11. 観光地は危険が一杯
アーケード街を歩いているとすれ違う人たちが好奇の目で僕たち2人連れを見ている。
今すれ違った馬頭の人なんか振り返って見ているけど……あっ、やっぱりぶつかった。
「ケンカだ!喧嘩、ミノタウロスとぬりかべ男の喧嘩が始まったぞ、どっちに賭ける?」
砂糖に群がるアリの様に人集りが出来る。
(ここは古代ローマのコロッセオか?)
光一はアイリーンの手を引いて素早く安全な場所まで移動して話し掛けた。
「公園かぁ、人が少ない所にはあまり行きたくないなぁ」
「なに弱気なこと言っているのよ、それに人が多かろうと少なかろうと襲われる時は襲われるものよ、さっきみたいに今みたいにね、そうは思わない」
「その通りだよ、悪かったね弱気になって」
「わかればいいのよ……危ない目に遭ったらうちが助けてやるけん!」
「ありがとう、アイリーンはとても強いレディだね」
「それはセクハラじゃないね、そう言ってもらえるとうちも嬉しいわ、あっここの路地が近道になるわね抜けたら直ぐよ」
本当に通るのと言いたくなるほど狭いし暗いし絶対何かでそうな予感がする。
無鉄砲な可愛いレディが私の手を引っ張って先に行く。
路地を半分ほど進んだとき両側の扉が後ろから前まで一斉に開いて中から手が突き出て来る。
手だけが何十本も。
左から熊の手、右からは山羊の手?
いづれも私達を捕まえて扉の中へ連れ込もうとする。
(扉の上に看板が出てるからお店なんだろうけど……)
こんな強引な客引きはいつの時代どんな場所であっても許されていいわけない。
光一は内ポケットからショックガンを取り出して出て来た手に突き立てながらアイリーンを抱えて走り出す。
前回不評だった肩に担ぐのではなく、片腕で胸の前に抱き抱えてる。
今回はその位の余裕があった。
熊の手…
「ガウーッ」
山羊の手…
「メエーッ」
犬の手…
「キャイ~ン」
猫の手…
「ニャ~ン」
孫の手…
「……」
散々やっつけて路地を抜けると空が青く見える広々とした空間に出た。
高さが2m位の白壁が道沿いにぐるーっと囲んでいる。
おそらくこの向こう側が公園だろう。
壁には言葉混じりの絵とかがやたらと描いてあって殺風景な感じはなくむしろ芸術性さえ感じられる。
ただのラクガキ漫画かもしれないが。
入り口が見当たらないなと思っていると看板が目に入る。
それには〖←あっち300m 入口 800mこっち→〗と表記されていた。
抱いていたアイリーンを下ろしてパタパタしてやる。
また何か言われるのだろうと待っていると。
「抱かれて走るのも悪くないわね色々見れて楽しかったわ、あの手って同じ者が一つもなかったのよ知らない手もいっぱいあったわ、孫の手あたりから訳が分からなくなったよ……あれは義手だったのかしらね?」
「そんなことより怖くなかったのかい僕は捕まったらどんなことをされるのだろうと想像してしまって少し怖かったよ」
「あの手はみんな『お願いだから、お店に寄って行って』と言ってたわ、少し可愛そうに思ってきてたのよ。それをお父さんたら情け容赦なくバチバチと」
「え~、あの手が喋っていたのかい?」
「そんな感じがしたのよ!手が喋る訳ないでしょうDじゃあるまいし」
「Dって?やっぱりアニメか何かの主人公かい」
「Dの左手は喋るのよね……ねえそれよりどんな事を想像したのか教えてもらいたいわね……スケベ!」
「まだ何も返事してないしそんな誤解を招く言い方はやめてもらいたいな」
(アイリーンの感性が早いスピードで成長しているような気がするのだけどそっちのほうが心配だよ)
アイリーンが右へ行こうと引っ張るので逆らう。
「こっちの方が近いって看板に書いてあるんだよ」
「へえー、この看板に書いてあるのね」
アイリーンがまだじっと看板を見詰めている。
(言葉の勉強はしたことはないけど、この字体は確か宇宙標準語のはずだ)
「へえーそうなの、じゃあ歩きましょうか」
気のない返事をしながら私の手を引っ張り歩き出す。
右の方へ。
「急がば回れと言うじゃない!」
「この場合は違うと思うなぁ」
「月がとっても青いから遠回りして……とも言うじゃない」
「あれは家に帰りたくなかった人が言ったんだと思うよ。怖い人でも待って・・・」
アイリーンが怖い顔して睨んでいるのに気付き言葉を飲み込む。
「お兄ちゃんには情緒と言うものが欠けているんじゃないかしらね、そんなんじゃ女性にモテないわよ……お兄ちゃんはお父さんよね本当は結婚しているんじゃないかしら?」
「そんな訳あるかい!いやごめん、結婚なんかしてませんよ本当に」
アイリーンの表情が一層険しくなった。
(私、何かいけない事を言いましたか?)
怖くて声に出せない。
「お父さん結婚なんかって結婚に否定的なことを言っては駄目ですよ、未来に多くの希望を持っている娘の前では特にね、わかりましたか!」
「はい、すみませんごめんなさい……あれ?」
とりあえず800mの道のりをアイリーンに手を引かれて歩き出す。
「千里の道も一歩からと言うでしょう」
(幼子に教育的指導を受けるのはこれで二度目かなぁ)
ぶらぶらと20分程歩いて公園の玄関口にたどり着いた。
例に漏れず料金所があり大人80ポンタ子供20ポンタとなっている。
(あれ?思ってた以上に安いんじゃない……あっ、もしかしたら中に入ってからお金を巻き上げるシステムかも知られいな、こういう所はお客様に入ってもらわないと商売にならないからな、さっきの手が語ってたようにね)
公園の案内看板を眺めていたアイリーンが私に翻訳をお願いしてきたので一文字一文字丁寧語に教えてあげた。
勉強熱心なのは良い事だ、この調子なら宇宙標準語を早いペースでマスターするだろう。
私はブレインに頼りっぱなしで覚える気が全くないのが心苦しい。
100ポンタ払って中に入るとやっぱりだった。
料金ボックスと遮断機を一体にした様な機械が至る所にある。
その近くには両替機も親切丁寧に設置されていた。
歩道の入口に1台、中央の池に下りて行く道に1台、池に浮かぶペリカンボートにも当然あるだろう。
外から見たぬり……いや白壁の内側には自動販売機が隙間なく並んでいた。
赤、白、黄色とまではいかないけど飲み物や食べ物、オモチャや様々な商品チケットとそれらを取り出すための選択ボタン更には料金投入口が趣向を凝らしたイルミネーションで鮮やかに光り爽快な眺めになっている。
がめつく思われる商売もここまでくれば立派な芸術にさえ感じた。
ここは息をするのにもお金が掛かるドームの中なのだから。
「ペリカンボートにでも乗るかい?」
「やめとくわ、水との相性が悪いのよ」
良く意味が分からなかったけどボートには乗りたくないと解釈しておこう。
そして二択の内の一つが消えた。歩道コースのゲートバーを上げるために料金ボックスへお金を投入し左手に池を遠目に眺めながら右回りで散策を開始する。
アイリーンが物欲しそうな眼差しで自販機を見詰めていたが無言を通し父親としての威厳を保とうと試みた。
「お父さん気付いた?自販機から離れて行くよ」
余程未練があるのだろう、確かに目を引く自販機がいくつもあった。
ディスプレイがあるので出てくる商品はなんとなく分かる。
駄菓子菓子、食べ物以外の商品を選んだ時それが何なのかが分からない。
果たして玩具なのか武器なのかは実際に使わない事には分からないから気になってしまう。
「何か欲しいものでもあったのかい?」
しまったこれでは『買って上げるよ』と言っているのも同じだ。
(父親の威厳がぁ~)
「違うよ、自販機から遠ざかっているの少しずつだけど、この道、螺旋を描いて池に下りて行っているよこの公園の散歩道は3通りあったんだね、ボートに乗って池から見るか、歩道を歩いて池の外周を歩くか、自販機の前を通りながら全体を眺めるの三つだよ。多分だけどね」
(あーっ恥ずかしい、顔が赤くなってなければいいんだけど)
自分が間抜けに思えて仕方ない。
それに比べアイリーンはどうだろう、これではまるで知らない町を索敵している兵士ではないですか。
アイリーンが前に言っていた、『公園で毎日戦っているのよ』と言うのはどうやら本当の事のようだ。
アイリーンが早足になってる、自分の言った言葉が正しいのを早く証明したいのだろう。
(子供らしいアイリーンを見るとホッとするなー)
そして直ぐに池の縁に着く。
対岸には公園の出入口料金所が見えている。
このまま残り半分だけ池の周りを歩いて戻れば終わりなのかな。
池の周囲には手すりが張り巡らされている。
所々見た目で20mごとに赤い自販機が設置されている。
消火器ではあるまいにと思ってしまう。
ジュースか何かだろうなと思って近づくと池の生き物用のエサだった。
「お魚でもいるのかなぁ…」
アイリーンが手摺の切れ目から池を覗き込む。
「もう少しきれいだったら良かったね」
思わず言ってしまうほど池に透明感がない。
まるで緑色に着色した様な水の色だ。
アイリーンは不思議そうに水の中を見つめている。
「危ないよ」
声を掛けるよりも早く水面が沸き上がった。
水柱の中から全身が緑色をしたカッパが現れアイリーンの手首を掴む。




