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ゴカイ無双-unlimited "gokai"endless  作者: フラグメント水沢
第2章 支える者 管理栄養士

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第12話 日常無双は地味に強い

ここはレイアノーティア。

名は人を座らせ、役目は人を歩かせる。


だが世界はよく見落とす。

歩き続けるための“当たり前”が、いちばん強いことを。



補給任務の二日目は、驚くほど平和だった。


コムギが鍋を振り、ガルドが立つ。そしてトンヌラは腕を組む。何も起きない。それが一番の成果だった。


「おかわり、あります!」


コムギの声だけが元気に跳ね、背中の巨大リュックもいっしょに揺れる。おたまが陽にきらりと光った。


ガルドは真顔で言った。


「体が……裏切らない」


「いい表現ですね!」


コムギは満足げに頷く。


「裏切らない体は、栄養バランスの勝利です!」


裏切らない体という新しい宗教が生まれそうだった。



コムギの補給は派手ではない。剣が光るわけでも、魔法が唸るわけでもない。ただ疲れが遠のく。


空腹が一段だけ軽くなる。その一段がやけに大きい。


「今日の配分、我ながら完璧です」


胸を張るコムギに、トンヌラはうなずいた。

強いこだわりを感じる圧があった。

ガルドは椀を両手で持ったまま、小さく息を吐く。


「……立ちやすいです」


コムギは即座に反応する。


「はい! “立ち続ける人”は、糖分を切らしちゃだめです。気持ちが折れると、足が止まります」


ガルドの背が、ほんの少しだけ伸びた。



昼過ぎに街道で小さな揉め事があった。

休憩地点の焚き火跡で、別の冒険者が鼻で笑った。


「補給なんて誰でもできるだろ。鍋と塩があれば終わりだ」


コムギの肩がぴくっと動く。

幼い顔が、ほんの一瞬だけ大人の顔になる。


だが次の瞬間——


ガルドが、静かに前に出た。ただそれだけで、空気が変わる。言い争いの温度が、サーッと下がった。


相手は目を逸らし、ぼそっと言った。


「……やっぱいいや」


去っていく背中は、負けたというより“揉める気が失せた”という歩き方だった。


コムギはぽかんとした。


「今の、守ってくれたんですか?」


ガルドは困った顔で首を振る。


「立ってただけです」


トンヌラが笑う。


「それが効くんだよな」


コムギは眉を寄せる。


「理屈が合ってません!」


「自信持って立ってたら、それっぽく見えるもんだ」


トンヌラは軽く言って、腕を組み直した。



そしていつも通り、誤解が芽を出す。


通りすがりの冒険者が、ひそひそ声で言う。


「見たか? 今の」

「あのガルドが前に出た瞬間、空気が変わった」

「いや、原因はネームレスだろ。あいつが後ろにいると…なんだっけ」


ガルドが固まる。

コムギも鍋を抱えたまま瞬きをする。


トンヌラは、ため息もつかずに言った。


「知らん。立ったのはガルドだ」


受け流し方が雑だった。

それが逆に、聞いた側の想像を補強してしまう。


「ほら、否定しない」

「やっぱり……」


誤解は静かに、デフォルトに戻っていく。



夜。焚き火の前。


コムギは鍋を抱えて、ぽつりと言った。


「わたし、戦えないのに……」


肩の力が抜けた声だった。

弱音というより、確認に近い。


トンヌラは薪を放り込むと、火がパチっと音を立てた。


「戦わない役目もあるだろ」


「そんなの、冒険者っぽくないです」


「冒険者っぽさって、栄養あるのか?」


コムギは少し考え、


「……ないです」


小さく笑った。

その笑いは、今日一日の緊張をほどく笑いだった。


ガルドが椀を見下ろして言う。


「でも、今日も……倒れませんでした」


コムギは顔を上げる。


「倒れないのは、正義です。派手じゃなくても、ちゃんと勝ちです」


トンヌラが首をかしげる。


「勝ってないだろ」


「負けてないです!」


コムギは即答した。

勢いだけは、やっぱり戦士だった。



火が落ち着く頃、コムギはふと二人を見た。

怖い人たちじゃない。

得体が知れないのは、むしろ——優しさの方だ。


ガルドは、立つことで守る。

トンヌラは何もしないと言うが、1日同行してみて、彼が後ろにいるから、ガルドが安心して立てるのがよくわかった。


(……いい人たちだな)


胸の奥でそう思って、鍋を抱き直す。

その抱き方が、昨日より少しだけ自然になっていた。


明日の材料をもう一度数え直した。自分はやるべきことをやるだけだ。



ここはレイアノーティア。

勝たないことで進む道もある。


——そして日常は、だいたい最強だ。



第12話 了

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