終幕.王女様は嘘がお好き
親愛なるお姉さま
私がそちらを発ってから、季節が一つ巡りました。
お姉さまにお変わりありませんか?
こちらの国には「便りがないのは良い便り」という言葉がありますが、筆不精な私を許してくださいね。初めてのお手紙は、とっておきの便箋で送ろうと決めていたのです。(とりわけお兄さまは、私からの連絡がなくてやきもきしていたことと思います。いい加減、妹離れしてほしいと伝えてくださいね。)
この国では、春を告げるのは黄色ではなくピンクなのだそうです。うつくしいお花の香りをお姉さまにもお裾分けしたいと思って、匂い袋を同封しました。そちらに届くまでに、匂いがとんでいないといいのですが。
私も、彼も、子供たちも、元気で過ごしています。雪の多い時期に旅立ってしまったから少し心配していましたが、彼に似たのか子供たちは風邪一つひかずにピンピンしています。
アビーはこちらの言葉を覚えるのがはやくて、私たちより先にお友達を作ってしまいました。この子のお陰で、私も同い年のお友達ができました。
ダグは私に似て人見知りだからか、まだ子供たちの輪には入れていません。けれど、お隣に住んでいる役者さんたちに可愛がられていて、いつもこっそりお菓子をもらっています。
彼はこちらの国の剣を身に着けたいと言って、お師匠様に弟子入りしたところです。いくつになっても弟子は弟子なのだそうで、二回りも小さな兄弟子さんに教えを乞うています。そちらに戻ったら、新しい団長さんに勝負を挑むと意気込んでいるのです。納得して立場を譲ったはずなのに、まだまだ先輩気分が抜けていなくて、私は思わず笑ってしまいました。(本当に、いくつになっても子供みたいな人!)
どうかお姉さまからも、きつくきつく言ってやってくださいね。きっとお姉さまの忠告なら聞いてくれると思うのです。
本題を忘れるところでした。
私が残していったお話は見つけてもらえましたか?
きっともうお読みになっていると思うので明かしてしまいますが、実はお姉さまに内緒で、お姉さまが主人公のお話を書いていたのです。
お話を本にするのと一緒に、上演してもらう手はずも整えてきました。今回はお兄さまの手を借りず、私が一人で(勿論、彼には付き添ってもらったのですが)交渉したのです。きっと、素敵な劇になっていることと思います。
残念なことに私は初演より先に出立してしまったため、劇場へ足を運ぶことは叶いませんでした。主演の女の子は、あの日、私の初めてのお友達になってくれた「エドワード」そっくりです。どうか、私の代わりに客席から、盛大な拍手をおくってあげてくださいね。
それから、お姉さまなら気付いていると思いますが、このお話は全てが本当のことではありません。
カーテンコールのあとで、客席でほくそ笑むような楽しみ方をしてもらえたら嬉しいです。
また、近いうちにお手紙を出しますね。そうそう、ジュリちゃんに卒業おめでとうと伝えてください。そちらに戻るときには、珍しい薬草を手土産にするつもりです。ミラちゃんとお腹の赤ちゃんにも、よろしく伝えてくださいね。
お話の真実は、誰からきかれても答えないでくださいね。
きっと、私とお姉さまだけの秘密です。
なんたって、「王女様は嘘がお好き」ですから。
心からの愛を込めて ユーナ・ココット





