95.榎崎 朱音⑧〜闘気〜
◼️前回までのあらすじ◼️
ブレバトグランプリのメンバーを争う争奪戦。
その4日目の対戦相手であるタッチー先輩とのバトルにて、アカネは『闘気』を発動させて勝利を収めることとなった。
しかし、『闘気』を使用した影響で気力切れを起こしてしまいアカネは倒れてしまったのであった。
タッチー先輩とのバトルが終了すると部員たちが一斉に集まってくる。
「我の方は心配無用だ。アカネの方を診てやってくれ」
タッチー先輩の声が聞こえる。
バトルが終わって蓄積ダメージは解消されているから、私の方も大丈夫――
「あ、あれっ……」
身体に力が入らず、上手く立ち上がれない。
「大丈夫、アカネちゃん。無理しなくていいよ」
Snowとルナが肩を貸してくれて、ゆっくりと座らせてくれる。
「何でだろう? バトルが終わったのに倦怠感が戻らない」
「それは気力切れの症状が続いているのだ。痛みや部位破壊と違って、気力はシステムで管理しているものでは無いので、バトルが終わっても回復しないんだ。我も初めて『闘気』を発動した時に同じ状態になった。現実に戻っても疲労感は戻らないし、全身筋肉痛になっていることを覚悟しておいた方がいい」
ゆっくりと近づいてきたタッチー先輩がその長い手を差し出し、今の私の状況を説明してくれた。
「座ったままで構わぬよ。よい試合だった」
慌てて立ちあがろうとする私を心配した言葉と共に労いの言葉ををかけてくる。
「はい。ありがとうございます」
私は座ったままで手を握り返す。
「良いところで我の方が『闘気』を発動できたので勝てると思ったが、まさかアカネも『闘気』を発動させるとは……
発動した時の反応と今の状態を見るに、初めての発動だったのか?」
「はい」
「そうか。まさかここで闘気に覚醒されるとはな、我も運が無い」
「いえ、あれはたまたまでした。
私の方が先に動けなくなりましたし、もし先輩が気力切れを起こすのがもう少し遅かったら私の負けでした」
「うむ。互いに未熟だったという事だな。初めての気力切れなのでゆっくり休んだ方が良いであろう。横になってもいいぞ」
「はい。すみません。ちょっと座っているのもしんどいので、横になります……」
そう断りを入れて、大の字に仰向けになる。ちょうどバトルフィールドが草原であったためらサラサラと吹く風と空を流れる雲が心地いい。しかし、体を動かそうとしても、ピクリとも動かない。
「あー、折角勝てたのに、全然体が動かないー
津張工業の人達とかSnowがバンバン闘気を使ってたから、闘気は一気に強くなれる隠れ機能だと思ってたのに、まさかこんなデメリットがあるなんて思ってなかったよー」
思わず愚痴が溢れる。
「なるほどな、そうだな。その辺はSnowに聞いたほうがよいかな?
どうなんだ実際、『闘気』とはどんなものなんだ?」
私の言葉に合わせる様に質問する声があった。それはeスポーツ部の部長であるセツナの声であった。
Snowは急な問いかけに「ほえっ?」と気の抜けた返事をしていた。
「えっ、私、ですか?」
「ああ。うちの部活で『闘気』を扱えるのはSnowだけだからな。すでにレギュラーに選ばれているメンバーも習得した方がいいものなのか、アカネの様に反動で動けなくなるので習得は控えるべきなのかが分からないから、ここはSnowの意見を聞きたい」
慌てるSnowに対して、セツナ部長が質問の意図について補足説明する。
「そうですね。う〜ん、『闘気』についてですか。なかなか説明が難しいんですけど、簡単に言うと『心の力』がゲームシステムによって具現化したもの、なのかなと思ってます」
Snowの説明に聞いていた部員はみな首を傾げる。私もあまりピンと来ていなかった。そんなみんなの反応を見てSnowは補足の説明をする。
「たとえば津張工業のジョーカーさんや、タッチー先輩が使用した『闘気』は、威圧や気合が具現化されたもので、津張工業のファイガさんとヒョウガさんは属性に対する威力や追加効果の発生率を強化するものでした」
そう言われて、両方のタイプと闘ったことがある私は腑に落ちた。
「なんとなく、分かる気がします。
先程闘ったタッチー先輩の『闘気』はすごい威圧感で上手く体が動かせなくなりました……」
「うむ…… 我は自身が光った時に強くなれる程度にしか思っていなかったのだが、そんな効果があったとは……」
私の言葉に、タッチー先輩が唸る。
「『闘気』を発動させるにはシステムに影響を与える程に思いを込めることが必要になるので精神的な疲労が一気に来るのと、現実ではありえない現象のフィードバックが全身にかかってくるので反動で動けなくなっちゃうのかな、と思います」
Snowがデメリット部分の考察を述べる。
「なので、慣れないうちはあまり使用しない方が良いかもしれないです。
多分、津張工業の人達は『闘気』を使うための訓練をしていたのだと思います。
オールスターゲームでプロの闘いも見ましたけど、プロでも瞬間的に使ってたくらいで常時発動はさせていなかったので……」
なんだかSnowがとんでもないことを言っている。プロの闘いの考察までしてるなんて、私なんてプロの闘いなんかは何やってるか詳しい事は理解できずに「すごいなぁ〜」程度にしか思わなかったのに。
「ならば、念の為に聞くがSnowはどんな思いを『闘気』として具現化しているんだ?」
「えっ、私、ですか?
私は全身を巡る氣の流れをイメージして具現化している感じです。
津張工業の方々の様な攻撃的なイメージでなく、具現化した氣にて身体を護ったり氣功術の発動をスムーズにしたりと、どちらかといえば守備的な闘気ですね。
多分、アカネちゃんも私に近い形で闘気が発動したのだと思います。なので、タッチー先輩の闘気による威圧を防いだり、氣功術を用いた必殺技である『崩穿華』をスキルの補助なしで繰り出せたりしたのかな、と思います」
「何だかいつのまにかSnowの『闘気』についての講習会になっちゃいましたね」
少し回復したので、なんとか上半身を起こすと、対戦相手だったタッチー先輩に苦笑して告げる。タッチー先輩も同じ思いだったのか「うむ」と微妙な表情で頷き返してくれた。
「おっと、すまない。アカネとタッチーの感想戦モードだったな。外野の私達で盛り上がってしまって悪かった」
「あの、ごめんなさい」
慌ててセツナ部長とSnowが謝るのを「いえいえ、むしろ今の時間で少し休憩できたので、良かったです」と返し、その後に私とタッチー先輩にて今のバトルについての意見交換をしたのであった。
そして私達のバトルを終了させると、本日の第二戦となるプロテイン先輩vsシヴァ先輩の対戦を観戦したのであった。
「がーはっはっはっは! 大勝利だぁーーー!!!」
第二戦で勝利したのはプロテイン先輩だ。豪快なガッツポーズを見せる重装備の騎士を見詰めながら私はプロテイン先輩の強さを再認識する。
「アカネちゃん……」
一緒に観戦していたSnowが声をかけてくる。プロテイン先輩は明日の対戦相手だ。
騎士の固有スキル【防具重量軽減】があるとしても、全身鎧はその重量から装備する者が少ない。それを筋トレが趣味という先輩のありあまる筋力でものともせずに使いこなし、さらに防御力を上昇させるスキルにて鉄壁の防御力として体当たり攻撃をしてくるのだ。
単純明快な戦闘スタイルだが、その対処はなかなかに難しい。多くの貫通技を有するシヴァ先輩でも対処しきれずに押し切られた形だ。
これでメンバー選抜戦4日目を終えた時点で勝敗は
・プロテイン 2勝1敗
・タッチー 2勝1敗
・シヴァ 1勝3敗
・アカネ 2勝1敗
・ミキオ 1勝2敗
となった。休みの無かったシヴァ先輩がいち早く全行程を終えたのだが、残念ながら3敗目を喫してしまったため落選者第一号となってしまった。
そして残りのメンバーだが、2勝1敗が3名並び、更に最終日に直接対決があるため確実に2勝2敗のメンバーが出ることになるので、成績では出遅れている1勝2敗のミキオも最終日にて勝利すればメンバーに残る可能性が残っているのだ。
そんな混迷を極めるメンバー選抜戦は、いよいよ最終日を迎えるのであった。
投稿が遅くなってすみません。
すぐさまプロテイン戦を行おうとしたのですが、やはりちゃんと闘気の事について説明しておいた方がいいのかなと思い、説明回をひとつ挟みました。
さてさて次回はメンバー選抜戦最終戦となるプロテイン戦になります。
バトル回のため早めに投稿できると思いますのでご期待いただければと思います。




