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シリーズ:短編作品集(2万字以下)

四大属性の四天王から「お願いします!」と手を差し出されています。やめて。

作者: 初美陽一
掲載日:2026/10/15

 私はイザベラ。どうやら私は、異世界召喚されてしまったらしい。

 それだけでも充分に驚きだけれど、どうも最悪なことに、私を召喚したのは世界を滅ぼそうと目論《もくろ》んでいる〝魔族〟という種族なのだという。


 ……いや、本当に最悪なのは、私が今まさに受けている仕打ちだろう。

 私は今、召喚された直後の魔法陣の上で、魔族の中でも最強格の恐るべき存在だという〝四天王〟から――


「「「「お願いします!」」」」


 ――手を差し出されている。

 四天王は〝魔族〟とかいう人ならざる存在の割に、見た目は随分とイケメンだ。しかもそれぞれ個性的で、バラエティ豊か。ここだけ見れば、まるで乙女の夢みたいな光景と思われるかもしれない。


 けれどそれは、ただの夢だ。

 残念ながら、これはそんな、羨ましい状況ではない。

 最(・)悪(・)なのだ。

 だって彼らが、私に手を差し出している理由は……


「俺と!」<火>

「私と……」<水>

「自分と」<土>

「フッ……余と」<風>


「「「「一緒に世界を滅ぼしましょう!!」」」」<四天王>


 ……と、いうことらしい。

 もちろん私は最初に、はっきりと言ってやった。「嫌です!」と。当然だ。見も知らない異世界とはいえ、別に恨みがあるでもなし。世界なんて積極的に滅ぼしたいと思うほど、人間腐っちゃいないつもりだ。


 でも四天王どもは、こんちくしょうどもは、まるで話を聞いてくれない。

 出来の悪いブリキ細工のおもちゃみてぇに手を差し出してきては、同じようなことを言ってくる。しかも私を取り囲んでいる状態だ。せめて横に並べ、横に。大の男どもに四方を囲まれて手を差し出されるの、結構プレッシャーなんだぞ。


 さて、私の返事が芳しくないことで、連中は何やら争い始めていた。

「俺の女に手を(差し)出すな」とか、

「彼女は私のものですが?」とか、

「自分が一番、彼女に相応しい」とか、

「フッ、勘違いも甚だしいな」とか、

 傍から聞いてる分には、見目麗しく個性的なイケメンたちから、取り合われているように見えなくもない。けど実態は〝世界を滅ぼすため〟だ。だからなおさらガッカリだ。四天王《おまえら》にはガッカリだよ本当に。


 さて、どうやらこの連中は〝召喚の制約〟だとかで、私に力尽くで言うことを聞かせるような真似はできないらしい。ほっ、そこは一安心。

 しかも仲が悪いのか、四天王同士で協力し合うつもりもないようだ。手柄を独り占めしたいのだろうか。愚か、ふふっ、愚かで浅ましい、滑稽ですこと。


 まあ何はともあれ、そんな状況だから、このスカポンタン残念四天王どもは、何やら方針を定めたらしい。


 つまり一人一人、私にアピールしようというのだ。

 見ようによっては口説き落としだ。

 でも実態は、採用面接だ。面接官は私、受験者は四天王《こいつら》。色気の欠片もねぇ。だからこいつらにはガッカリだ。無駄に面《ツラ》は良いのがなおさら腹立つ。


 何やら四天王《こいつら》はそれぞれが四大属性の一つ一つに対応しているらしく、それを私にアピールしてくる腹積もりらしい。

 だから何だ、と私は思う。自信がある、絶対に靡かない自信がある。ばっさり切って落としてやる。世界を滅ぼすなんて話に、乗っかるはずがない。


 ぜ、絶対に乗っかってなんかあげないんだからねっ!


 どうだ、ツンツンと突き放しておいて、ちょっぴり甘い顔を見せてやる。これはきっと後の世に流行るぞ。私はイザベラ、時代の先をゆく女。甘く見たら火傷するぞ。まあ心の中で思っているだけなので、伝わらないだろうけども。


 とにかく私が、四天王どもから差し出された〝手〟を取ってしまった時点で、契約は履行されてしまうとのことだ。そうでない限り、私が立っている魔法陣の外側からは、結界に遮られて私には干渉できないらしい。

 召喚する側にも、一方的に召喚するなりの制約がある、ということだ。


 つまり四天王にとって重要なのは、私が誰の〝手〟を取るのか。

 タイムリミットは魔法陣の魔力が尽きるまで。魔力が尽きれば、私はそのまま元の世界へ送り返されるという話だ。


 だったら、誰の手も握り返さず、壮絶にお断りしまくって帰還してしまえばいい。

 相も変わらず囲まれた状態で、憮然する私へ向けて、ついに。



 四大属性の四天王どもによるアピール合戦の火ぶたが、切って落とされる――!



 ―― エントリーNo.1〝火の四天王〟 ――


「まずは俺からだ。イザベラよ、この〝火の四天王〟のものとなるがいい!」


 なんかのっけから、すげぇ上から目線で来られた。印象はもちろんマイナス、これが本当に面接なら「帰っていいよ」の一言で終了だ。

 でも残念ながら、そうはいかない。魔法陣の外側からは私に干渉できないが、逆に私もここから動けないのだ。この押し売り面接みたいな時間は、魔力が尽きるまで続くらしい。こんちくしょうめ。


 差し出された〝火の四天王〟の暑苦しそうな手に、私が冷ややかな視線を送っていると、まさに冷や水を浴びせられたかの如く焦り始める。いかにも武人っぽい精悍な大男があたふたしているのは、ちょっと見ものではある。ふふっ、無様。


 さて、明らかに芳しくない反応の私に対して、〝火の四天王〟は態度を改めることにしたようだ。


「……あ、あのう、どうか俺と一緒に世界を滅ぼしてはくれまいか? この世界を紅蓮の業火で、共に焼き尽くしてくれようぞ!」


「嫌です。お断りです。なんで私が、そんな悪事に加担しなくちゃいけないのですか。メリットがないでしょう。私に、メリットが、一切、ない。焼き尽くす必然性が、私には全くない。他の四天王だとかいう人たちにしても、同じですからね。世界を滅ぼすとか、そんなの興味ないのですよ。寝言は寝て言ってくださいって感じ」


「……く、くぅん……」


 結構きつめに言ってやると、なんか〝火の四天王〟はしょんぼりしてしまった。

 最初の威勢はどこへやら、体格のいい精悍なイケメンが自信なさそうにしょぼくれているのを見ると、何か愛着が湧いちゃうな。背中を丸めてうなだれられると、見下ろしてくる落ち込み顔が良く見えて、ついつい絆《ほだ》されそうに……ハッ!


 べ、別に絆されたりなんてしないんだからねっ!


 よし、ツンと突き放してやった。心の中でだけれど。私はイザベラ。時代の先をゆく女。この程度でぐらつくことなどありえないのだ。


 しかし、しょぼくれていた大男が、諦め悪く自己アピールを続けてきた。無駄だと思うけれどね、ふんっ!(ツンツン)


「め、メリット、メリット、ええっと……も、もし俺の手を取ってくれれば……〝火の四天王〟である俺の力で、体内の細胞を活性させ、恒常的な再生・修復を可能とできるのだか。要するに永(・)遠(・)の(・)若(・)さ(・)くらいなら簡単で……駄目ですかね……?」


「なん……ですって……!?」


「おっ?」


 永遠の若さ……永遠の若さ、ですって……!?

 そんなもん興味ないわけがない。世界の女性、共通の命題といっても過言でないだろう。私、美容とかスキンケアとかめっちゃ興味あるし。研究しているレベルだし。


 私の気持ちが初めてぐらついたのを察してか、〝火の四天王〟さん(敬称)は何やら勢いづいてきた。


「ふっ、ははっ、なんだ、そんなことで良いのか!? 人間とは良く分からぬものだな、これくらい〝火〟の属性を制する俺にとっては造作もないぞ。先にも言ったが再生も可能ゆえ、若返らせることすら可能だ! 若返った上での永遠の若さだぞ、どうだ、俺の手を取る気になったか!?」


「く、くうっ……! い、いえでも、世界を滅ぼすなんて、そんな……」


「いつまでそんなことが言えるかな? 火《ひ》っ火《ひ》っ火《ひ》……」


「その笑い方はマジで受け付けないのでやめてください」


「あっはい、ごめんなさい……ご、ごほん、とにかく」


 イケメン台無しの阿呆みてぇな笑い方をすぐに正してくれたのは、個人的にはポイントアップだ。しょんぼり顔も、なかなかクセになってくる。


 さて、〝火の四天王〟がダメ押しとばかりに、手を差し出しながら言ってきた。


「もし俺の手を取ってくれるなら、イザベラよ、おまえの永遠の若さは保証しよう。世界を滅ぼした暁には、富と栄誉も思うがままだ。そうだ、今すぐお試しに、せっかくだから回復してやろうか?」


「回復とかは良く分からないから遠慮しますけど……くっ、え、永遠の若さ、だなんて。私は一体……どうすれば……!」


 私はイザベラ。具体的な利益や宣伝文句《プロモーション》には結構、流されがちな女。


 ひとまず、保留……保留で!

 べ、別に永遠の若さなんかに釣られて、世界を滅ぼしたりなんてしないんだからね!(ツンツン)



 ―― エントリーNo.2〝水の四天王〟 ――


「さて、次は私の番ですね……イザベラさん、どうかこの〝水の四天王〟の手を取って頂けませんか?」


 次に自己アピールをかまそうとしてくるのは、どうやら〝水の四天王〟らしい。穏やかな物腰に良く見合う、女性かと見紛《みまが》いそうになるほどの美形だ。水の表面張力のような危うさすらある。

 上品な態度といい、さっきの〝火〟とは比べ物にならない好印象スタートだ。


 ……ただまあ、手を差し出してくる一見すると穏やかな彼に、私は念のため尋ねてみた。


「……でも手を取ったら、世界を滅ぼすのでしょう?」


「はい、絶対に滅ぼしたいですっ」


「なぜ?」


「さあ……? そうしたいから、としか」


「怖ぁ……」


「まあ私たちも魔族ですし、それも四天王の仕事といえば仕事なので。それにやってみたら、イザベラさんも意外と楽しめるかもしれませんよ♪」


「ほとほと怖ぁ……」


 やはり、そう簡単に差し出された手を取る訳にはいかないようだ。私はイザベラ、理性の女。見知らぬ異世界とはいえ、やすやすと滅ぼさせる訳にはいかない。


 そんな私の心を見透かしたように、〝水の四天王〟は静謐さすら感じる眼差しで、微笑を浮かべながら告げてくる。


「とはいえ、無償で、などとはもちろん言いません……私は貴女に、明確なメリットを提示できます」


「っ! そんな、目先の利欲に流されるほど、安い女と思われては心外です! それで、今回はどんな特典が……?」


「これは、失礼いたしました。では、私からは……まず、こちらをご覧ください」


 言いながら〝水の四天王〟は、青白いほど透き通った美肌と細長い指が特徴的な、艶やかな右手を見せつけてきた。傷どころか、あかぎれ一つない。水仕事とかしたことなさそうだなこいつ、主婦の敵か?

「барчонок(バルチョーナク)(※ボンボンが)」……そう呟いた私のやさぐれた態度は、彼の続く言葉で一変することとなった。


「私は〝水の四天王〟……水は私の味方、傷をつけてくることはありません。私の加護があれば、水仕事なんかも楽々……どころか、全自動で洗浄してくれるレベルです……!」


「うそ、でしょ……!? 家事の苦労を理解するタイプの四天王、だと……!?」


「しかも、私の手……ふふっ、ツヤツヤのスベスベでしょう? 保湿効果は抜群、いつでも潤いお肌を貴女にお約束しましょう。永続的な効果はもちろん、外側から貴女を更に美しくする……どうです、興味ありませんか?」


「くっ……なんて恐ろしいの……!」


 危険だ。やはり魔族の四天王、その超常的な力は、人間の及ぶところではない。つまりこの機会を逃せば、二度と手に入らないのだ。くそう、お買い得に弱い、そんな淑女の弱点を突いてきやがって、卑怯! さすが魔族、卑怯です!


 ゆらぎ、ぐらつく私に、〝水の四天王〟さん(敬称)は愉快そうに笑みを深めた。


「何も難しく考えることはありません、この手を取れば、それだけで貴女は私の力を手に入れられるのです。悪くない話でしょう……水《み》っ水《み》っ水《み》っ♪」


「やりにくいでしょ、その笑い方、無理しないでいいですよ」


「あうっ。……お、お気遣い、ありがとうございます……と、とにかくですね」


 穏やかな雰囲気も台無しにする奇っ怪な笑い方のおかげで、少しは冷静になれた、けど。


「と、とにかく、イザベラさん。私の手を取ってくれれば、貴女の美肌は確約しますし、最上のツヤ・ハリ・弾力を得られること間違いなしです。もっと美しくなりたくはありませんか……? 私の手を取るだけで、貴女は全てを得られるのですよ?」


「くっ、な、なんて恐ろしい提案を……美肌、美肌か、なるほど……いえまさか世界の滅亡と引き換えになんてしませんけど? でも……ど、どうすれば……!」


 私はイザベラ。水仕事や家事は基本的に面倒くさい、利便性重視の女。

 この恐るべき宣伝文句《プロモーション》に、保留にするしかないなんて……私は、無力だ……!



 ―― エントリーNo.3〝土の四天王〟 ――


「次は自分の番か……でも自信がないな。〝土の四天王〟なんて地味な自分なんかが、イザベラさんを満足させられるかどうか……」


 そう言いながら片手で頭を掻いているのは、このイケメンどもの中では比較的、控えめな雰囲気の男だった。けれど平凡さが逆に安心感あって、〝水〟とはまた違った包容力のある笑みが特徴的だ。


 ……まあでも、どことなく普通の穏やかな青年に見えなくもない彼に、念には念を入れて聞いてみる。


「あの、あなたも世界を滅ぼすのですか?」


「はい、大地を全てひっくり返すレベルで為遂《しと》げたいです!」


「どうして……」


 なんかもう異常性癖の集団に見えてきた。イケメンの無駄遣いにも程がある。魔族ってみんな、こうなの? それとも四天王《こいつら》が特別、変態なだけ?


 頭痛がしてきた私に、〝土の四天王〟は困ったような笑みを浮かべながら、相変わらず自信なさそうに言ってくる。


「その……自分は〝土の四天王〟ですから、火や水のやつみたいに、活性化だとか保湿だとか、とてもとても……自分が差し上げられるものは、こんなものくらいでして……」


「こんなもの、って、これは……泥? ……ふっ、泥なんて頂いても……」


 何やら童話《フェアリーテイル》の一幕のような話になってきた。が、実際、泥なんてもらっても仕方ない。坊や、泥んこ遊びがお好みかしら? あらあら、お可愛らしいこと……。


 ふっ、と嘲笑する私に、けれど〝土の四天王〟は笑みを絶やさない。


「イザベラさん、貴女の元いた世界では、まだ一般的ではないだろうが……泥を活用したスキンケアは、美容効果が抜群なのだ……特に毛穴の汚れや角質除去には圧倒的な効果! どうかな、興味はないか……?」


「そんな……ばか、な……!?」


「もちろん〝土〟属性の加護で、より効果の高い土壌の選別も可能、見極めも容易となるだろう。世界を滅ぼし終わった後、イザベラさんにお帰り頂く際、何か土産でもないかと思い……この知識を持ち帰れば〝泥美容〟で市場を独占することも可能かと。いや本当、大したものではないが……自分、不器用なもので」


 いや不器用どころか、アンタ四天王の中でも圧倒的に小器用だよ! お土産っていうアイテムまで駆使してきやがりましたし!

 しかも、私には分かる。彼の発言は、理に適っている。私が元いた世界でも、そういう美容法が全くなかったわけではない。

 ついでに言えば、偉(・)大(・)な(・)る(・)先(・)人(・)も医学として触れたことがある要素だ……だからこそ私にも、彼の提案がどれほど魅力的か理解できた。


 全く、このっ……〝土の四天王〟様(一つ上の敬称)が!


 ハア、ハアっ……ゆらぎ、ぐらつき、息切れする私に、彼は自信に溢れた笑みを浮かべて手を差し伸べてきた。最初の自信が無さそうな言動も、ポーズに過ぎなかったらしい。どこまでも小器用な自称・不器用め!


「さあイザベラ、自分の手を取れば、元の世界でも富と利益はきみの思うがままだ……悪くないだろう? 土《ど》っ土《ど》っ土《ど》っ♪」


「笑い方でいちいち台無しにしてくれてありがとう。おかげで考え直す猶予が生まれました」


「そんな……自分が、不器用なばっかりに……!」


 手を差し伸べてきたまま、打ちひしがれている。

 とはいえ……とはいえ、なかなかの特典だ、恐ろしい。いやあ恐ろしいですよ、これは。


 私はイザベラ、鋼の精神力を持つ女。そんな私でも、恐るべき魔族の、しかも四天王を前にしては、苦戦を強いられてしまう。


 とりあえず、保留っ……保留でお願いしまァす!!



 ―― エントリーNo.4〝風の四天王〟 ――


「フッ、どうやら前座は終わったようだな……イザベラよ、最後は〝風の四天王〟である余の番だ。そなたに余の手を取る光栄に賜らせてやろう……」


 四天王の大トリを飾るのは〝風の四天王〟。クールな雰囲気と相まって、涼やかな面立ちは美貌と形容しても良いほどのイケメンだ。

 くそっ、一体こいつは……いえ四天王さん達の大トリの御方は、一体どんな魅力的な特典を提示してくれるというのかしら……!?


 ゆらぎ、ぐらつき、「ゼエ、ゼエ」と息切れする私に、彼は自信満々の笑みを浮かべながら、手のひらを向けてきた。


「フッ、何やら息苦しそうだな……暑いのか? よろしい、ならば余が風を送ってくれよう……風《フ》ッ!」


「ハア、ハア……えっ、あっ、どうも。わあ、結界に遮られていても、微風くらいなら届くのね……でも涼しくて丁度いいわ。……そ、それで、ゼエ、ゼエ……あ、あなたは一体、どんな特典を……!?」


 もちろん決して世界の滅亡と引き換えにするつもりなんてありませんけれども、それはそれとして、ついつい私は尋ねてしまっていた。私はイザベラ、割かし口の軽いところのある女。まあ聞いてみるだけ、聞いてみるだけだし、いいでしょ?


 すると彼は相変わらず風を吹き付けてきたまま、こう言い放った。


「ム? ……うむ、こうやって風を吹かせてやれるぞ!」


「はい? ……えっ、それだけ?」


「いやいや、もちろん最大限に力を発揮すれば、国一つを呑み込むほどの嵐を生むも容易いがな! フッ、どうだ、凄いだろう。余の手を取りたくなったか!?」


「いえ、その。……美容効果とかは?」


「びよー? なんだろう、それは?」


 うん、いやまあ、魔族とやらの四天王が、なぜか美容効果で宣伝文句《プロモーション》をかけてきているほうが、よくよく考えればおかしな話だけども。


 どうやらコンセプトをいまいち理解していなかったらしい彼が、何やら目を細めて感慨深そうに呟いた。


「フッ。余が風を吹かせることで喜ばぬ思春期男子はいなかった……」


「それ、十代くらいの多感な子の話じゃないです?」


「おお、さすがイザベラ、良くわかったな! そういうことだ、さあ、余の手を取りたくなったろう! 遠慮することはないぞ、フッ……否! 風《フ》ッ風《フ》ッ風《フ》」


「…………」


 聞いている限りでは同じ発音の笑い方だけど、もはやツッコむ気もない。

 まあとにかく〝風の四天王〟(敬称なし)の話は終わったらしく、これでアピール合戦は出尽くしたらしい。


 結果、四天王から四方を囲まれ、手を差し伸べられている。


 そんな私の、選択は――



 ―― ★運命の結果発表★ ――


「俺と」<火>

「私と」<水>

「自分と」<土>

「余と」<風>


「「「「一緒に世界を滅ぼしましょう! お願いします!」」」」<四天王>


 自己アピールを終えた四天王どもから、改めて手を差し伸べられている。


 そんな私は、手を出して――指を突き付けて、言ってやった。


「四天王の皆さん、あなた達がまず手を差し出さなければいけないのは、私ではないでしょう?」


「「「「えっ?」」」」


 心底から意外そうに目を見開く彼らだけれど、私の言葉は止まらない。


「いいですか、世界を滅ぼすとかなんとか、そのために私を手に入れるとかの前に……あなた達は〝四天王〟という仲間同士なんだから、いがみ合って競争する前に、まずは協力すべきでしょう。仮に私が誰かの手を取っても、その後、また争うのがオチではないですか? そんなの、私が誰の下にいたとしても、安心できません。だから……」


 ふっ、と口元を緩めて、私は提案した。


「まずはあなた方が……四(・)天(・)王(・)全(・)員(・)が(・)手(・)を(・)繋(・)い(・)で(・)、その姿を私に見せてください。その時こそ、私イザベラは、あなた方のものとなりましょう……」


「「「「!!」」」」


 私の言葉で、俄かに色めき立つイケメン四天王ども……だけど私は、そこで提案を付け加えた。


「あっ、でも私の指(・)定(・)通(・)り(・)に手を繋いでくださいね? 火の人は、水の人と。そして水の人は……そうそう、そんな感じ。で、最後に……」


 簡潔に、手を繋いでいる順番を説明すると。


 火→水→土→風……

 そして最後に、風が火の手を掴み、四天王で作った輪が完成した、その瞬間。



 爆(・)発(・)し(・)た(・)。



 ちょっと洒落にならないくらいの、すんげぇ爆発が起こった。四天王全員、私を中心として四方にぶっ飛んでいった。中央の私は、魔法陣の結界で守られているから無傷だ。さすがに驚きはしたけれど、なんかスリリングでちょっぴり楽しかった、ちょっぴりね。うふふ。


「……な、なんだ、これは……一体、何が起こった……?」


 他よりタフなのか〝土の四天王〟が呟くのが聞こえたので、どうせ魔力切れで帰るまでは暇だしと、私は淡々と答えてあげた。


「四大元素は、相互に作用を及ぼすものです。風は火を煽り、膨れ上がった火は水を蒸発させる……すると水素爆発が起こる。あなた方は元々凄まじい力を持つのでしょう、想像を絶するほどの爆発力でしたけれどね。……あと土は、なんだろ、なんかこう、あるんでしょ。繋ぎみたいな? パンとか作る時の小麦粉みたいな。……まあ私はその辺、センスで理解できるので、この結果は見えていましたから」


「そ、そんな馬鹿な、自分だけ扱いがなんか雑ッ……じゃなく、この結果は見えていた、だと? よその世界から来て、魔力も知らぬはずなのに、ここまで計算ずくだったというのか?」


「あなた達、仲が悪いから、今みたいに手を繋いだことなんて無かったでしょう? 魔力、というのは確かに知らないわ。けれど私も元の世界では専(・)門(・)家(・)。あなた達が、無意識でも相手に作用を及ぼしてしまうほど、並外れた四大元素を持っていることは理解できていたわ。宣伝文句《プロモーション》もあったおかげでね。そんな恐ろしい四天王たちなら、手を繋ぐだけでも大きな現象が起こることは、想像に難くなかったわ」



 私はイザベラ。

 イザベラ・コルテーゼ。

 元の世界では、十六世紀――錬(・)金(・)術(・)師(・)として知られている女。



 四大属性の四天王どもが私を求めるのは、私の錬金術師としての力に目を付けて、独自にパワーアップするためだったのだろう。まあ私の専門、化粧品とか美容なのだけれど、知識くらいはあったからね。

 その予想は当たっていたようで、〝土の四天王〟は気を失う間際、小さく呟いた。


「さ、さすがはイザベラ、四天王が目を付けるほどの女傑……お見事、がくっ」


 土属性だからか何なのか、なかなかの粘り腰だった。お疲れ様。

 にしても、私を中心に四天王が四方に吹っ飛んでいる状態、なんか面白いな。イケメンで花を咲かせたみたいな……ハッ!


「皮肉なものね、悪人の血ほど綺麗な花が咲くわ……」


 これきっと、後の世で名台詞になるぞ。私はイザベラ、時代の先をゆく女。まあ別に誰が聞いているでもないんだけど、異世界になんて来ちゃっている今、ちょっとくらいのお茶目は大目に見て欲しい。


 さて、何だかんだで収穫はあった。〝泥美容〟は知識だけでも良いお土産だ、是非とも元の世界で流行らせよう。偉大なる先人パ(・)ラ(・)ケ(・)ル(・)ス(・)ス(・)先生だって、さすがに美容にまでは着手していなかった。この市場、独占できるぞ、うきうきしてきたな。


 とはいえ魔法陣の魔力が尽きるまで、暇だな……光は弱まってきているから、そんなに長く待たないとは思うんだけれど。


 と、考えていた私に――更なる不測の事態。


「フハハハハ……まさか機知のみで四天王を撃退するとは、見事なり!」


「えっ」


「我こそは〝闇の魔王〟――気に入ったぞ、イザベラよ! 我と共に世界を滅ぼそうではないか!」


「えっ。……えっ」


 現れたのは、漆黒の黒髪が烏の濡れ羽のように艶やかな、〝闇の魔王〟を名乗るイケメン。

 何と信じられないことに、まさかの追加注文だ……なんてレベルじゃなかった。


「お待ちなさい――そうはいきません。わたくしは〝光の神〟。イザベラさんを渡しはしません」


「えっ!? わ、私の信仰する神様とは、そりゃ違うだろうけれど……よ、よかった、助けてください!」


「そしてイザベラさん、わたくしと共に、世界を滅ぼしましょう!」


「立派に邪神じゃねーか!」


 見た目だけは圧倒されそうなほど神々しい、眩いばかりのイケメンだから、たちが悪い。


 さて。

 最後の最後に、まさかの〝闇の魔王〟と〝光の邪神(確定)〟から。


 私が受けた仕打ちはといえば――



「「この手を取ってください!! 是非とも一緒に、世界を滅ぼしましょう!!」」


「勘弁して!?」



 さて、私が彼らの手を取ったかどうかは、想像にお任せする……って取ってねぇわ。普通にご帰還いたしましたわ。

 私はイザベラ、異世界のイケメンにも流されずに帰還して――元の世界で名を馳せた、錬金術師の女。



 ~ Fin ~

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― 新着の感想 ―
 ワンコ×俺様な火、潤い淑やかな水、手堅く演技派な土、厨二系×クールな風、最後に現れたなんだかわからん光と闇。(風の第一声で、危うく暴風の如き星●獣が、脳内に召喚されそうでした)  残念?イケメン達が…
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