92.榎崎 朱音⑤〜特訓の成果〜
◼️前回までのあらすじ◼️
夏のブレバトグランプリに出場するメンバーの選抜戦に臨んだ朱音は、その第一戦を落としてしまう。
友人の真雪に教えを乞うた朱音は新しいスキルセットにて朝まで特訓をしたのだが、第二戦でその成果を発揮することはできるのであろうか。
メンバー選抜の第二戦は、シヴァ先輩との対戦となった。
メンバー選抜戦は一日に二戦ずつ行われ、昨日の結果が
・アカネ × - ◯ ミキオ
・タッチー ◯ - × シヴァ
となったため、お互いに一敗している崖っぷちの二人の対戦となった。5人中、3人が選ばれる選抜戦では最低2勝が合格ラインだ。他の選抜メンバーの結果次第ではあるが、2敗目を喫するとなると生き残るのは絶望的となる。
しかも、先に行われたプロテイン先輩vsミキオの試合ではプロテイン先輩が圧倒的強さで勝利を収めていた。やはり選抜戦ではプロテイン先輩が頭一つ抜き出ており、二人ともそのプロテイン先輩との闘いも残しているのだ。
「アカネには悪いが、この試合勝たせてもらうぞ」
「いえ、私もメンバーに残るために負けられません」
試合前に交わす言葉も、互いに勝ちを意識した内容だった。
昨日あれだけ練習したんだ。その成果を絶対見せてやる。
武器を持つ手に力が入る。
3…… 2…… 1…… Fight!!!
システムメッセージが表示され、バトルが開始される。
「先手必勝! スキル発動【掃射弓撃】!!」
射手のシヴァ先輩は矢継ぎ早に矢を放つスキルを発動させる。
こちらは投擲士なので中距離での攻防では、固有スキル【自動装填】があり弾切れの無い射手のほうが手数を使った攻撃は有利なのだ。それを見越してのスキルなのだが、スキル発動が見え見えの先制攻撃なので、私は冷静に対応することができる。
そうか、Snowが「溜めがあって予測しやすいスキルは対応され易いので外した方がいい」と言っていたのは、こういうことか、と少し納得する。
「スキル【斬波衝】連撃!」
衝撃波を飛ばすスキルにて最初に飛来した矢を撃ち落とす。
向こうが10本連続で矢を射るスキルに対して、こちらは連続発動が3回までのスキルであるため、全てを打ち落とすことは出来ないが、最初の矢の1/3を打ち落とせたので回避は難しくはなかった。
ギリギリまで引きつけて横に移動して回避する。
「ほう、斬波衝か。スキルセットを変えたみたいだな。だが、そんな付け焼き刃じゃ俺に勝てねぇぜ!」
「っ!!」
気づいたらシヴァに近距離まで近づかれていた。
「シャアァァァッ!」
副武装の『鉄爪』に武器を切り替えて攻撃を仕掛けてくる。
射手なのだが接近戦も得意というのがシヴァ先輩の特徴だ。しばらくは中距離での牽制のしあいになるかと思っていたので、少し意表を突かれた形になる。
「くっ」
それでも私は、近距離から繰り出される爪撃の嵐を、なんとか右手に持つ武器と左腕に装備した鉄甲で防御する。しかし――
ドフッ!
シヴァ先輩の蹴りが脇腹に入る。鈍い痛みが走り、体勢を崩したところに追撃で繰り出された鉄爪が掠る。さらに前蹴りで弾き飛ばされる。
「くうぅっ……」
やっぱりシヴァ先輩は予想以上に近距離戦闘に慣れているみたいだ。部活では同年代のタッチー先輩と訓練していることが多いため、シヴァ先輩との対戦が少なかったのだが、まさかここまで近距離の戦闘が強いなんて思っていなかった。
「ハッハー! 初撃ボーナスは頂いた。このまま畳み掛けるぜ! スキル発動――」
シヴァ先輩はニヤリと口角を上げ、スキル発動の体勢となる。鉄爪が淡く輝き、ぐっと腰を屈める。
「【爪刃猛襲拳】!!」
地面を蹴り、一気に距離を詰めて爪撃を繰り出して来る。鉄爪用の突進&乱撃スキルだ。
が――
「ここだ。スキル発動【神速拳打】!」
高速のジャブが、乱撃を繰り出そうとしていたシヴァ先輩の攻撃の起点となる部分である右肩口に炸裂する。
「くっ、なっ――」
ダメージは少ないが、その一撃によって体勢が崩されたため乱撃が強制中断させられる。決まった型の動きをトレースする連撃型のスキルは、その型が崩れると中断させられてしまうのだ。今日の朝までずっと練習していたスキルが綺麗に決まった。
シヴァ先輩が想定外の事態に、驚きの声を漏らす。
好機――
相手が一瞬怯んだその隙を見逃さずに、私は攻勢に出る。
打撃モードの武器の連撃が見事に決まるが、相手もすぐさま相手も立て直し鉄爪で反撃してくる。
カウンターで一発痛いのをもらってしまったが、その後は互いに近距離で打ち合う乱戦状態となった。
そのまま、闘いは致命傷を避けての近距離での削り合いとなる。
くっ、このままだとほぼ互角だ。どこかで一つ大きな決定打がほしいところ……
防御しきれない攻撃を受けては、こちらの攻撃を通すを繰り返しながら打開策を模索する。
それは相手も同じだった。
「スキル発動! 【竜巻回転撃】!」
先に仕掛けたのはシヴァ先輩だった。大きく両腕を広げて回転しながら連撃を放つスキルを発動させる。その場で回転してあたかも自らが竜巻になったかのように繰り出されるその技は単純な攻撃に見えてかなり厄介な技である。
「くっ、うぁっ……」
慌てて防御するが、軽い痛みと共にガリガリと体力が減っていく。
この技は半貫通攻撃となっており、防御していてもダメージ判定があるのだ。もちろん通常で食うダメージに比べるとダメージは少ないが『塵も積もれば』である。俗に言う『削り攻撃』というやつだ。
私は慌てて下段蹴りを放つ。このスキルのデメリットとしては、単純な動きのためカウンター攻撃を喰らい易いところにある。
しかし、こちらの攻撃を読んだかのように、シヴァ先輩はスキルを解除して飛び退る。
「ハハッ、油断したな! 今の削りでこっちに有利な状況になった。このまま大技で一気に決めるぜ!
スキル発動【回転掘削突撃】ーーーー!!!」
距離が開いたところでシヴァ先輩が更にスキルを発動させる。両手の鉄爪を前に突き出し、錐揉み回転しながら特攻して来る。こちらは正真正銘の貫通攻撃だ。防御無視のダメージを与えると共に、多段ヒット判定がある厄介な技だ。下段蹴りを空振りし態勢を崩している今の状態では回避不能だ――
「しまったっ!」
私は慌てて上下の歯をカチンと噛み合わせて、歯を食いしばって衝撃に備える。
ズガガガガガガガァァァァッ!!!!!
鉄爪の攻撃をモロに喰らってしまう。しかも、錐揉み回転しているため多段ヒット判定が入り一気に体力を奪い去る――かのように思われただろう。
【空蝉】
使用したスキルの表示が出ると共に、身代わりになった丸太が粉々に砕け散る。
そうこれが私が新しく入れた奥の手のスキル【空蝉】だ。それを『大きく歯を噛み合わず動作』を起因とさせて発動させたのだ。
そして、相手の背後に空間転移した私は武器を投擲モードにして思い切り投げつける。
「しまっ――ぐぁぁぁぁっ!!!」
無防備な相手の背中に高速回転するブーメランが直撃する。それはカウンターとして判定され、さらに多段ヒットとなって一気にシヴァ先輩の体力を削る。
「くそっ、痛いのをもらっちまった」
慌ててシヴァ先輩が振り返るが、その時はすでに私はスキル【縮地】にて近距離の間合いまで詰めていた。
「これで決まりです。奥義『崩穿華』!」
敢えてSnowが使う必殺技名を発動の鍵言とした貫通攻撃【貫衝烈拳】を叩き込む。
「ごはぁっ!!」
その一撃をモロに服部に食らったシヴァ先輩は、苦悶の声と共に吹き飛ばされ、体力が0となったのであった。
You Win!!
システムメッセージが、私が勝ったことを告げる。
「なんとか、勝てた……」
やっと勝てた安堵の声が溢れる。
そして、私は昨日とは違う喜びの気持ちを胸に仮想空間の空を見上げるのであった。




