第二十二話 魔法使いたちの勇戦戦争
またもやウールタウンの朝。もうここに用はないので別の街に行こうとは思ったが、一つ気になっていることがある。この街で車が走っているのだ。
そういえば、この街が運送業でホームレスがなくなったと言っていたな。だから車が多いんだとすぐに理解することができた。
顔を洗って鏡を見ようとした瞬間、背後からラズラが俺の背中に乗ってきたのだ。
「マゼル、おはよう!」
「おいおい、乗るなよ重いだろって」
実際には軽いのだが、早く準備をしたかったので背中から降りてほしい。
「ちょっとぐらい、ダメ?」
本当に甘えたさんだなぁ。けれどもいつも元気なラズラを見るとこっちも元気が出てくる。
今日も美味しい朝食を食べ、この街を出ることにした。
「どこ行くの?」
「国王様が南のほうに大きな街があるらしいから行ってみようと思って」
せっかくなので、近くのフランコさんの店を見てみようか。少し歩いてフランコさんの店まで行ってみると、そこには何も無かった。何があったのか?
「マゼル、何もないよ」
フランコさんはここを残して黒いフードの男の行方を追っているのになぜ何もないんだ?
「ここにお店があったはずなんだが……」
もしかして俺が方向音痴なのか?でも、ここだったはず。
「マゼルはここにあったお店を経営してたの?」
「違うんだ。フランコっていう人のお店があったんだけど、ここで世話になって」
俺はこのあとラズラにフランコさんに世話になった話を少しだけして、俺たちは南に向かって歩いていった。
歩いていく道は自然がとても綺麗で川も流れている。そんな綺麗な道をゆっくり二人で歩いていると、遠くに街が見えてきた。
「街が見えてきたね」
でも、遠くから見てもとにかく街はでかい。パッと見た感じ、ウールタウンの三倍の広さがあるのではないのか。
もうちょっと歩けば街に着くのだが、近くで揉め事が起きているようだったので止めに行くことにした。でも前の嫌な思い出があるのでなるべく行きたくないのだが、通り道なので無視することもできず止めることにした。
「おいこら、早く金よこせ!」
「ごめんなさい、許してください!」
この街ではやけに揉め事が多いな。今思ったけど、異世界は日本みたいに警察とかいないからそうなるよな。争いあっているのは髭の濃いおじさんと小さい子どもだ。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだじゃねーだろ! こいつがぶつかってきてポーションが何個か割れてしまったんだよ!」
なんだそうゆうことだったのか。すると横にいたラズラが少年に声をかけたのである。
「なんでぶつかってしまったの?」
「僕の不注意です……」
少年も素直に反省しているようだったので、割ってしまったポーションの代金を俺が払って揉め事が済んだ。
「大丈夫か?」
俺が少年に手を伸ばすと手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。
「ありがとう、お兄さん」
どうやら少年の格好からして魔法使いっぽい。その証拠に俺と同じ汚れた魔法書を持っている。
「君の名前は?」
とっさにラズラが少年の名前を聞く。
「シータです、すみません、僕のせいで……」
「気にしなくてもいいんだよ」
シータはそんなこと言っても俺から離れる気はなさそうだ。そして、シータの顔はどんどん赤くなっていった。
「僕はマッガの街から逃げてきたものなんですが、街がどのようになったか知りませんでしょうか?」
本当のことを伝えるとシータががっかりしそうなので、勇者がマッガの街を救ってくれたという真実を告げ俺とラズラは街の方向に歩こうとした。
「もしよければ、あなたと一緒についていかせてもらえないでしょうか? 僕、僕は家がないんです………」
確かにマッガの街から逃げてきたなら住む場所もない。ただ、俺が時空間移動を使える真実を知ってしまったらどうなる。
「すまん、俺は知らない奴を仲間にできない……」
シータを仲間にしてあげたい気持ちはあるが、これからのことを考えるべきだ。
「マゼル、可哀想だよ」
ラズラは悲しそうにこっちを見るが、俺は時空間移動を使える者としてシータを仲間にできない。
「ごめん、ラズラ。俺は例のあの魔法が使えるからシータを仲間にしたくないんだ」
「それは分かってるけど、仲間がいないと心細くならない? 私もひとりぼっちのときは寂しかった。だから……お願い!」
そんなこと言われたらシータのことが可哀想に思えてきた。俺だって最初にフランコさんに出会っていなかったら異世界で何もできなかったと思う。
俺は本当に仲間にするが迷ったが、ラズラの言うことも一理ある。そして俺はシータのほうに近づいた。
「俺たちと一緒についてきてくれるか?」
もう時空間魔法のことを気にせず、シータを仲間にしよう。そう自分の心に言い聞かせたのであった。
「はい! よろしくお願いします!」
シータは俺のほうを向いて笑顔で返事してくれた。
「マゼル、ありがとね」
そして三人で綺麗な道をゆっくり歩いていくのであった。




