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93.榎崎 朱音⑥〜混戦のメンバー選抜戦〜

◼️前回までのあらすじ◼️

夏に行われるブレバトグランプリのメンバー選抜戦。

5人のメンバー候補の中からメンバー枠3つを争う戦い。

朱音は初戦を落とすも、辛くも二戦目を勝利しなんとか当落選上に踏みとどまるのであった。

 二戦目でやっと一勝をもぎ取ったのだが、メンバー選抜戦は混戦状態となっていく。


 一日二戦で進められたメンバー選抜戦だが、三日目に番狂わせが起こる。


 これまでの成績は


〈1日目〉

ミキオ(勝)-(負)アカネ

タッチー(勝)-(負)シヴァ


〈2日目〉

プロテイン(勝)-(負)ミキオ

アカネ(勝)-(負)シヴァ


プロテイン 1勝

タッチー 1勝

ミキオ 1勝1敗

アカネ 1勝1敗

シヴァ 2敗


 となっており、試合が一日無かった二人が優勢となっている流れであった。


 三日目は私が試合が無い日であったのだが、大番狂わせとなったのは『プロテインvsタッチー』だった。

 試合数が少なく互いに1勝ずつの実質的天王山となる試合。大方の予想では三年生のプロテイン先輩が優勢だという見方であったが、結果はタッチー先輩の勝利となった。


「しゃああああああああっ!!!」


 珍しくタッチー先輩が喜びを爆発させる。


 防御を固めて突進攻撃を繰り出す単純な戦闘スタイルのプロテイン先輩に対して、タッチー先輩の柔軟性を主体にするトリッキーな戦闘スタイルがいい感じに刺さった形となった。

 大ダメージ必至の突進攻撃をヒラリヒラリと躱しながら確実にダメージを与えていったタッチー先輩がそのまま押し切った形だ。


「最後に一瞬だけどタッチー先輩、闘気を発動させていたよ。アカネちゃん、もしかして選抜戦での一番の難関はタッチー先輩かも……」


 隣で観戦していたSnowが感想を漏らす。


 そう、私には今闘っていた二人とのバトルが残っているのだ。選抜戦でなんとか1勝もぎ取れたけど、明らかに格上の二人とのバトルを考えて、私は頷いて返す。


「それでも、私は勝つよ。Snow、選抜戦の観戦が終わったらひとバトルいいかな?」


「うん。分かったよ」


 そんなやり取りを交わす。


 さらに、3日目の第二試合も想定外の結果となった。


「おっしゃああああああ!!! やっと1勝。ギリギリ踏みとどまったぁ!!」


 鉄爪を掲げて雄叫びを上げたのはシヴァ先輩だ。

 2敗して背水の陣であったシヴァ先輩がミキオを下して勝利をもぎ取ったのだ。シヴァ先輩の勝利への想いの強さもさることながら、盾による防御主体のミキオに対して、『削り技』や『貫通攻撃』を多く使うスタイルのシヴァ先輩は相性が良かったのが大きかった。また、副武器は破壊不能であるため、ミキオが得意としたソードブレイカーによる武器破壊の戦法が使用できなかったのも大きかった。

 3日目の成績は――


〈3日目〉

タッチー(勝)-(負)プロテイン

シヴァ(勝)-(負)ミキオ


 となり、3日目が終わった時点での成績は


タッチー 2勝

プロテイン 1勝1敗

アカネ 1勝1敗

シヴァ 1勝2敗

ミキオ 1勝2敗


 と、ほぼ横一線、全員がまだメンバー入りの可能性を残した状態になった。


 そして迎えた4日目。


 誰もが一つも落とせないギリギリの状況で私の対戦相手となったのは、現在全勝中のタッチー先輩となった。


「いざ尋常に勝負だ」


 タッチー先輩は、独特の口調で挨拶すると鞘から剣を抜き放つ。

 手にしたのはオーソドックスなショートソード。攻防に扱いやすい武器だ。


「よろしくお願いします」


 私も挨拶をすると、背に装備していたブーメランを抜き放つ。


――まだ使いこなせてないみたいだけど、『闘気』には気をつけてね。


 Snowからそんなアドバイスを受けた。

 『闘気』については津張工業高校との練習試合にて相手に使う人がいたので、なんだか体から噴き出るような気を纏うみたいなエフェクトが出るということぐらいしか知らなかったが、念のためという事でSnowに『闘気』をバトルで使用してもらった。それは予想以上に厄介なものであった。

 肌がビリビリするような威圧が常にあり、公式では効果は発表されていないけど、攻防両方に僅かにプラス(バフ)効果がかかるみたいだった。


「そこまでSnowに教えてもらったのだし、負けるわけにはいかないわね」


 ニヤリと不敵に笑って見せて、不安を吹き飛ばす。


 Fight!!


 バトルが開始される。


「スキル【斬波衝】」


 私は牽制も込めて衝撃波を撃ち出す。その衝撃波を「にゅるん」と効果音が聞こえそうな柔らかな身のこなしで躱しながら距離を詰めてくる。

 すごい。やはりこの先輩は強いよ。

 体が柔らかいのもあるけど、紙一重、最小の動きで躱しながら最短で近づいてくるタッチー先輩の動きはまさに達人級だ。独特な口調であまり自らの意見を言わないためあまり目立たない先輩だけど、この一瞬の動きだけで凄い先輩なのだと再認識させられる。


 近付かれたら不利になる。ならば――


「はあぁぁっ!!」


 虎の子であるブーメランを投げ放つ。高速回転して飛来するブーメランは衝撃波(スキル)に比べて当たり判定がある範囲が広い。相手は大きく回避行動を取るか、防御するかの二択を迫られる。


「スキル発動【縮地】!」


 私はスキルを発動させて投げ放ったブーメランを追う様に地を駆ける。


「くっ――」


 ブーメランの後に私が追撃しているのを感じ取ったタッチー先輩は大きく回避する行動を選択。防御したらブーメランが接触する筈だった位置に【縮地】で移動した私は相手が回避していたのを確認すると、更に【縮地】を発動させてブーメランを追う。

 私の動きを予測していたタッチー先輩は攻撃を仕掛けてきていたが、【縮地】の連続発動によって攻撃は空振りすることになった。


「むっ……?」


 私が想定外の動きをしたのか、タッチー先輩が疑問の言葉を漏らす。その声を背後に聞きながら【縮地】にて追いついたブーメランを()()()()

 ブーメランは躱されると、手元に戻ってくるまで無防備になる弱点がある。ならば「自らが取りに行けばいいじゃん」という発想から編み出した戦法だ。

 ルナからは「いやいや、だからって投げた武器に追いついて掴むなんて意味不明だよ!」とツッコまれたりしたが、私としては気に入っている戦法である。未だに100%で投げた武器を捕まえることは出来ていないためバトルで使用するのは初めてだが、この戦法をここで披露しないでいつ披露するんだ、という場面だ。


 ブーメランを掴んだ私は反転し、その回転の威力を乗せて再度タッチー先輩に向けてブーメランを投げ放つ。

 スキルは連続発動は基本的に3回までで最大数に達するとクールタイムが発生する。スキル【縮地】も同様なのだが、この投擲モーションの時間で連続発動回数のカウントがリセットされるのだ。なので――


「まさか――」


 タッチー先輩が驚きの声を漏らす。気付いたみたいだ。


 そう、私のこの戦法は――


「スキル発動【縮地】!」


 再度スキル【縮地】を発動してブーメランを追う。


――ブーメランを相手が防御するまで繰り返されるのだ。


「くっ!」


 タッチー先輩は横っ飛びで地面に転がる様にブーメランを回避する。


「【縮地】!」


 さらにスキルを重ねがけしてブーメランを追い、再度武器を捕まえる。


 よし、上手くいった!


 2回連続での武器キャッチ成功。成功率は低くは無いのだがバトル本番での失敗は敗北に繋がりなねない。だから、何度だって成功させて見せる。


「まだまだぁ!」


 反転し相手が地面に伏せているのに合わせて低空でブーメランを投げ放つ。

 体感時間にて【縮地】の連続発動回数がリセットされる時間だけ溜めを作ってから【縮地】を発動させて武器を追う。


「なんて厄介な戦法だ。防御するまで終わらないのなら!」


 タッチー先輩は覚悟を決めた表情で、左腕に装備した鉄甲にて防御の態勢を作る。


 【縮地】によって超加速してブーメランを追う。


 ガリガリガリガリッ!!!!


 高速回しているブーメランは多段ヒット判定がある。鉄甲に当たったブーメランはその場で回転を続け何度も衝撃を与える。


「はあぁぁぁあっ!!!」


 スキルにて超加速した勢いを込めて右の拳を繰り出す。


「追撃があると分かっているなら、対処は可能だ。奥義『蛇咬刃』!」


「それはこっちも一緒よ! スキル発動【神速拳打(バレットフィスト)】!!」


 ガキィィィィィン!!!


 金属がぶつかり合い、弾かれる音が響く。


 スキル効果で高速で打ち出された左手の拳が相手の刃を弾く。今までのタッチー先輩のバトルを見てきたのでこの技は軌道が不規則に変化するのは分かっていた。なので防御するではなく変化前の刃に拳を当てに行ったのだ。それで相手の攻撃を防いだのだ。拳まで保護範囲である鉄甲を装備しているがゆえにできた芸当だ。


 攻撃を放った方の右の拳はと言うと、こちらは相手の鉄甲に防がれていた。


「低空でブーメランを投げたため我の防御を抜けれなかったか……」


 タッチー先輩の言葉に私は口角を上げて否定の言葉を返す。


「いえ、これを狙ったんです」


 そう告げるとバックステップで距離を取る。


 バキリ……


「なっ――」


 タッチー先輩の鉄甲に亀裂が走り砕ける。


「私の奥の手。同箇所連続攻撃で威力を倍加させる『水穿』の疑似再現技――名付けて『雪中嘩(せっちゅうか)』よ」


 ネタばらしをしながら、固有スキル【武具帰還】で武器を手元に戻す。


「ぐぬぬ。唯一の防具である鉄甲をまさか初撃で砕かれるとは……」


 タッチー先輩は神妙な表情となって左腕を確認する。


「私はタッチー先輩の強さを認めています。普通に闘ったならば勝ち目が薄いのは理解してました。

 でも、防具による防御は出来なくなったタッチー先輩にならば、勝機があります。

 このバトル、勝たせてもらいますよ」


 私はそう宣言してブーメランを構える。


「否。勝利は譲らんよ」


 防御が出来なくなったタッチー先輩は、両手持ちで剣を構え直して応えるのであった。

アカネvsタッチー 戦を書き切る予定でしたが、選抜戦の途中経過の説明を手厚くしたら文字数が嵩んでしまったので、ここで区切らせていただきました。

次話も引き続きバトル回なのでご期待ください。



□どうでもいい作者のひとりごと□

疑似『水穿』の技名についてですが気に入っているので、ちょこっと説明。

お気づきとは思いますが真雪の扱う技は花の名前が由来のものが多く


水仙→水穿


であるため、花の水仙の別名である雪中花を文字って『雪中嘩』としました。

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