↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
18/25

❄❄ 17 ❄❄ 偶然と導きのボンヌヴェル

「いらっしゃせー」


 気が抜けた声と、出迎えの電子音にかき消されるほどの小さい声で、エルシーは呟く。


「どうしよう……私が余計なことを……しちゃったからかな」

「……」


 そんなことない、などと言っても何の説得力も無いだろうと、ボクは言葉を飲みこむ。声を出さない理由は、それだけじゃないんだけど。

 あれから一時間ほど湖畔を歩き回って、雄大な湖にもふたりで目を凝らしたが、アオサンを見つけることはできなかった。雪のせいで視界が悪いとはいえ、彼の目立つ羽色であればすぐに気が付くだろうに。

 しかし何より。

 ――雪深い中を神経とがらせて歩いたせいか、エルシーは足の痛みをぶり返してしまったのだ。

 だから今は一旦捜索を中止して、湖畔近くの売店の飲食スペースに腰を下ろしている。ボクは一応身を小さくしてフードの中に隠れているが、暖かいお茶を購入した時に店員から見つかったらしく、怪訝な目で見られてしまった。

 まぁ何も言われなかったのだから、そのまま気にせず大人しくしているけど。


「はぁ……どうしちゃったのかなぁ、アオサン」


 ちなみにこの呟(つぶや)きがエルシーの口から漏れだすのも、もう五回目だ。対して、手にするボトルのお茶には全く口をつける気配がない。


 実際ボクも、戸惑っている。

 昨晩、彼は確かに言ったのだ。「折れない」と。

 だからあの場所にいなかったのは、エルシーが心配するように気を病んだからではない……はずだが。

 だとすると一方、もっと他に悪い――例えば健康上の不調とかが起きたのではないか、などとボクもついつい考えてしまう。

 悪い想像ばかりしても仕方がないとは思うが、彼をこれ以上探そうにも、土地勘ゼロの流れ者なボクらに手がかりは無かった。


「はぁ……」


 エルシーが深い再び溜息をつき、ボクは慰めるように肉球で首を摩(さす)る。


「……しゃっせー。ろっぴゃくえんっす。……あざさーっす」


 普段賑やかなエルシーが静かなせいか、やる気が感じられない店員の声が妙に耳へ入ってくる。朝方とはいえ、もう少しは覇気があってもよさそうなものだが。


「あははっ。雪とかマジやべーっしょ! 超テンション上がるンだけど」

「はぁーあ。お前が無理言うから……倉庫からチェーン引っ張り出してくるの、大変だったんだからな?」

「あざっす! 兄貴マジあざっす!」


 次に聞こえてくるのは、元気にはしゃぐ女性と気だるげに答える男性の会話。後から入ってきた他の客だろうか。

 もし隣に座ってきたらちょっと面倒くさいな、と心ばかり身を小さくする。


「――雪の湖、超サイコーなんだけど! なんで今まで来なかったかなー。あの鳥も超ぉウケたし! あっ、肉まんも買っていいー?」

「まぁ、良いけど。……アレはなんか面白かったな。すげー必死そうというか」


 それにしても女性の方は、テンションが異様に高い。エルシーとはまた違った雰囲気だが。

 ……ん? 今、鳥(・)って言った?


「そう、そこが可愛いじゃん! カラフル鳥が水の上でパタパタしてさー!」「カラフル鳥って……。あれはオシドリだろ」

「てか飛ぶの下手クソ過ぎん? 結局飛べてなかったし」

「確かに、飛ぼうとして飛べてない感じだったな」

「つーかアタシらもすげー見てたよね。トータル二時間ぐらい?」

「アタシらっていうか、いや寒ぃのにお前が『えー、今が良い所じゃん!』って動(うご)かな――」


 そこまで聞いて。

 ボクらは思わず、飛び上がった。

 多分同(・)じ(・)こ(・)と(・)を考えただろう、エルシーが椅子を倒すのも構わず声の主へと駆け寄っていく。


「あっ、あのすみません! ちょっと! いいですかっ⁈」

「わわわっ、おねーさん声デカすぎ! ちょービビるんだけど、ウケる!」

「えっとあのその、俺らが、なにか?」


 エルシーの突然の剣幕に男女は、それぞれ驚いたようだったが足を止めてくれた。

 ボクがフードからぴょこりと顔を出して肩越しに確認すると、金髪を綺麗にカールした女性は手を叩いて爆笑し、縦に細長い茶髪の男性は困り顔で身を後ろに引いている。


「えっ、後ろに猫いるじゃん! ヤバい可愛いんだけど!」

「この子はアウロラ。私の……いやいや、それどころじゃなくって! オシドリ、見たんですか⁈」

「あぁ、うん。見たよ? ついさっきね。美園湖ってオシドリ有名だから――」

「どっどどどど、どこ、どこですか?」

「ち、ちょっと落ち着いて。えっと、車で十五分ぐらい行ったとこかな? あっちのでっかい木が生えてるあたりで――」 

「わかりました! あっちですね⁈ ありがとうございま……ッ!」


 男性の言葉を聞くや否や、エルシーは店の外へ駆け出そうとして――しかしすぐに足を抑えて立ち止まってしまった。

 

「ダイジョブ? おねーさん、なんか怪我してる系?」

「あの、あまり無理しない方が……」

「だ、大丈夫です!」

「いやいや、全然ダイジョブじゃないっしょ」

「え、もしかして、怪我してるのに歩いていく気ですか?」  

「――何としてでも、這ってでも、行くので!」


 ボクは、何も言えない。本当は止めたいけど。例えこれが声を出せる状況だったとしても、言葉は出なかっただろう。

 彼女の気持ちは、痛いほど分かるから。

 確かに、他にもオシドリはいくらでもいるかもしれない。

 でも今この時、この湖で。必死に飛ぼうとしてもがいてるオシドリなんて……アオサン以外に考えられないだろう。

 だから、見届けなくては。

 彼に少しでも、何か声を掛けなくては。

 エルシーはそう思っているに違いない。


 ――そんな、彼女の鬼気(きき)に気が付いたんだろうか。


「ねぇ、兄貴?」

「…………はぁ。しょうがないなぁ」


 目の前の男女が、呆れたような溜息と共に近づいてくる。


「ねぇ、おねーさん? 兄貴の車に乗っていきなよ」

「えっ? でも、そんな……」

「大丈夫、大丈夫。すぐそこだし、どうせ俺たちも暇だから。それに、怪我して無茶しようとしてる人放っておくなんて、出来ないよ」

「でもまー兄貴の運転下手くそだから、ちょっち気持ち悪いかもだけどね?」

「おい、そりゃないだろう⁈ というかお前は、雪の中わざわざ車を出してくれた優しいお兄様に、もう少し感謝と敬意というものをだなぁ――」


 そのまま、ぎゃーぎゃーと言い争いを始める二人。

 取り残されたエルシーはこの申し出にどうするのかと、ボクはそっと横から顔を覗いてみる。

 目の端には薄っすらと涙。でも、表情に躊躇(ためら)いは無かった。


「あのっ! お二人とも、ありがとうございます!」


 喧騒を遮るように、エルシーが大声と共に頭を下げる。


「私を彼のところへ――そのオシドリの所へ連れてってください!」


 しばし顔を見合わせた二人は、すぐにこちらへ向き直り、同時に親指を立てて破顔した。なんとも仲のいいコンビである。

 かくして、ボクらは彼らの車へと乗り込み、一路(いちろ)アオサン……のいるであろう場所へと向かうのだった。

果報は寝て待て、便りがないのは良い便り。

世間ではそう言うかもしれないけど、彼女には似合わない。


気になっていただけましたら、★評価 & ブックマークで応援お願いします!

感想もぜひぜひ、お待ちしておりますっ!


❄❄❄❄❄


Kindleにて、第2巻まで好評販売中!(※第1巻は無料!)

▼第1巻▼

https://amzn.to/49KKXlU

▼第2巻▼

https://amzn.to/3MUzc2G

挿絵(By みてみん)

超絶素敵なイラストは「ハレのちハレタ」様より

 └ Pixiv:https://www.pixiv.net/users/1079498

声優・船戸ゆり絵様による朗読動画も、Youtubeにて公開中!

▼Part1▼

https://youtu.be/-ymWI-OtTBE?si=gebAx3Jl4YF_cBvm


❄❄❄❄❄

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。