけどまあ仕方がないかあー」
ピエロが必要以上に大きな声で言う。
「何なのよいったい、さっきからイノマンがここに居るみたいな言い方を2回も聞くんだけど何故かしら……」
アイリーンはなんとなく悟ったような気がした。
(これから本当に楽しみにしている晩ごはんなのよ、親しい人が増えることはいいけど嫌なことも起きるのよね、気になることはさっさと終らせてしまいましょう)
「ねっ、そうでしょう昴くん!」
アイリーンから突然同意を求められた昴くんは返事に困る。
「うんそうだよ愛鈴だからみんなの所へ行こう」
昴くんはピエロとアイリーンで一悶着が始まる前に九論やオビスさん、その他もう誰でもいいから彼女の暴走を止められる人の側に早く行きたいと考えた。
「ピエロも行くんでしょう、話をしたいんならそこで聞いてあげてもいいわよ」
「ねえ愛鈴、誰もいなくなってしまったよ」
ピエロがアイリーンに話し掛けた時ジラーフさんとゴートさんは「また後でね」と言って先に行ってしまっている。
アイリーンはリトルバードからまだ誰か降りてくるだろうと思って待っていたけど、どうやらジラーフさんとゴートさんが最後の乗客だったようだ。
「そうねしまったわね九論もいなくなってるし、あっヤバいかも」
アイリーンが昴くんとピエロの手を取って急いで歩きだした。
「あ、愛鈴危ない! どうしたの急に」
転びそうになったので言い訳みたいにして言う。
「パーティーが始まっちゃうでしょう。早く行っていい場所を確保しないとご馳走を食べそこなってしまうわ、ピエロも一緒に来るのよ目を離すとさっきみたいに直ぐ消えちゃうんでしょう」
「アイリーン分かりましたから消えたりしないと約束しますから手を離してもらえますか」
ピエロは手を振りほどくようなことはせず紳士らしく言う。
その言葉を聞いたアイリーンは無言で2人の手を離したけど後ろから見ても頬が膨れているのが分かる。
(愛鈴はやっぱり可愛いや)
昴くんはしばらくぶりにそう思った。
多目的ホールで開かれることになったパーティーはアイリーンの到着を待っていた様子で会場内に入るや否や戦艦マリンの艦橋連絡員アルビレオがやって来て挨拶もそこそこに壇上の袖へ引っ張られて行く。
(何だか想像以上に大きなパーティーになってるみたいね、うちは昨日の残りご飯でいいから食べさせてと言ったつもりだったのに、そうね確かにご馳走とパーティーって単語も使ったわね言葉選びって難しいわ)
アイリーンがぶつぶつ考えながら袖に着くと来るのを待っていたアリオン艦長がステージの中央へ歩いていき挨拶を始める。
「みなさん今晩は、この場で報告したいことや話したいことがたくさんあります。でも、それらを全部話そうとするととても長い時間が必要になります。みなさんは今そんな長い話を聞かされるのは嫌ですよね、私は嫌です。ですから私は先程その内容を各責任者へメールで送っていますので後から確認して下さい。私からは以上です。それでは今晩のスペシャルゲストをご紹介致します」
アイリーンは壇上の袖でここに連れて来られた意味が分からず呆然と佇んでいる。
手短に挨拶を終わらせたアリオン艦長が早足でやって来て呆けているアイリーンの腕を掴み半ば引きずるようにステージ中央へ引っ張っていく。
(ステージの上ってこんなに高いんだ。みんなの顔がよく見えるわ、九論ったらまだオビスさんの横にいるのね、やっぱり偉そうにしてる様に思えるのはうちの気のせいかしら、ロースさんと昴くんが新月さんとピエロに挟まれて一緒にいる、何事もないようで良かった~。あっ、ジラーフさんとゴートさんったらあんなに後ろから見てるもっと前へくればいいのに、そうか一番後から会場に入ったからしょうがないのねキャメロットの他の人たちも全員揃ってるみたいだわ、まあ何人かは残ってるでしょうけどねアンバ隊長にレッド隊長、その後ろにホルスさんが居るわ他の人は声を聞けば分かるかもしれないけど声だけで顔を知らない人も大勢居たわね、やっぱり知らない人の方が多いかあ、あれ……さっきからアリオン艦長は一体何を喋ってるのかしら……)
「・・・それでは皆さまお待たせしました。今夜のスペシャルゲスト、スターキッドキャプテン・アイリーンさんです。今回の戦闘においてはアイリーンさんと光速宇宙艇スターキッド……AIさん(名前を出しとかないと後でうるさく言いそうだからな)の独断の場でした。そのアイリーンさんから乾杯の音頭を頂きます。あっ、アイリーンさんは実年齢が見た目以上に低く地球人の法律に従いまだお酒を飲めないそうですのでジュースで乾杯してもらいます。ご了承下さい」
(何も聞かされていないわよ乾杯の音頭って何のこと? えっ、ジュース?見た目以上に実年齢が低いって余計なお世話じゃないかしらお酒が飲めないって確かにそうだけど知らない人から注がれるのが嫌なだけなんだからね、そんなことを言ってたらうちはず~うっとお酒が飲めなくなるのよそんな冗談……言わないで欲しいわ)
「それではアイリーンさん、どうぞ!」
(『どうぞ』と言われても、どうすればいいのよ)
アイリーンは昴くんに助けを求めようとする。
昴くんと目が合うと昴くんはコップを持った手を上に上げ口パクで『乾杯』と言っている様に見えた。
(わかったわ何とかする)
アイリーンは気合いを入れた。
「只今ご紹介に預かりましたスターキッドキャプテン・アイリーンです。これから歌います。みなさんも楽しんで下さい『乾杯!』」
『乾杯??!』
会場内の人たちも一緒になって唱和した。
何を勘違いしたのかアイリーンが突然歌い出す。
『乾杯』をアカペラで。
今まで静かだった会場が歓声や野次が入り交じりいきなり沸き上がる。
一緒に歌いだしたのは地球人擁護派の人達だろう。
「ブーッ、ゴホッ、ゴホッ」
隣で『乾杯』と声高々に唱和してコップの中身を一気飲みしてたアリオン艦長が吹き出した。
「アイリーンストップ、待って歌うのはまだ早いから、後で……もう少し後になったらお声掛けしますからそしたら歌って下さい」
アリオンがアイリーンを壇上から今度は引きずり下ろす様に連れ去って行く。
その時、袖下で控えていたアルビレオにフォローするよう目で訴えた。
入れ替わるようにアルビレオが壇上に上がり乾杯に続く簡単な挨拶を行いパーティーが始まる。
「昴くんが乾杯を歌えって言ったのよ……多分そうよアイコンタクトだったけど」
アイリーンは恥ずかしいやら悔しいやら複雑な気分でアリオン艦長につぶやく。
「違うよ『乾杯』って言ってもらいたかっただけだよ」
昴くんはアイリーンを引き取るために密集した人達をかき分ける様にしてステージ側にたどり着いていた。
小柄な体格が幸いして素早く楽にやって来れてる。
彼女の手を取りながらなんで分かってもらえなかったんだろうと不思議な気分。
「せっかく舞台に上がれたんだから芸の1つでもしないと勿体ないでしょう、それに『乾杯の音頭』って言われたのよ盆踊りみたいにうちが歌ってみんなが踊るのかなって思ったのよ」
アイリーンにしては見事な言い訳だった。




