第一話:異邦人
目の前には、天井まで届く荘厳なステンドグラスが広がっていた。
赤、青、金。
色とりどりの光が磨き上げられた大理石の床へ降り注ぎ、まるで砕けた虹の欠片のように揺らめいている。
……ん?
なんでだろう。
私は、さっきまで会社の飲み会の帰り道を歩いていたはずだ。
同僚との他愛もない会話を終え、終電まで少し時間があるなと思いながら駅へ向かっていた。
交差点を渡ろうとした、その時。
足元に淡い光が広がった。
次の瞬間、視界は真っ白に染まり――そこで私の記憶は途切れた。
「やったぞ! 成功だ!」
幾人もの歓声が響き、私ははっと我に返った。
気づけば、私は教会の祭壇にも似た円形の台座の上に座り込んでいた。
見下ろすと、豪奢な法衣に身を包んだ人々や、甲冑をまとった騎士たちが、一斉にこちらを見上げている。
その視線には、驚きと歓喜、そして私には理解できない期待のようなものが入り混じっていた。
顔立ちは西洋風で、髪も美しい金髪の人が多い。
たぶん、ここは日本でも東京でもない。
それだけは分かった。
絵本で見た王様をそのまま現実にしたような、王冠を戴き、立派な口ひげをたくわえた男性が、ゆっくりと祭壇へ向かって階段を上ってくる。
しかし、その瞳だけは違った。
修羅場をいくつも乗り越えてきた上司のような、深い疲労が滲んでいる。
「素晴らしい! 初代の記録に記されたとおり、漆黒の髪! 黒曜石の瞳! まさしく、英雄様に違いない!」
……なんだろう、この舞台劇みたいな話し方。
あまりにも仰々しい物言いに、頭の整理が追いつかない。
「あの……?」
恐る恐る声を出す。
「初代英雄様の記録どおりだ……! 我らの言葉を話しておられる!」
いや、あなたの圧が強すぎて全然話してない。
私からすれば、金髪碧眼の外国人が流暢な日本語を話しているような違和感しかない。
「これは申し訳ありません。余はセレスタリア王国七代目国王、アルベリク・セレスタリアと申します」
困惑している私に気づいて冷静になったのだろう。
ようやく、まともな会話になった。
「ご丁寧にありがとうございます。私の名前は月城蛍と申します」
一度深呼吸をしてから言葉を続ける。
「状況がまったく飲み込めておりません。申し訳ありませんが、何が起きているのかご説明いただいてもよろしいでしょうか」
こういう時こそ、冷静に。
仕事でもトラブルが起きたら、まず情報を集める。
社会人になって身についた癖が、自然と私を落ち着かせていた。




