【9回表裏】
最終回です。。
読んでってね。。
「そのことにお母さんは…」啓子の言葉を自身に染み込ませるように聞いていた珠優奈は「子供の頃に気がついたの?」と訊ねた。
「まさか~?そんな訳ないでしょ。お母さんはダメダメな子供だったもん。今でもかな?」
もしも自分たち親子が机を並べた間柄だったら、確実に私が注意される側だっただろうな、と啓子は考えていた。
「自分が望んでしている物事でも『しんどいな~』って思うことがあったら…『これがお母さんの言ってたやつか~』とでも思い出してくれればいいわ。実際に自分が体感しなくちゃ分からないから」
本音で話し続けることが急に照れくさくなった啓子は、珠優奈に対して畏まった敬語でこう続けた。
「では…中学生の珠優奈さんにお訊ねします。時間を忘れるくらい没頭できて、充実感を得られていることや…『人生って素晴らしい』って思えるくらい好きなこと…何かありますか?」
「あの……微妙に質問が変わってきてる気がするんですけど……」
「堅いこと言わないの。じゃあズバリ…あなたの好きなことは何ですか?」啓子は白い歯を見せた。
本心をさらけ出すことを恥ずかしく思い、珠優奈は啓子と同じように少し畏まった言い方でこう答えた。
「母親がジャーナリストなので、文字に親しむ機会も多く、その影響からか文章を書くことは小学生の頃からずっと好きでした。今のところ一度も苦痛に思ったことはありません。ただ母のような文才は私にはありませんが…。あと料理も好きです。料理は母よりも上手くなれるかも知れません」
「言うな~?中学生~!主婦なめんなよ~?」
そう言いながらも、珠優奈の心の内を聞けて嬉しく思った啓子は、終始顔をほころばせていた。
どこにでもある・・・
日常の細やかな幸せが、啓子の外側に溢れ出る。
しかし母親の笑顔は、その対極に位置する彼女が作る名称もつけられない独創的な料理を娘に思い出させ…珠優奈は『いやいや…本当に美味しくないのお母さん…マジで…ガチで…』と口走りそうになる。
ただし言ってしまったら、目の前にある母親の笑顔が消滅する。
珠優奈が発した言葉が突風を巻き起こし、啓子の笑顔をどこか遠くへ吹き飛ばしてしまう。
かも知れない・・・
そして二度と戻ってこないかも知れない・・・
だから、これからもきっと珠優奈は口にしない。
そして自己評価が低い娘を見ていて母親は『中学時代の私よりも、今のあなたの方がずっと文才があるわよ!もっと自信持ちなさい』と口走りそうになる。
けれど言ってしまったら、娘の可能性を狭めてしまうかも知れない。
娘の珠優奈には他人の意見に左右されることなく、ゆっくりでもいいから、自分で決断しながら人生を歩んでいって欲しい、と母親の啓子は願っていた。
だから、取りあえず今のところ啓子は口にしない。
もしも娘が考える・・・
どのような状況下に置かれても、自分の世界に入り込めることが、ジャーナリストになる為に必要な能力だとしたら・・・
テーブルに置かれた料理が、冷め切ってしまっていることに気がつかず、キッチンで母親と話し続けている娘は、ジャーナリストとしての資質を持ち合わせているとは言えないのだろうか・・・
母親のジャーナリストとしての才能が、娘にしっかり受け継がれているとは言えないのだろうか・・・
娘を天性のジャーナリストと呼ぶことはできないのだろうか・・・
そのことに気がつくことなく・・・
珠優奈は啓子と、話に花を咲かせている。
終
↓
余韻のための余白~♪
【1717】完結につき…読了してくれた皆さんに、後書きの代わりとして能書きを1つ。
野球つながりということで、少しお付き合いください。
平成も、あと1年弱で終わりを迎えます。
皆さんはご存じでしょうか?
以前[平成の怪物]と呼ばれた男がいたことを
失礼…今現在も彼は現役で頑張ってますね。
その彼が口にした…『自信が確信に変わりました』という彼の代表的な言葉があるのですが・・・
そう…啓子も言っていた【自信】です。。
自信はあったはずなのに「本当に自信ありますか?」と誰かに訊ねられた途端、急に自信をなくしてしまった経験がある人。
いるかも知れませんね?
もしも…これからそういった状況に陥ったときは、単語を分解してみて下さい。
そう【自信】を分解するのです。
自信とは字のごとく『自らを信じる』という意味です。
よって他者に、その信じる根拠を示す必要は何1つないのです。
自分を信じればいい。
ただそれだけです。
簡単でしょ?
まぁ最終的には『自分自身を信じ続けることが一番難しい』と気がつくことになると思うのですが・・・
継続させることを目標にせず、中短期的なら、そう難しいことではありません。
そうすることで、夢という叶えたい事物に、少しでも自分を近づけられるのであれば…もうそれは容易いことですよね?
やるっきゃない♪
思いっきり自分を信じちゃって下さい。
『春に…なに青臭いことを言っているの?』と思われる方もいるかも知れませんね・・・
まぁそこは…いくつになっても【青春】と言うことで…ご容赦を♪