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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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109 買い物と怨霊

 クロの家。マシロが出かけた後、クロとムラサキの生活は平和そのものだった。

 朝の鍛錬はクロが一人でランニング。地金材料の入荷もクロが一人で行うが、材料の運び入れはムラサキが手伝った。

 製錬作業はクロとムラサキの2人でもどうにか可能。マシロがいない代わりに、炭素操作をクロが行う。普段より時間はかかるが、できないことはない。

 掃除についても、冬支度の間に慣れたので、手際よくできた。

 そこまで午前中で終えたら、午後は自由時間だ。採集に出かけたり、読書をしたり。のどかなものだ。


 今日も昼からクロは読書だ。今日は晴れたので、外に椅子を出して読んでいる。雪の上だろうとお構いなしだ。

 クロが小説を読んでいると、いつものごとくスイーパーが寄って来る。クロの肩にとまって本を覗き込む。興味があるようだが、理解はしていないだろう。多分。

 せっかくなのでクロは本を脇のテーブルに置いて、スイーパーを捕まえる。すでにかなり懐いているスイーパーは、抵抗もなく抱えられた。そのまま膝の上に移し、撫でてやる。大事な翼に触るのは控えて、頭や胸を撫でる。スイーパーは気持ちよさそうに目を細める。


 ・・・羽毛は短めだし、皮下脂肪も薄いから、哺乳類より体温が高く感じるな。冬には有難い温かさだ。あ、でもこれ、逆に俺の手が冷たいってことか?スイーパーからすれば体が冷えて嫌か?いや、でも嫌だったら逃げてるよな。


 そんなことを考えながら、スイーパーを撫でる。アカネやムラサキとはまた異なるモフモフ感。実に和む。

 それからは他のスイーパーも寄って来たので、交代で撫でてやりつつ、片手間で本を読んでいた。そして日が傾いてきた頃。


 ・・・あれ、この小説、これで終わり?なんとも歯切れが悪い。伏線も回収してないような・・・


 そう思って訝しんだ時、クロはこの本を借りたときのスミレの態度を思い出した。

 結構前に街に行ったとき、まとめて数冊の小説を借りた。その時に貸し出し手続きをスミレがやってくれたのだが、


「あ、これ、面白いですよぉ。おススメですぅ。うふふ~。」


 と妙に上機嫌で勧めて来た。その時は単にスミレのお気に入りなのかと思っていたが、この結末を読んだうえで考えると、別の可能性が浮かんできた。


 ・・・もしかして、これ、続きがあるのか?あいつ、知ってて言わなかったな。くそ~。


 その可能性に気がつくと、続きが気になってしまう。まだ借りてきた本は1冊読んでいないものが残っているが、それよりも先にこの本の続きを読みたい。

 クロは椅子とテーブルを片付けて家に戻ると、今日採集して来たキノコを洗っているムラサキに声をかけた。


「ムラサキ。明日の午後、街に行くつもりだが、お前も行くか?」

「おお、いいねえ。調味料も野菜も減ってきたところだ。」


 食事の頻度が低いこの家では、野菜は大抵、保存がきく物しか買わない。倉庫に残っているのはもう漬物と芋くらいしかない。

 そうして明日は男2人で買い出しに行くことになった。



 正直に言えば、マシロなしで街に行くのは大変だ。クロの家から王都まで、50km以上ある。マシロなら20分くらいで行けるが、クロ達の足ではもっとかかる。それでもクロ達も魔族であるため、常人離れした速度と持久力があるから、およそ1時間だ。

 午前中に仕事を片付け、昼休憩の後に出発。全力で走って1時間後に街に着いた。


「あー、疲れた。」

「真白がいないとやっぱり時間かかるな。」


 そんな会話をしつつ、門を避けて城壁に近づき、飛び越える。門を通れないことはないが、手続きが面倒だし、法律が適用されない魔族であるクロ達がヒトと関わると碌なことがない。

 人気がない空き地でいつも通り変装する。クロは目つき以外は目立った特徴がないので、ほぼそのまま。今日はヒトと目が合わないようにテンガロンハットを深く被る。ムラサキは獣人形態に『変化』して、キャップで暗い紫色の髪を隠す。

 そして大通りに出ようとした時だ。クロが急に立ち止まる。


「どうした?」

「・・・・・・」


 ムラサキが振り返ってクロに尋ねるが、返事がない。数秒、固まった後でクロは空き地に引き返した。慌ててムラサキが後を追う。


「どうしたんだよ!」

「すまん。予想以上でな・・・」


 気分が悪そうにクロが答える。


「何が?」

「亡霊。」

「は?」


 クロは新しい復讐魔法を使って以来、亡霊が見えるようになっていた。森で生活している間は見かけることはなかったが、いざ街に出てみると予想以上にたくさんいた。


「聞き流せない事も無いが、どいつもこいつも恨み言ばっかりだ。しかも俺に気付いて復讐させろと近づいてくる奴もいた。参るぜ、まったく。」


 クロは額を抑えつつ、頭を振る。

 ムラサキは心配そうにクロを見る。


「今も聞こえてるのか?」

「いや、人混みから離れれば大丈夫だ。どうも亡霊はヒトに取り憑いてるみたいだな。ヒトがいないところにはいない。・・・ありゃあ、もう亡霊というより怨霊だな。」


 亡霊たちは特定個人への恨みの念で存在を維持しているらしい。その恨みの対象に取り憑き、付きまとっているようだ。

 たとえ死者でも、強い意志があれば魔力が集まり、その魔力で魂が留まっているのだろう。どれもこれもヒトに取り憑いているところからして、そのヒトの魔力を糧にしているのかもしれない。


「とにかく、俺には人混みは五月蠅くて敵わん。別ルートで行く。」

「つっても、店は大抵人混みだぞ。」

「むう。」


 クロは少し悩んで、決める。


「仕方ない。買い物はムラサキだけで行ってくれ。」

「マジかよ。じゃあ、あんまりたくさんは買い込めねえな。」


 ムラサキも魔族としてそこそこ力があるが、体重が軽く小柄であるため、多くの荷物は持てない。『エアテイル』を使えばその限りではないが、こんな街中で使ったら目立つ。


「悪いな。帰りの荷物は俺が持つから。」

「しゃーない。んじゃ、行ってくる。」

「頼んだ、相棒。俺は図書館に行って来る。2時間後に外で落ち合おう。」

「おっけ。」


 そうしてクロとムラサキは二手に分かれて移動し始めた。ムラサキは普通に通りを歩いて買い物へ。クロはヒトが少ない裏路地や屋根伝いに移動しつつ図書館へ向かった。



「ふっふっふ~、やっぱり借りに来ましたねぇ。」


 図書館に向かったクロを待っていたのはドヤ顔のスミレだった。しかしクロはそれを鬱陶しいと思うよりも別のことに頭が行っていた。


 ・・・こいつには意外にも怨霊憑いてないんだな。


 違法なことにも手を染め、物騒な発言が多いスミレだが、怨霊は1人も見当たらない。

 実は恨まれるようなことはしていないのか、それとも恨まれないようにこっそりやっているのか、はたまた被害者の精神を闇魔法で弄っているのか・・・尋ねれば教えてくれそうだが、それで逆に怨霊や亡霊が見えることについて問いただされるのは困る。

 その件は考えないことにして、クロは普通に受け答えをする。


「やっぱり続きあったんだな。確信犯め。」

「ブブー。正しくは故意犯ですぅ。」


 そんなやり取りをしながら、クロは読み終えた本を取り出し、スミレはそれを受け取って帳簿に記載する。


「で、続きはどれだよ。」

「はいはいぃ、案内しますよぉ。」


 そう言ってスミレはカウンターから出て図書館の奥へ進む。クロはそれについて行く。

 目の前を歩くスミレは、尾をゆらゆらと揺らしつつ、頭部の猫耳をぴくぴく動いている。後ろ姿からも楽しげに見える。


 ・・・こいつは2度目の人生楽しんでるよなあ。ちょっと羨ましい・・・でもないか。人生楽しむなんて、柄にもない。


 クロは、転生するときこそ「今度の人生は楽しく」と願った。そして、人間をやめて、人外たちを仲間にして、結構好きにやっている。

 それで幸福だとは思っているが、何もかも楽しいかというとそうでもない。現にたった今、亡霊に苦しめられている。

 しかし、それでいいとも感じているのだ。クロに付きまとう罪の意識が、罰を求めている。自分は苦しまなければならない、と。

 人を殺している罪悪感からではない。前世のクロが愛する獣たちを殺して食べていたこと、そしてその罪を償うことなく死んだこと。それによる罪の意識だ。

 そんなものをどうやって償うべきなのかなど、わかりはしない。それでも償わずにはいられないのだ。クロはそれほど人外を愛していたし、今も愛している。

 だからクロは自分の人生を、人外たちのために使いたいと思っている。いくらかは自分も楽しむが、それ以上にマシロやムラサキ、アカネのために使いたい。それがクロが捨て身で戦う理由だった。愛するものを守り、かつ自分に罰を与えるために。


 そんな思考に耽っている間に、小説のコーナーに着く。


「はい、これですよぉ。」

「これのさらに後に続きがあるとかないよな?」

「ばれましたかぁ。はい、これも。」

「まったく、油断も隙も無い。」


 クロがスミレを睨むが、スミレは気にした様子もない。


「さてさてぇ、他には何か借りますぅ?」

「そうだな・・・冒険家が書いた伝記とか。」

「アイビス山脈に関する奴ですかぁ?」

「いや、それに限らなくていい。・・・場所さえ教えてくれたら、後は自分で選ぶよ。」

「はいは~い。」


 そしてスミレはクロをノンフィクションのコーナーに案内した後は、カウンターに戻って行った。

 クロはざっと全体を見て、タイトルから適当に選ぶ。狙ったのは、ヒトが住んでいた史跡を巡ったもの。亡霊に関する情報がないかと思ったのだ。


 ・・・今までの魔法研究では霊の存在自体、否定的だった。ってことは、学術誌では見つけにくいだろう。だとすれば、こういう信憑性が怪しい、冒険家の体験談の中に何かあるかもしれん。冒険家個人の体験談では与太話扱いされて無視されていた可能性もあるだろう。その中に事実があるかもしれん。


 マシロはもう亡霊の声に耳を貸すなと言っていたが、これはクロにとって重要な切り札だ。十分に研究しておく必要がある。実験は危険すぎてできないから、まずは文献調査だ。


 そうして本を新たに数冊借り、城壁の外で適当に時間を潰す。基本的には借りた本を読んでいた。クロとしては、ヒトが通りかかる可能性がある街中より外の方が余程安心できる。

 しばらくするとムラサキが戻って来た。すでに猫形態になり、荷物袋を『エアテイル』で持っている。


「待たせたな。ほれ。」

「おう。」


 そうして言葉少なく荷物を受け取り、走り出す。帰りは荷物を傷つけないようにゆっくり走ったので、2時間ほどかかった。

 日が暮れ始めた頃に家に着くと、スイーパー達が寄って来た。


「なんだ?どうした?」

「カア!カア!」


 何かを伝えたそうにしているが、クロにはいまいちわからない。何かあったのだろうが、家を見る限り異常はない。


「真白ならわかるんだろうが・・・」


 マシロは感情を読み取ってスイーパーの思考をある程度読むことができる。クロも目を合わせれば感情を読み取れるが、そこから具体的な思考を推察するには精度不足だ。

 その日はとりあえず警戒を強めて過ごすことにした。しかし結局何も起きることはなく、スイーパー達の懸念が何なのか、明らかにはならなかった。


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