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森野春子は最近職場まで徒歩で通える距離に住所を移した。
そして先程自宅に着いた春子は持ち帰ったキャリーケースに違和感をもった。
「ママー。ハロウィンよ!」
「み、みきちゃん!こっち、こっちに行きましょ」
通行人も交通車両もそこそこ行き交う一般道で春子の奇抜な格好は目立った。
だから子供がそんな風に思っても不思議ではないがそれが3月だと大人は距離をとる。
(まったく沖野のヤツめ。人のキャリーケースにアレやコレや詰め込みおって)
春子は内心キレ散らかしながら来た道を戻る。
沖野とは、当時中学生だった奴の家に大学生だった私が家庭教師として訪問するようになってからの付き合いだからかれこれ20年になるが、こんな巧妙さを持ち合わせていたとは...。
だが残念だったな沖野。
春子は一旦足を止めキャリーケースに目を向ける。
実はコレ先程自宅で新たに詰め直し
重量増し増しにバージョンアップしたのだ。
いつ来るかわからん客など知ったことか!ソファーもテーブルも全部処分じゃ!!
「はーはっはっはっはっは。フンッ!」
決意新たに突然高笑いをあげ鼻息を荒くした春子に周囲は一層距離をとった。
お。アレは...。
今一番会いたかった人物が信号待ちしている姿を捉えて春子の口角が自然と上がる。
「沖野翔太ァ!!」
瞬間沖野の肩が〝ビクッ〟と跳ねる。それを見た春子は更に急ぎ足で向かうと追い付く手前で信号が青に変わるや否や沖野は振り返りもせず駆け出した。
「チッ!」
しかしその直後春子はヒュッと息をのむ。
「沖ッ!!!止まれーーーーー!」
瞬間、景色がダブり強い耳鳴りと脳震盪のような感覚に襲われた春子は耳を押さえて顔を顰める。
「な、何が..起きてる....」
目の前の光景に言葉少なに呟いた春子は着けている面をゆっくり外し周囲を窺う。
....ない
今そこにあった
街の『音』が『匂い』が
全てがない
感じられない
そして何より異様なのが
鳥も人も車も風も全てが止まっているというこの状況だった。
「私だけを除いて___ 」
だが呆けていたのも束の間春子は視界に入ったそれに気付くと慌てて駆け寄る。
走る格好のまま止まった沖野はすぐ側まで迫った大型トラックを見上げている。
春子はそんな沖野の腰に手を回し引っ張った。
ぐぐぐぅぅぅ!?
(ああ!?)
ふんがぁぁぁぁ!
(栄養が、全部身長に、いった奴だと、思っていたがっ)
ぬぎぃぃぃぃぃぃぃ!
(こんな重さはーーー、異常じゃねーのぉぉぉ!!)
「はぁ??ちょ、どうなってンの??(なんだウンコでも溜まってんのかコイツは)」
何故かそこにいる沖野が動かせない。
そして今自分以外手を貸してくれる人もいない。
「あぁ〜もう!!」
・
・
・
・
・
ハァ。ハァ。ハァ。
「なん、で...」
殴って蹴って引っ張ってを繰り返したが最初と何一つ状況に変化がない。
沖野の体は傷1つ負うことなくそこにある。
春子は滴る汗を拭い上がった息を整える。
「次は__(!!!!)」
するとここで再び景色がダブり先程と同じ感覚にあった春子は一度深く息を吸うとハンマー投げの要領でキャリーケースを大きく回し沖野をめいっぱいぶん殴った。
ー 全てが同時だった ー
街に『音』と『匂い』がもどり、殴られた沖野が前方に飛ぶ。
それに安堵したのも束の間今まで沖野がいた位置に立った春子の体に強い衝撃が加わり鈍い音を立てた。
「先生ーーーーッ!!」
目を開けることはどうやらできないらしい
遠ざかる意識のなか
沖君の声が
聞こえた気がした。




