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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第5章 虹色の蛇
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M12 勇者の救出

 時間は少し前に戻り、2月3日。勇者マサキがトンネルに入った直後のことだ。

 まず、ヴェスタがシンに状況を伝え、そこから全軍に溶岩でトンネルが塞がったことが伝わる。

 その伝達を待つことなく、ヴェスタは単身山越えを敢行。シン達の引き留めを振り切り、トンネルの反対側を目指した。

 高空を跳ぶことで山に巣くう魔獣を回避して何時間も飛び、ようやく反対側に就いたそこで目にしたのは、入り口側と同様、溶岩が流れ出して塞がった出口。

 これを見てようやくヴェスタは、敵の狙いが勇者と連合軍の分断だけでなく、勇者マサキの封じ込めであると理解する。

 最低限の休息を取ってから再度飛行し、連合軍司令部に帰還したヴェスタはシンに掘削によるマサキの救出を依頼する。

 この時点で3日の夜になっていた。


 シンは既に冷え固まった溶岩を土魔法で掘ろうとしたが、困難を極めた。


「だめだ。ヴェスタの見立て通り、この溶岩は魔法で発生させられたものだ。強度を上げてある。」

「旦那なら強引にいけねえか!?土の神子だろう!」


 焦って声が大きくなるヴェスタを、シンは宥めながら答える。


「落ち着け、ヴェスタ。お前もわかっているだろう。既に他者の制御下にある物体から主導権を奪うには、術者の魔法出力をこちらが大きく上回っていなければならん。確かに儂の土魔法の出力は世界一だ。だが、これの術者も相当なものだ。強引に奪えるほどの差はない。」

「チッ!・・・わかってるよ。」


 ヴェスタは頭をガシガシと掻き、1回深呼吸をする。


「なら、壊すしかないな。」

「その通りだ。」


 魔法の性質についてはヴェスタの方が専門家だ。一呼吸で可能な限り冷やした頭で、すぐに結論を導く。

 敵の制御下にある物体から強引に主導権を奪うのは、むしろ奇策。採用できる機会が少ない方法だ。常道は、魔法をぶつけてその制御を乱すこと。

 大雑把に表すなら、敵の魔法出力が10だとして、その制御下にある物体に込められた魔力は通常は最大10。

 この制御の主導権を強引に奪うのに必要なこちらの魔法出力は100くらい。もちろん、条件によって変動するが、それくらい差がないと成功しない。

 そのため、普通は魔法攻撃で物体に込められた魔力を削ったり乱したりする。

 所有権が異なる魔力同士は基本的に反発するので、魔力をぶつければ削れる。また、大きな魔力をぶつければ制御が乱れ、一気に敵の魔力を剥がすことも可能だ。ただし、乱すのに必要な魔力は、敵の魔法制御力に大きく依存するので、一概にどのくらいとは言えない。制御力が高い相手だと、同量の魔力をぶつけても乱れない。

 ただ、その場合でも削ることはできるので、何度も攻撃していればいずれは敵の魔力を外せる。


「だが、問題は・・・」

「うむ。敵が近くにいるかどうかだ。」


 この戦法の問題は、敵が近くにいると、魔力を再供給されてしまうことだ。仮に一発で制御を乱して、敵の魔力を追い出せても、敵が監視している場合、新たにこちらの魔力を送って制御を奪うよりも敵が再制御する方が早い。

 だから、できれば強引に主導権を奪う方法を取りたかった。


 不安そうなヴェスタをシンが励ます。


「なに、やってみればわかる。行くぞ。」

「・・・ああ!」



 そうして掘削作業が始まった。手すきの土魔法使いが集まって、シンを先頭に掘り始める。


「『ソイルショット』!」

「『ソイルジャベリン』!」


 各々、魔法攻撃を当てて溶岩に込められた敵の魔力を削っていく。しかし、なかなか削れない。正直、まともに削っているのはシンの攻撃だけだ。また、物理的にも硬く、中々掘れない。


「くそ、堅い!」

「これ作った奴は何もんだよ!」

「どけ、お前ら!」


 愚痴をこぼす兵士をどかして、ヴェスタが『ファイアボム』と『EMシールド』を詠唱済みの魔石片を溶岩に投げつける。

 着弾点から炎が広がり、一定範囲で抑え込まれ、範囲内を焼き尽くす。ヴェスタの得意魔法だ。

 しかし、炎が収まった後の光景を見て、その場の全員が驚愕する。


「と、融けてすらいないだと・・・」

「くそ、耐熱結界まで張ってあるのか!」


 皆が絶望する中、シンが歩み出る。


「よく見ろ。確かに頑丈だが、今ので一部制御が乱れた。『ディグ』」


 シンが溶岩に手をかざし、唱えると、ごっそりと大きな岩が剥がれた。


「おお!」

「いけるぞ!」

「よっしゃ!シンの旦那!アタイが削るから、旦那が掘ってくれ!」

「おう。・・・お前達も援護しろ。少しでも削ってくれ。」

「「はい!」」


 そうして少しずつ掘り始めた。マサキがいるところまでどれだけ掘ればいいかわからないが、あきらめるわけにはいかない。

 掘削作業は夜を徹して行われた。



 数時間後。日付は変わり2月4日。事後処理が落ち着いて応援が増えたあたりから、ヴェスタは休息をとっていた。

 単独飛行で山を往復した後、そのまま派手な魔法を連発して掘削していたのだ。限界だった。

 眠っていたヴェスタが光を感じて目を覚ます。


「もう朝か・・・」


 体が重いが、休んではいられない。マサキのことが気がかりだ。マサキのことだから、溶岩で死ぬことはないだろうが、食料が問題だ。

 1週間分以上の食糧を持って行ったはずだが、この掘削作業がどれだけかかるかわからない以上、急ぐ必要がある。


 ふらふらと仮設小屋を出てトンネルに向かったヴェスタが見たものは、絶望するような光景だった。

 寝る前には数十m進んでいたはずなのに、また入口まで塞がっているのだ。

 ヴェスタは疲労も忘れてシンの下に走る。


「おい!どうなんってんだ!」

「ヴェスタか・・・」


 シンも疲労の色が濃い。徹夜の作業もさることながら、この状況は流石のシンも精神に来ているのだろう。


「ついさっき、朝日が昇った頃だ。突然、溶岩が噴出してな。この有様だ。2人、巻き込まれた。・・・すまん。儂がいながら・・・」

「・・・・・・」


 ヴェスタにはシンを責められない。シンとて疲労の限界だった。それに、敵の術者がシンに匹敵する使い手である以上、土魔法では溶岩を食い止めきれなかったのだろう。

 だが、気にするな、とも言えない。これでは、いくら掘ってもまた埋められてしまう。マサキを救出できない。それはヴェスタにとって、いや、ここにいる誰にとっても許せるものではなかった。


 ・・・そうだ、許せない。許されるものか!


 ヴェスタはトマホークにまたがり、飛び立つ。突然の行動に、シンはヴェスタを引き留め損ねた。


「おい!どこへ行く!」

「術者をぶっ飛ばしに行くに決まってんだろ!」

「待て!1人では・・・」

「待ってられるか!」


 疲労も忘れてヴェスタは飛ぶ。今度は魔獣に襲われる危険も顧みず、低空で。


 ・・・ついさっき溶岩を出したなら、近くにいたはずだ!まだ遠くには行ってないはず!


 山には木が多く生えていて見通しが悪い。木々の上ギリギリを飛んでも隠れているものを見つけるのは困難だ。

 だがヴェスタは諦めない。


 ・・・研究者なめんなよ!こんなこともあろうかと、持って来てるんだ!


 ヴェスタはポーチから眼鏡を取り出す。これはヴェスタの研究成果の一つ。魔力の残滓を見るための魔道具だ。

 魔法は魔力エネルギーを100%の変換効率で他のエネルギーに変換する技術だと言われているが、それは正確ではない。実はほんのわずかに変換されずにロスする魔力がある。

 それは余程感知能力が高い者でなければ感じ取れないほど微弱なもの。だが、実際に魔獣などにはそれを感じ取り、術者を追うことができる者もいて、警察などが利用している。

 ヴェスタはそこからヒントを得て、これを開発した。

 しかしまだ試作段階で感度が低く、魔法出力が大きい者にしか扱えない。しかも、材料に希少な魔石や魔法金属を必要とするため、量産の目途も立たない代物だ。だが、だからこそ、魔力の残滓を人間が追えるなどと、誰も思っていない。きっとこの敵も。


 ヴェスタは飛行速度を緩めて、眼鏡に魔力を注ぐ。魔獣も生息するここでは非常に危険な行為だが、四の五の言っていられない。

 目を凝らし、探すこと数分。


 ・・・見つけた!炎属性と土属性が濃い魔力!間違いねえ!


 ヴェスタは見つけた魔力の線に沿って進む。同時に、妙な事に気づいた。魔力の線が、妙に濃いのである。


 ・・・なんだこれ?魔法を使った奴が通った跡なら、もっとうっすらとしか残らないはず。しかも、時間経過で薄くなっていくから、進めば濃淡の差で大雑把に距離がわかるかと思ったが、差が見られない。


 線を追いながら、思考を巡らせ、そしてその結論に至る。


 ・・・まさか、これは残滓じゃなく、遠隔操作の痕跡!?うそだろ、あの規模の溶岩魔法を遠隔でできるのか!?いやいや、魔法の仕様からして無理なはずだ!こいつは、ただ者じゃねえ!


 そこまで思い至ったところで、ヴェスタは止まる。敵の危険性を感じて恐れたわけではない。

 前方に雨が降っていたからだ。


「雨・・・<雨竜>か?」


 入る前に気づけたのは、今の思考から、ただ者ではない敵の一つとして帝国の秘匿戦力に思い至っていたからだ。<雨竜>の情報はフレアネス王国の戦線で明らかになり、密偵が持ち帰っていた。用心のために周知されていたのをヴェスタも聞いていたのだ。

 そしてもう一つ。この眼鏡越しには、雨粒一つ一つに込められた多量の水属性の魔力が見えていた。


 ・・・入ったらやばそうだな。


「『ファイアバレット』!」


 今撃てる限りの最大の火球を放ってみる。火球が通った場所だけ一瞬雨が蒸発するが、また降り注ぐ雨に視界も魔力視も塞がれる。


 ・・・だめだな。外から攻撃して術者に届かせるのは無理そうだ。


 雨に道を塞がれ、冷静になったヴェスタは自分の疲労具合を思い出す。今、飛んでいるのが奇跡というぐらいふらふらだった。


 ・・・戻るしかねえか。


 ヴェスタは渋々、山を下りた。



 ヴェスタが持ち帰った情報から、勇者救出の方法を相談していた司令部に、伝令が駆けこむ。


「伝令!帝国軍が侵攻を再開しています!東から!」

「・・・・・・」


 全員、黙る。

 驚きはしない。マサキ救出に奔走する傍ら、誰もが頭の片隅で考えていた。「トンネルを塞いだ帝国軍はその後、どうするのか?」

 侵攻を諦める?それはない。帝国が掲げているスローガンからして、戦争を勝利か敗北以外でやめることはありえない。西部戦線は、東部に注力する名目で停戦したが、こちらまで停戦したら、帝国の求心力が低下する。国内の反発は想像を絶するだろう。帝国が今の方針を維持する限り、戦争は続く。

 であれば、帝国の侵攻ルートはもう1つしかない。サンシャン山脈を東から迂回して攻めるルートだ。

 このルートは、ある理由から両国共に利用しなかった。通れないわけではない。非常に高いリスクがあるのだ。

 だが、もはや選択肢がないとなれば、使うだろう。だから、皆、この急報にも驚かない。


 全員が、司令官である将軍を見る。将軍もこの事態を予測していた。覚悟は決めている。


「総員、移動準備!サンシャン山脈を抜けられる前に迎え撃つぞ!」

「「・・・はっ!」」


 皆、躊躇はあったが、異論は唱えなかった。

 この迎撃は、論理的には正しい。山脈東端の部分を抜けられれば、帝国はまた山脈のこちら側に広く展開してしまう。そうなれば数で勝る帝国が有利。これまで数か月かけて山脈南側の帝国軍を掃討して来たのに、それが水泡に帰してしまう。

 それを防ぐには、東端で迎撃する他ない。ハイリスクではあるが。皆、そのリスクを恐れて、一瞬躊躇したのだ。

 ヴェスタが将軍に声をかける。


「なあ、マサキの救出に、アタイらは残りたいんだが。」

「・・・心苦しいが、それは許可できない。」

「なっ!?」

「<炎星>と<大山>なしでは、守り切れん。貴殿らの力が不可欠だ。」


 確かにこれまでの戦況を考えれば、ネームドなしで帝国の猛攻を防ぐのは不可能だ。

 だが、一刻も早くマサキを救出したいヴェスタは食い下がる。


「<輝壁>がいるだろ!あいつは防衛の専門家だ!あいつがいれば十分だろ!」


 確かに<輝壁>はネオ・ローマン魔法王国の国王の守護を任されるほどの実力者。能力も防衛向きだ。ヴェスタの言い分ももっともではあるが・・・


「<輝壁>殿は、既に帰還された。」

「は、はあ!?」


 ヴェスタは一瞬、わけがわからず、そして理解した途端、頭が真っ白になった。

 将軍はお構いなしに続ける。


「貴殿らが掘削に失敗した直後だ。私に「今回の作戦は失敗と判断した。私は国王に報告に戻る。」と言って、帰還なされた。」

「ふ・・・ふざけんな!あのクソ野郎!!」


 ドオン!


 ヴェスタが叩いた壁にヒビが入る。銃弾も通さないように土魔法で強化された司令部の壁に。叩いたヴェスタの手には血が滲んでいた。

 シンはただ心配そうにそれを見守る。

 頭に血が上って、今からでも<輝壁>を追いかけようか、と思ったヴェスタの耳に、小さな声が聞こえた。


「私も同感だ。」


 ヴェスタは振り返って将軍を見る。今の呟きは確かに将軍の声だった。同盟国の重役である<輝壁>への批判は、首が飛びかねない。イーストランドにとってネオ・ローマンとの同盟は今、何よりも大事。将軍1人の首よりも。

 この将軍も、<輝壁>の振る舞いは頭に来ていたのだ。しかし、立場上、見過ごすしかない。だから、今も内心の怒りを一切顔に出さず、ヴェスタを見ている。

 それを見て、ヴェスタは頭が冷えた。自分の熱しやすく冷めやすい頭に少々うんざりしながらも、怒りを溜息と共に外へ押し出す。


「はあ。わかったよ。アタイらは東に行く。でも、マサキの救出を諦めるわけじゃないんだろ?」

「もちろん。何としても救出しよう。」

「・・・信じるからな。」


 ヴェスタはそう言い捨てて会議室を出る。最後の言葉の裏には、「救出できなかったら、誰も彼もただじゃおかない」という意味が込められていた。


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