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宇宙の新星人たち【本編(3)】  作者: イプシロン
第4章 最後の戦い――女神の復讐
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第77話 窮鼠、猫を噛む――地球軍の反抗

 聖戦団のゲリラ攻勢はつづいていた。怒涛のように突進してきたかとおもうと、潮がひくように後退してゆく。地球軍の隊形や戦術が乱れない限り、無理な突進ひとつすることがなかったのだ。

 地球軍は捕まえようとすれば手の中からするりと逃げてゆくウナギと格闘するような苛々がつのり、いよいよ士気を下げていった。

「ここはどうあっても、一戦交えて勝ち戦をすべきときだな」

「適任は彼しかいないでしょう。もちろん、万全の援護と核への警戒は必要ですがね」

 ムーシコフとミマースは大筋で意見の一致を見ると、坦々と攻勢の準備を整えていった。各艦隊は一見すればヤルキなどどこにも見いだせない、開いてだらけた陣形をとってツァオベラーの攻勢を待ちかまえていた。

 ――そろそろヘルメスが帰ってくるな。であれば、少々の損害よりも、いまは戦果であろう。

「副官、通信せよ。サウラー卿にだ。まともな攻勢をかけて、奴らを弄んでやれ、とな」

「御意のままに」

 ヒドラの指示を受けたサウラーは、すでに戦闘には勝利したという居丈高な体で戦団を前進させてきた。オルキーにしてもヒドラにしても油断があったことは確かだった。

「セキ少将、これまでの鬱憤をはらしてこい! 前進だ!」

「承りました、司令!」

 このときのセキの眼光は猛禽であり猛獣であり、腹を空かした獅子だったのだ。第五艦隊の各艦は姿勢制御ノズルを使ってブレーキをかけながらメインエンジンを吹かすと、激流となってサウラーの「マフムード」団に襲いかかっていった。サウラーはこの速攻に翻弄され、兜を共鳴させて指示命令を大声で次々と下さざるをえなくなった。

「リアレス、ストレス発散の機会よ。どれだけ孕ませられるか勝負よ!」

「あんたなんかには負けないわ。あたしは親父の血が濃いんだからね!」

 女同士の会話なのかと耳を疑うような通信が終わるころ、ハンニバル中隊もまたニトロの高速を駆使してサウラー戦団の両側から襲い掛かった。小規模な戦力とはいえたが、ハンニバル隊の空腹感も凄まじかった。肉薄しては憤怒や憤懣や激怒や弔いや忸怩のビームを感情が爆発したかのように叩きつけたのだ。サウラーはこのとき鬱積されたエネルギーの放出がどれほど恐ろしいものかということを嫌というほど味わったのだ。

 ヒドラもオルキーもすぐに救援に赴こうとしたが、ヒドラは「二枚腰」のトレチャコフにはばまれ、オルキーはミマースにはばまれていた。地球軍は聖戦団の戦法を盗んで、つかず離れずの位置を確保して嫌がらせを満喫していた。

「やられたら、やりかえす。相手の戦法を盗む。これぞ戦場の基本だ。あまりいい気分ではないがな」

「士気を高揚させるには、こうしたやりかたが有効なのだよ。少々陰湿なやり方な気もするがね」

 ムーシコフもミマースも顔いっぱいに不敵な笑みを浮かべ、妖しい光を瞳に宿らせていた。

 彼らの副官たちは――間違ってもこの人を敵にまわしたくない――と、背筋に寒気を感じて上官を眺めやっていた。ミマースの副官になっていたウルカヌスはまた違う感情を抱いたのだが、これはどちらかといえば、上官よりだった。

 ――誰がセキをあそこまでシゴいたと思っていらっしゃるのやら……こっちの苦労も知らずに、いい気なもんですな、提督は――と。

 どちらにしても、このとき地球軍司令たちの誰もが会心の表情、勝ち誇った顔をしてみせたことだけは確かだったのだ。

「次の一手が上手くいけば、あの戦団は壊滅確実だな」

 その一手は意外な戦力によって撃ち込まれたのだった。「マフムード」団の下方に深くに潜伏していた潜宙艦戦隊が絶好のタイミングで長射程魚雷を放ったのだ。本数こそ少なかったが、潜宙戦隊は艦首の魚雷を発射しおわると、百八十度回頭して艦尾の魚雷を放ち、また回頭してという戦術を繰り返したのだ。時間差をもって迫る一二〇本あまりの長槍が突きだされるたびにサウラーの「マフムード」団は混乱していった。

「こいつは八〇一戦隊へのはなむけだ、よく味わえー!」

「八一三戦隊に哀悼を意を表しつつ、魚雷発射トーピード・ロスト!」

 潜宙戦隊はかくして戦友の仇を思う存分に討ったのだ。汚名を挽回してみせたのだ。

 地球軍の攻勢はこれで終わらなかった。マックール旗下の第七艦隊が「マフムード」団の上方から襲いかかったのだ。

「俺たちの親分登場ってわけかい。やっちまえー!」

 潜宙戦隊の士気は鉄をも溶かす勢いで燃えさかった。

「あたしらの親父さんが来たよ。娘の獲物を奪おうなんていい度胸じゃない、そうはいかないのさ!」

 戦闘機隊と第七艦隊を結ぶ絆もまた勢いをまし、巨岩を貫く勢いでハンニバル隊の肉薄と銃撃も苛烈になる一方だった。

「もはやこれまでか……」

 サウラーの旗艦は傷つき、到るところが破壊され、作動していないシステムも多数あった。艦橋は防御壁や緩衝剤が焼けて立ちのぼった白煙におおわれ、血の匂いに満たされていた。

「グリ、あいつは旗艦じゃないかい? あの鎧を着た悪魔のマークの船だ」

「らしいわね。ならば、逃がしはしないわ、いくわよリアレス!」

 二機のハンニバルは翼を並べて突進した。ニトロの火炎と同時にビームの光条が幾筋もほとばしり艦橋に突き刺さるのが見えた。

「緊急回避!」

「イー・ヤー!」

 肺が押しつぶされて声さえ出ないような苦痛に耐えながら、二機のハンニバルはツォアベラー艦の甲板を擦るように駆け抜けていった。

 刹那、巨艦がまっぷたつに折れて大爆発を起した。

「いやっほー!」

「親父、仇を討てた気がするよ……」

 リアレスの頬をつたったひと筋の涙に送られて、サウラーは旗艦とともに宇宙の塵となった。

 旗艦を失った「マフムード」団は完全に統制を失い、地球軍が形作った包囲環に封じ込められて壊滅した。わずか一時間の戦闘だった。

「まだやれるじゃないか、我が軍は」

「あちらが物騒な新兵器を戦場に持ち込まなければ……ですがね」

 戦闘後、ミマースとウルカヌスの交わしたことが、現実化する日は近づいていた。

 その日、ヒドラはヘルメスから、戦場到着まであとわずかという通信を受け取っていたのだから……。

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