永遠の二歳児
「キュン、どうなってる」
ネロがあっさり警戒を解いて、幼児に話しかけた。
キュン……?
クリシスという人ではないのか?
「ライオンさんはいい子なのぉ……」
そう言って、キュンと呼ばれた幼児は、子ライオンに小さな葉っぱのような手を伸ばした。
「あっ……」
「大丈夫だ。キュンはわたし達よりずっと賢いから」
確かに、キュンくんに頭を撫でられている子ライオンは、大きなネコのようだ。
ぼくのトラネコたちのように、首を傾けて、目を細めている。
「バルバラときたら、ライオンを犬と間違うなんて、とうとうボケてきたか」
心配そうに言ったネロを、キュンくんがきっと睨んだ。
その顔も、びっくりするくらい可愛い。
名作アニメというので見た、天使じゃないか。
「ちがうのぉ!! この子はおばちゃんの死んじゃったワンコに似てるのぉ!!」
またか――。
正直そう思った。
茶トラを気に入ったのと同じ理由だ。
「ところで、この子は? こんな小さな子を森に置き去りにしていくなんて、クリシスさんに何かあったのでは?」
我ながら、ネロと出会ってから初めてまともなことを言った。
それなのに――。
「ばかにしないのぉ!!!」
キュンくんが丸い頬を膨らませて、そっぽを向いてしまった。
「ごめんな、キュン。このお兄ちゃんはミトラだ。まだ、わたしがお前のことを話してなかったんだ。許してやってくれ」
何故かネロが謝っている。
「ゆるすのぉ……」
ぽすっと、キュンくんが子ライオンの隣に座った。
黄色いロンパースが、子ライオンとお揃いのようでかわいい。
「改めて、この子はキュンだ。ライフパークから我々が助け出した。お前は知っているかな? 五十年ほど前、聖母会がライフ・リーフ社という名だった時代は、培養センターではなくライフパークが主流だった。土地や人件費の問題で、培養センターへ徐々に置き換わっていったがな」
ライフパーク……聞いたことがない。
「そこでは、人間の子どもが栽培されていた」
「栽培? 植物のようにですか?」
培養カプセルの中で何でも知った気になっていたけど、世界は未知に溢れている。
「この子たちは、新生児から三歳の直前まで育てられる。そして三歳の誕生日に伐採されて――つまり生命を一年分奪われて、また二歳に戻るんだ。そして永遠に二歳を繰り返す。だから、永遠の二歳児なんだ」
キュンくんは、ぼくよりずっと年上ということか――。
「でも……その施設から出たなら、もう普通に大きくなれるんじゃないんですか?」
一縷の望みをかけて聞いてみた。
「いや……無理だ。品種改良されているからな。でも、わたし達は聖母会のように生命を奪ったりしない。だから年々、キュンの身体には信じられない生命力が溜まっている」
その時、何も聞いていないようだったキュンくんが、子ライオンを撫でる手を止めた。
「ぼく……三さいに、なりたいのぉ」




