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怪盗黒薔薇  作者: 杠葉 湖
第6話 三笠家勉強会
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第6話 三笠家勉強会-4

 そんなドタバタしたやりとりが続いた十数分後。

 三人は通の部屋で、テーブルを囲んで座っていた。

「……あのなぁ。勉強を見て欲しいのは沙絢だろ?なんで僕の部屋でする必要があるんだ?」

「えー?だってお兄ちゃんも成績よくないじゃん?百合ちゃんに勉強見てもらえば、きっとよくなるよ」

「お前の成績がよくないからって、四阿さんを巻き込むことはないだろ!?ごめんね四阿さん。せっかくの休日なのに、妹が無理なお願いしちゃって」

「い、いいえ。私は別に構いませんが……」

 百合はもじもじした様子で、通を見る。

「それじゃあ、始めましょうか!」

 そんな百合の様子を見てニヤリと笑った沙絢は、おもむろにノートを広げた。

「それじゃあ百合ちゃん、早速数学教えて。ここの問題なんだけど……」

「あ、はい。これはですね。この公式を当てはめて……」

「うんうん」

 百合は沙絢に勉強を教え始める。

 通は二人のほほえましい光景にホッと胸をなで下ろすと、自らも参考書とノートを開いた。

 しばらくの間、百合の声と、ノートに書き込むシャープペンの音が響き渡る。

 程なくして、部屋のドアがコンコンとノックされた。

「はーい。どうぞー」

 沙絢が待ってましたとばかりに顔を上げて返事をする。

 返事を待ってから、部屋のドアがガチャリと音を立てて開いた。

 そして、ドアの向こうから、お茶菓子とジュースをのせたお盆を持った、少しカールのかかった長い黒髪の女性が現れた。

「あらあら。すみませんね。うちの息子のために勉強見ていただいているなんて」

 その女性はニコニコしながら百合に話しかける。

「紹介します。うちの母です」

 沙絢が百合にそう告げた。

「はは、初めまして!」

 百合は立ち上がって、深々と頭を下げる。

「と、通君のクラスメイトの、四阿百合と申します」

「初めまして。通と沙絢の母です」

 母親も軽くお辞儀をする。

「百合ちゃんはお兄ちゃんと付き合ってるんだよ」

 そこへ沙絢がとんでもないことを口走った。

「え、ええええっ!?」

 百合は驚きの声を上げながら、沙絢を見た。

 沙絢はニコニコしながら百合を見ている。

「ちちち、違うよ母さん!僕と四阿さんは、ただの友達で!」

 ワンテンポ遅れて、通は立ち上がって必死に弁解する。

(ただの友達……)

 その言葉に、百合は少し悲しみを覚える。

「あらあら。それじゃあ邪魔しちゃ悪いから、ごゆっくり」

 母親はにこやかな表情でお盆を机の上に置くと、そそくさと部屋から出て行き、ドアを閉めた。

 百合と通は座り、沙絢を見る。

 三人の間に、しばし沈黙が流れる。

「沙絢、どういうつもりだよ?」

 最初に口を開いたのは、通であった。

「お前、いきなり四阿さんを呼んだり、母さんにあんなこと言ったり。理由によっちゃ、僕だって怒るぞ?」

「うーん……」

 しかし沙絢は人差し指を口元に当てると、宙を見つめた。

「聞いてるのか沙絢?どうして四阿さんを困らせるんだって聞いてるんだ」

「そう、それ」

 沙絢はすかさず通を指さす。

「お兄ちゃん、百合ちゃんとは友達なんだよね?」

「あ、ああ」

「親友、なんだよね?」

「えっ?」

 一瞬通は言葉に詰まる。そして横目で百合をちらりと見やって

「ああ」

 と答えた。

(親友じゃないの……?)

 そのわずかな迷いの態度に、百合は不安を募らせる。

 しかし、次の沙絢の言葉を聞いて、そんな不安は吹き飛んだ。

「じゃあどうして、名前で呼ばないの?」

「えっ!?」

「えっ!?」

 百合と通は同時に声を上げる。

「私と百合ちゃんは『百合ちゃん』『沙絢ちゃん』って呼び合ってるのに、どうしてお兄ちゃんは『四阿さん』なの?百合ちゃんだってお兄ちゃんのこと『通君』って呼んでるのに。ひょっとしてお兄ちゃんは百合ちゃんのこと、親友だって思ってないの?」

「そ、そんなことないぞ!僕は四阿さんのこと友達だって……」

「じゃあどうして名前で呼ばないの?」

「うっ……」

「ねぇ?どうして?」

「そ、それは……」

 通は言葉に詰まる。

 そして瞳を輝かせながらじっと見つめる沙絢に、観念したように言葉を発した。

「……わかったよ。名前で呼べばいいんだろ?」

「そうそう。早く呼んでよ」

 通は百合を見る。

「そ、その……百合、さん……」

「は、はい」

 百合はドキンと心臓を高鳴らせて、返事をする。

「駄目だよお兄ちゃん。男なんだから、呼び捨てにしないと」

 しかし沙絢からすかさずだめ出しが入った。

「わ、わかったよ。そ、その……ごめんね、百合。妹がいろいろと迷惑かけちゃって」

「い、いいえ。私、迷惑だなんて思ってませんから……」

 百合は顔を赤らめて、通から視線を外す。

「それじゃあ、勉強の続きをしましょうか!」

 沙絢は満足そうに頷くと、再びペンを手にとって参考書をさした。

「百合ちゃん、ここの問題なんだけど」

「は、はい。ここの問題はですね……」

 百合は沙絢にわかりやすく解説を行う。しかし心は別世界へと飛んでいた。

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