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選べるなら、人間以外で  作者: 黒烏
第3章 黄色の鳶
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A3 とある平凡な異世界人の孤独な日記③

 目を閉じて、自身の体内に意識を向ける。前世では認識し得なかった、熱のようなものが、血液のように体を流れているのを感じる。

 これは私の体を流れる物だから、私の物。私のなんだから、動かせて当然。そう思い込む。

 血液は意識して動かせないとか、レントゲンもなしに体内なんて見えない、という前世の常識は一旦忘れて、体内の魔力の実在を信じる。手足のように動かせると信じ込む。

 すると魔力は素直に答えてくれる。はっきりとイメージすれば、その通りに。手に集め、足に集め、指先に集めてみる。

 自由に体内を動かせるようになったら、外に出してみる。目を開いて、目の前の空間に集中。指を伸ばして、そこから魔力が出ていくイメージを作ればその通りに。そして目の前の一点に集まるようにイメージすればその通りに、魔力が動く。

 そして十分集まったら、それが起きる光景をイメージしつつ、詠唱。


「『ライト』」


 ・・・光らない。あ、順番間違えた。

 今度は詠唱してから、魔力を動かす。


「『ライト』!」


 詠唱して、再度魔力を送り出すイメージ。

 あれ、今一瞬消えなかった?

 送り出した魔力が一瞬感じられなくなった。しかしすぐに現れて、安心する。そして指定の点に集まり、イメージした量溜まったところで、発光開始。


「おお~。」


 何度見ても感動する。私は今、魔法を使えている!

 私は昨日、神官さんの好意で教会に泊めてもらった。文無しの私にちゃんとベッド付きの部屋を貸してくれるとか、マジいい人。

 今は早めに起きたので、昨日習った魔法を早速試していた。昨日、魔法を習得したことがあまりにも夢のようだったので、朝起きたら使えなくなってました、とかないだろうかと不安になったのだ。

 しかしそんなことはなく、昨日と同じ、いや、慣れて来たのか昨日よりスムーズに使えている。

 試しに送る魔力量をイメージで調節してみる。予想通り魔力量に比例して『ライト』の明るさが変わった。


「これは、あれよね。魔力を光エネルギーに変換してるってことよね。」


 これなら懐中電灯どころか、室内照明すら不要なのではないだろうか。

 その時私はそう思ったが、後にずっと光らせ続けるのは地味に疲れることがわかった。



 神官さんにお礼を言って、教会を後にする。

 そして教わった職業斡旋所に行ってみた。ここも一繋ぎの石材の建物だ。屋根と壁で違う色で塗装されているし、窓枠とか扉は木製だから、無骨な感じはしない。


「おはようございます。」


 初めての場所にちょっとビビりながら、私は建物に入る。


「おはよう。」


 カウンターのような長い机に人がいた。ぶっきらぼうに挨拶を返してくる。

 思ったより前世の役所に似た雰囲気で、ちょっと落ち着きつつ、尋ねてみる。


「あの、私、異世界人で、来たばかりなんです。仕事、ありますか?」

「へえ、異世界人か。」


 職員の人の表情がちょっと明るくなった。昨日兵士さんが言っていた、異世界人は厚遇される、というのは嘘ではないらしい。


「魔法の登録は?」

「昨日、教会でやりました。生活魔法だけですけど。お金ないんで。」

「そうかい。まあ、金がないのは当たり前。働かなければお金は得られないよ。」


 ごもっとも。私は頷いて応える。


「さて、どんな仕事がいいか、希望はあるかい?」

「いえ、特に・・・あっ、でも荒っぽいのはちょっと・・・」


 よく異世界ものの小説では、主人公が神様からもらったチートで戦って大活躍、とかやるけど、私がもらったのは戦闘向きじゃないし、そもそも私は荒事が苦手だ。喧嘩もしたことがない。いや、口喧嘩くらいはあるけど。


「はは、まあ、女の子だし、それが普通か。」


 ・・・女の子って歳でもないけどね。アラサーだし。

 そういえば、町行く人は割と背が高めだった気もする。顔立ちは欧米人系、アジア系、入り乱れてたけど。そのなかでは私は背が低い方のようだ。これでも160cmはあるから、日本人の中では低くもないんだけど。


「じゃあ、魔法の適性から適当に見繕うか。適性は?」

「全部です。」

「へっ?」


 職員が驚いた声を上げる。ちょっと面白い。

 思えば、何をやっても平凡な私は、他人を驚かせるなんてしたことなかったなあ。

 私が感慨に耽っている間に、職員さんが気を取り直す。


「えーと、全部ってのは、8属性全部かい?」

「はい。まあ、どれもあんまり高くないそうですけど。」

「いや、それでも珍しいよ。へえ。」


 ちょっと得意になる私。きっとドヤ顔をしているに違いない。

 だが、次の瞬間、そのドヤ顔も吹っ飛んだはずだ。


「でも、そうすると、どの仕事にすればいいか見当もつかないなあ。」

「え?」

「どれでもできるから、どれをお薦めすればいいか・・・すまん、わからん。」

「ええ~・・・」


 まいった。そう言われては、この世界の知識がほとんどない私にはどうしようもない。

 前世で固定の職にでも就いていれば、その知識が活かせる仕事を選ぶんだろうけど、職を転々とした私の知識は、広く浅く。どれ一つ自信を持ってできない。

 悩みに悩んだ私は、こんな提案をした。


「あの、固有魔法を活かせる仕事、なら選択肢が絞れますか?」


 今の私のアイデンティティは、もうこれしか残っていない。あまり人に教えるものではないのだろうけど、仕事がないと生きていけない。


「・・・どんな魔法だい?」

「収納魔法です。『ガレージ』っていう。」


 そういえば、まだ試してなかったと思いつつ、固有魔法を教える。詳細の説明が必要だろう、と話を続けようとしたが、職員さんに遮られてしまった。


「おお、『ガレージ』か!いいなあ。便利だよな、それ。」

「え?知ってるんですか?」

「割と有名だよ。異世界人の中に時々『ガレージ』持ちがいて、いろんな分野で重宝されてるんだ。それなら・・・」


 職員さんが意気揚々と仕事の一覧らしき冊子をめくり始めるが、今度は私が遮る。


「ちょ、ちょっと待ってください!『ガレージ』って、持ってる人、そんなに多いんですか?」

「俺は会ったことないけど、割といるらしいよ?今もこの世界に数人いるって聞いてる。光適性があれば使えるらしいね。」

「・・・・・・」


 ショックだ。レアな全属性適性を活かそうと思ったが、全然活かせていなかったっぽい。

 打ちひしがれる私に気付かず、職員さんは冊子をめくる。そしていくつか見繕ってくれた。


「戦闘ができるなら、軍に即採用なんだけど、それは嫌なんだよね。」

「はい。」

「だとすると、シンプルなのは運送業かな。他には、街を行き来する商人。商品の運搬が楽になるからね。」

「なるほど。」

「あとは・・・」


 そんな感じでいくつか紹介され、悩んだ末に私は運送業を選んだ。

 初めは運送業は体力仕事というイメージがあって敬遠したけど、考えてみれば『ガレージ』を使うんだから力はいらない。移動が多いけど、山歩きが好きな私は結構健脚だ。問題ないだろう。



 斡旋所のおじさん、じゃなくてお兄さんからお金を借りて昼食を取った後、早速教えてもらった運送屋を訪ねた。


「ごめんくださーい。」

「やあ、いらっしゃい。君がアカリさんか。話は聞いているよ。」


 午前中の内に斡旋所から連絡が来ていたのだろう。すぐに対応してくれた。

 対応してくれたのは40歳後半の体つきがいい茶髪の男性。顔立ちは欧米風。


「私がこの運送会社DCAサイクルの社長、フレッドだ。ようこそ。」

「よろしくお願いします。・・・サイクルって、自転車とか使うんですか?」

「使うこともあるけど、基本は徒歩だね。長距離では馬車も使うが。」

「え?でもサイクルって・・・」

「ああ、社名は先代の創始者が付けたんだ。別に自転車を指してるわけじゃないらしい。なんでも異世界において仕事がうまくいく魔法の言葉だとか。残念ながら、意味は伝わってないけどね。」

「へえ~。」


 そんな会話をしていると、お茶を持ったおばさんが事務室に入って来た。


「紹介しよう。事務員のメアリだ。ちなみに私の妻。」

「よろしくね。アカリさん。」

「はい。よろしくお願いします。」

「いやあ、うちは今まで彼女が職場の紅一点でね。君が来てくれて、社員も喜ぶだろう。」

「はあ・・・」


 男社会かあ。大丈夫かな・・・なんて思っていると、メアリさんが表情を厳しくした。


「なに?アタシじゃ不服だって?」

「いや!そういうわけじゃない!あ、そうだ!メアリ、彼女の服の寸法を見てくれ!作業着を用意しなきゃ!」


 焦って話を逸らす社長。どうやら恐妻家らしい。


「そうだね。じゃ、アカリさん。こっちへ。更衣室に行きましょう。」

「あ、はい。」


 退室する直前、ホッとしている社長が見えた。


 シャツとズボンを脱いで、寸法を測ってもらう。

 そういえば、風呂にも入ってないし、着替えもない。昨夜は我慢したけど、2日連続着替えなしはきついかも。

 そう思っていると、さっさと寸法を測り終えたメアリさんが思いついたように言う。


「そうだ。異世界人なんだって?来たばかりの。だとすると、お金も服もないのかしら。」

「はい・・・」


 借りたお金は最低限で、本当に食事代だけだった。もう残っていない。

 私がしょんぼり答えると、メアリさんはにっと笑う。


「じゃあ、お金貸してあげよう。ついでに泊まるとこないなら、ウチに来る?」

「えっ、いいんですか!?」

「いいよ。ウチの息子たちはとっくに一人立ちして、家の中、寂しかったのよ。」

「お、お願いします!」


 全力で頭を下げてお願いした。メアリさんは「頭下げなくてもいいよ」と笑いながら承諾してくれた。


 事務室に戻ると、社員と思しき男性たちがいた。配達から戻って来たらしい。みんな体つきが良く、頭に鉢巻や手拭いを巻いている人が多い。かなり汗をかく重労働だとわかる。

 お茶を飲んで休憩中らしい彼らに、メアリさんが声をかける。


「おや、インさんの家の引っ越し、終わったのかい?」

「ああ、メアリさん。さっきね。・・・その子、誰?」


 休憩していた男たちの視線が私に集まる。屈強な男たちに注目されてちょっと恐いけど、前世の面接を思い出せば、それほどでもない。


「今日からこちらでお世話になる見暗あかりと申します!よろしくお願いします!」

「へ~、女の子が来るのは珍しいなあ。いくつ?」


 きっと若いと思って聞いたのだろうが、残念ながら、アラサーです。

 正直に答えようとしたら、メアリさんの一喝が飛んだ。


「こら!女性に歳を聞くとは礼儀がなってないね!そんなだからその歳まで独身なんだよ!」

「そ、それを言わないでくれよ・・・」


 言われた作業員が落ち込み、他の作業員が笑う。いや、半数が苦笑いだ。人のことを笑っていられない人たちだろう。


「ところで、事務員追加とは、そんなに事務忙しいのかい?チュンさんもいるのに。」


 どうやらメアリさんの他にチュンさんという事務員もいるようだ。今日は休みだろうか。


「いや、この子は作業員だよ。」

「「「え?」」」


 まあ、驚くよね。私だってこんなマッチョな男たちに囲まれて仕事するのは凄い不安だよ。いろんな意味で。

 私が仕事への不安を募らせている間に、メアリさんが私のことを詳しく話した。そして男たちの反応は、


「「「すげえ~!」」」

「異世界人!?」

「しかも『ガレージ』持ち!?」

「運送業じゃ伝説の存在だぜ・・・!」

「いや、その、それほどでも・・・」


 凄いなんて人から言われたの、初めてじゃなかろうか。嬉しさのあまり、返答がぐだぐだになった。


「ともあれ、今夜は歓迎会だな!いる奴だけになっちゃうけど。」

「チュンさん、呼ぶ?」

「声はかけた方がいいだろ。」


 盛り上がる男たちを余所に、メアリさんが私にお金を貸してくれた。


「この様子だと、定時過ぎたら即宴会だね。仕事が終わってから服屋に案内しようかと思ってたけど、無理そうだ。今のうちに買って来るといいよ。」


 確かに、今日着替える服は今日買わないとまた明日も同じ服だ。メアリさんの好意に感謝する。


「ありがとうございます。」

「服屋の場所は、ここを出て左に行って・・・」


 そうして午後は、服を買って戻った後、簡単な事務作業を手伝って定時になった。

 メアリさんの予想通り、作業員達はすぐに私を連れて居酒屋に直行。社長とメアリさん、そして今日休みだったチュンさんもやって来て、歓迎会が行われた。

 なお、チュンさんは眼鏡が似合う几帳面な男性だった。歳は30代後半かな?

 ちなみに私はお酒は飲めるけれど、この日は少量に留めた。前世で深酒して失敗した経験があるからだ。

 そうして私の異世界2日目は騒々しくも楽しく過ぎて行った。


「魔法の言葉」は正しくはPDCAサイクルです。

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