あとがき
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
ここまでお付き合いいただいた方なら、もうお気づきだと思います。
トンヌラは、結局最後まで戦えませんでした。
本当に戦闘能力ゼロの、ハズレ職です。
周囲からは途方もなく強い存在に見えていましたが、彼がしたことは、ガルド、コムギ、フィー、ミラ、クラウスが、世界の調整と過去の傷によって自然と諦めてしまっていた「選択」を、もう一度呼び戻しただけでした。
誰かに力を与えたわけではありません。
もともと、その人の中にあったものへ名前をつけ、本人がもう一度選べるようになるまで、そばにいただけです。
最後に放たれた五戒封環・終焉無双も、敵を倒すための必殺技ではありません。
五人の五戒と、サトウの第六戒。
それぞれが押し込められていた役目から解放され、自分の意思で選び直した結果が、たまたま必殺技のように見えただけです。
一応、ファンタジーですので。
それでも。
誰かの何気ない一言によって、何かが変わることがある。
もう諦めたと思っていたものを、再び選べることがある。
与えられた役目ではなく、その人自身として生き直すことができる。
それを呼び覚ましたことで、トンヌラは最後に自由解放者と呼ばれました。
ただ、それだけの人です。
結局、世界は最後まで彼を強者だと誤解し続けました。
最初からトンヌラが何もできないことを知っていたのは、世界の外側にいた、ぽめだけだったのだと思います。
『ゴカイ無双』には、これまで考えてきた別の物語のアイデアも、ほとんどすべて集約しました。
『0.5ぶんの世界延命』では、主人公の港が何気なく放った言葉によって、カクの心――世界に色がつき、その世界の寿命と可能性が少しだけ延びる。
連載が止まっているSF作品『裁定の器』では、犠牲者を出さない選択と、誤解、情報操作、牽制だけで相手に勝つ。そしてこれ以上未来の地球が汚染され取り返しがつかなくなった時、アービトラコアユニット"AL"の承認により発動する、機動兵器が世界を終わらせる。
形は違っていても、書きたかったものの根は、どれも同じだったのだと思います。
世界が一人の人間を静かに見ていること。
言葉にならない思いがあること。
誰かの言葉で、世界の見え方が変わること。
そして、どれだけ失敗しても、格好悪くても、自分で選び続けること。
私はSFとヒーローが好きです。
細かな設定を積み重ねながら、そのすべてを説明するのではなく、最後には突然湧き上がった必殺技で強引に突破する。
理屈があるようで、最後に勝つのは人間の気持ち。
そんな物語を書きたいと思い、ここまで続けてきました。
それが皆さんにも、少しでも伝わっていたなら嬉しいです。
五戒は、私自身が生きていく中で抱えてきた五つの戒めです。
そして第六戒は、一度は諦めかけた選択を、もう一度自分の手へ取り戻すためのものです。
これは現実の中で、私自身が救われたいと願った気持ちを、そのまま異世界へ持ち込んだ物語でした。
私のために書いた異世界小説であり、間違いなく自己満足から始まった作品です。
名を叫び、必殺技らしいものを放てば、あとはなんとかなってくれ。
言ってしまえば、ハチワレの「なんとかなれ」と同じ思考回路で生まれた物語でもあります。
この半年間、私生活のほとんどを、この作品を書くことへ使ってきました。
その間にはいろいろな出来事があり、おそらく勇者パーティ編の頃から、文章の温度も大きく変わったのだと思います。
文字には、書いている人間の精神が、そのまま表れる。
最後まで書き終えた今、それを強く感じています。
現在は、後半でたどり着いた温度へ序盤を合わせるため、第1話から改稿を続けています。
この作品で売れたいという気持ちよりも、まず自分が納得できる物語を、最後まで形にしたい。
その一種の強迫観念だけで、ここまで書き続けてきました。
それでも。
この物語の中に、皆さん自身の痛みや、諦めかけた選択と重なるものが一つでもあったなら。
トンヌラたちが呼び戻したものが、皆さんの心にも少しだけ残ったなら。
これ以上に嬉しいことはありません。
最後まで『ゴカイ無双』を見届けてくださり、本当にありがとうございました。
あとがき 了
ゴカイ無双
第一部 完
「続けるか」




