プロローグ
中学、高校におけるいじめについて、新たな試みが始まった。
いじめ防止関連法案が可決され、各校の生徒会が提案した制度を同一都道府県内の全校へ送り、議論を行う。そして、生徒による投票で全体の三分の二以上の賛成を得た制度については、各知事が条例化しなければならない──。そんな法律が定められたのだ。
それから各地域の生徒たちは、いじめをなくすためのルールを次々に提案していった。しかし、画期的と呼べるものは少なかった。
「見て見ぬふりをやめましょう」
その程度のどこか幼稚なものが大半だった。中には、「加害者は理由の如何を問わずに無期懲役にする」などという暴論もあった。
だが、誰もが加害者となりうる可能性もあるためか、三分の二どころか過半数すら得られずに否決された。
結局、可決されるのは、ごく一部の当たり障りのないものばかり。
いじめ防止関連法案は、次第に名ばかりのものになっていった。
そんな中、効果的かつ画期的だとして注目を集めたのが、投票制転校プログラムだった。
この制度では、いじめが発生した際、専用アプリを使って加害者と被害者を匿名で申告することができる。申告があれば外部調査員の指導の下、調査を行い、いじめの事実が確認された場合、当事者が所属するクラス全員による投票が行われ、選ばれた生徒一人が他校へ転校する。転校に伴って引っ越しが必要になった場合には行政がその費用を負担する。それほどまでに、この制度は画期的な目玉政策として扱われた。
なお、いじめが確認されたにも関わらず、加害者への指導や警察への通報を行わないことについては、数年前に他県で起きた悲惨な事件が背景にあるとされている。
いじめの原因は個人の特性ではなく環境にある。
それが投票制転校プログラムの基本的な考え方であり、加害者は罰するのではなく、正す。被害者は耐えるのではなく、逃げる。そんな方針が、多くの人々に受け入れられた理由の一つだった。
そして今日──。




