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第20話 手打ち

転んでもただでは起きないのが商売人の(おきて)

婿を(あきら)めたケットは、娘を修行させて欲しいと言い出した。

授業料も、能天気夫婦に掛かった費用を差し引いているなら妥当なところだ。

能無しのお嬢様を預かって商売を叩き込むなら同じような大地主のほうがいいのに、あたしに頼むって言うことは、

娘の程度が知れる。

苦労しそうだ。

借金返済のために、兄弟を売らずに済んだのだから、良しとしよう。

「もちろん、引き受けさせていただきます。それなら、すぐ領地にお戻りください。きっと、お嬢様方が助けを

求めていらっしゃいます」

にっこり。わざとらしく微笑んだ。

どこの家にも触れて欲しくない恥部(ちぶ)がある。わざわざそれを交渉のカードにしたからには、ただでは置けない。

上手く行っていない事業を、ミッツ商会を使って追い込んでいるところだ。

会社の1つや2つ、(ふところ)は痛まないだろうけど、メンツは痛む。

今頃、お嬢様たちは半狂乱だろう。



我が家の屈辱を晴らすためにいろいろ仕掛けた。

まだ芽を出していない物もあるけど、お嬢様の仕込みはあたしにも利益のある契約だから、このへんが潮時(しおどき)

手打ちの指示をメモして、ナンゴーに(たく)す。

「ははは、しっかりしたお嬢さんだ。うちの娘をよろしく頼むよ」

やっぱり、いい商売人だ。引退したのにうるさく首をつっこむなんて真似はしないらしい。

「ええ、お一人は仕込みとしてお預かりします。もうお一人は農作業員として。どちらをどれに着けるかは、

お父上にお任せいたします」

まだ見ぬお嬢様方、覚悟してね。

兄弟でも、トップに立てるのは一人。

商売は、ママゴトじゃないんだから。

「お嬢様方のおいでを、楽しみにお待ちしておりますね」

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